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第14話 本


 セリアは起きてからもしばらくぼーっと夢の内容を考えていた。夢の中の4人の額にあった黒い入れ墨の模様を思い出す。


 あれは……どこかで――。


「ぁあっ!!」


 セリアの脳裏に急に1冊の本が閃く。それは、帝国の図書室で借りた『諸外国の風習―禁忌と謎―』という本だった。その中に、あのような模様の入れ墨のことが載っていたのだ。


「あの本を読んだ影響が今頃夢に出てきたのかしら?」


 セリアは1人つぶやく。しかし、気になるのはリースミントやガーラントと共に寝ていた他の2人のことだった。見知った顔でないにもかかわらず、顔立ちなどはリースミント達にどことなく似ていて、肌の質感まで鮮明に思い出せるほどはっきりしていた。


 そのことがずっと気になっていたセリアは、翌日森に来たラナハルト達に、その夢のことを話して聞かせた。すると、2人の様子に緊張が走る。


……セリア、その2人はどんな姿だったかもう少し詳しく教えてくれるか?……

……ええ、髪の色くらいだけど、1人はリースミント王子の髪の色をもう少し濃くしたような黄緑色の長髪で、もう1人は……彼の方が年長だと思うけど、髪の色はラナと同じ濃い金色で、肩くらいまでの長さがあったわ……

……本当か……


 そう言うと、ラナハルトもピスナーも黙ってしまう。しばらくしてラナハルトの思念が再び届く。


……多分、それは皆、俺の弟達だ……


 なんとなく、2人の沈黙から予想はしたが、それを聞いてセリアの表情は暗くなる。


……セリアは他の王子には会ったことはないし、容姿についても知らなかったよね?……

……ええ……


 念の為といった感じで訊いてきたピスナーにセリアは返事をする。


……でも、額の入れ墨のことは、以前似たような物を本で見たから、この前ラナ達が教えてくれた『クグの町に昔呪詛の噂があった』っていう情報と相まって、夢に出てきたのかもしれないわ……

……ああ、そういう可能性もあるが……でも、セリアは以前も夢でリースミントの危機を当てているしな。思念の能力も訓練して強化したんだろ? だから、何か真実と結びついているかもしれない……

……そうですね。セリア、因みにその以前読んだ本では、その入れ墨について何と書かれていたの?……

……ええっと、確か、大陸の北方の民に伝わる呪詛があって、現在ではその使用は禁忌とされているっていうことだったわ。呪詛の種類には色々あるみたいだったけれど、結構恐ろしい内容のものが多くて、あまり読まなかったの……

……そうなんだね。でも、今聞いたことは地域的にも今回の件と合っているよね……

……ああ。呪詛などというのは馬鹿げているようにも思えるが、セリアの夢ということで信憑性が増すな。セリア、ありがとう……

……ううん、結局解決法ではないし……あっ、そうだわ!……


 セリアは、夢でチッチの歌が聞こえていて、その歌声が大きくなった時に、4人に反応があったことを思い出して提案する。


……だから、チッチの歌声をカトラスタにいるリースミント王子とガーラント王子に聞かせてみてはどうかしら?……

……なるほどな、もしかしたら俺だけが大丈夫なのも、こっちに滞在中にチッチが密かに歌で護っていてくれたからかもな。でも、チッチと話せるのはセリアだけだろ? こっちに来てくれるのか?……

……こっちはかなり落ち着いて来て、国政も皆がそれぞれの部門で舵取りをしてくれているから、少しなら大丈夫だと思うわ。お祖父様とお祖母様にも聞いてみるわね……


 セリアは、カトラスタにいつも助けられていると感じており、何か返せないかといつも考えているので、国内が落ち着いてきた今、少しでも助けになりたいと思う。


 祖父母に話した所、2人とも満面の笑みでカトラスタ行きを賛成してくれた。


「セリア、アイーダと2人で留守番をしている故、なんの心配もせずに行ってくると良いぞ」

「そうだ。国を汚すような輩がいれば、私の剣の餌食としてくれよう」


 そう言ってふふっと微笑む2人を見てセリアは、心の底から信頼できる家族の存在に改めて安心感を覚える。


 カトラスタへは馬に乗って行くことにした。帝国でトラスに付き合ってもらって練習した甲斐があり、馬車で行くより早く行けることが嬉しい。


「姫様、もう全然1人で大丈夫ですね」

「そうね、ラナ達も褒めてくれるかしら?」


 そう言ってセリアは微笑んだが、トラスは少し苦笑いになり、「ラナハルト王子はがっかりするかもな」と心の中でつぶやく。


 日暮れ前にカトラスタの城へ辿り着いたセリア達を出迎えたラナハルトとピスナーは、騎乗したセリアの姿を見てとても驚いていた。


「うふふ、びっくりした?」

「すごいな……帝国で練習したのか?」

「もうすっかり様になっているね!」

「うん、トラスの教え方が良かったのよ!」

「ふ~ん、トラスが……か」


 何か意味ありげな様子でトラスを見るラナハルトを、セリアは不思議そうに見つめたが、トラスは背中にひんやりしたものを感じていた。


 そして、そんなちょっとがっかりした様子のラナハルトの頭の上に、その空気を消すようにボヨ~ンとチッチが着地する。


「うおっ、チッチか! 更に大きくなったな!」


 すると、そんなラナハルトの声をかき消すように、後ろから歓喜の声が聞こえてきた。



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