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第10話 興味

 貴族が税を納めるなんて発想は隣接している7ヶ国の中でもない。税は平民が納めるもので、その収入で国や貴族が成り立っていると言っても良かった。平民の数が圧倒的に多いので、それで困りはしなかったし、政策を担っているのが貴族なのでそもそもそんな議論は持ち上がらなかったのだ。その為、ラナハルトにとってセリアの考えは、これまで考えつきもしない斬新なものだった。しかし、元来平民の暮らしもよく見て育ったラナハルトにとっては、平民だけでなく金持ちである貴族も税を納めるという考えは割としっくりきた。


……セリア、その考えを国に伝えようとは思っていないのか? ……

……そうね、そういうことができれば良いのだけれど……残念ながら私の声はどこにも届かないの……

……そうなのか。しかし、君の先生というのは意見を聞いてくれるんだろう? ……

……そうね。でも、先生に迷惑をかけたくないから……

……他には誰かいないのか? ……

……他には……誰もいないわ。あ、でもチッチがいるわね! 私の鳥のお友達の。でも、チッチは人間じゃないから、私の声を誰かに届けるのは無理ね……


 そう言うとセリアは、ふふっと少し寂しそうに笑った。


 その日、森からの帰り道、ラナハルトは考え込んでいた。セリアが言った税に関する斬新な意見のこともあったけれど、セリアの声からたまに感じる悲しげな雰囲気と、周囲に頼れる存在がいないかのような発言の数々に、それまで幸せに過ごしていると思っていたセリアに深い事情があるような気がしてならないのだった。


「ラナハルト王子、どうかされましたか?」


 いつもと違う様子にピスナーは心配になる。

 最近の王子はよく森へ通う。しかし、森へ着いても何も話すことはなく黙って何かに集中しているのだ。ピスナーにはこれほど王子の考えていることが分からないということは今までなかった。


「ピスナー、税を貴族からも徴収するというのはどう思う?」

「は、はい? えーっと、まず貴族の大反対に遭うでしょうが、実現すれば平民の不満の軽減にも繋がりますし、勝手をする貴族への抑止にもなるかもしれませんね。下手なことをして税を更に上げられるのは貴族も嫌でしょうから。税率によっては国の収入も大きく上がりますし、それによって出来る国の事業の幅も広がりますね……しかしなぜそのようなことを?」

「はは、さすがだなピスナー。お前は頭の回転がいい。いや、ちょっと興味があってな」


 そう言うと、王子は何かを思い出したかのようにニヤッと笑った。ピスナーはそんな王子を見て、相変わらず何を考えているのか分からなかったが、さっきよりも少し明るい表情になったのでほっとする。



 それからラナハルトは以前より更にセリアに興味を持つようになった。小さい頃から、王となる為の教育を叩きこまれてきたラナハルトからしても、セリアはとても聡明だった。様々な話題にもついて来る。しかし、セリアにも苦手なものがあり、それは本当に普通ならなんでもない流行の食事の話だったり、平民の祭りで売られている土産物のことだったりした。セリアはそういう何でもない平民の町での様子なんかが一番面白いらしく、ラナハルトが話すのを心待ちにしているようだった。


「王子、なんか最近はとても嬉しそうに森へ向かわれますね? 特に何をするでもないのに」


 ピスナーにそう指摘されて、ラナハルトは今更ながら、ピスナーにとっては無言で退屈な時間を過ごさせていたと反省する。


……セリア、俺だ……

……こんにちは、ラナ! ……


 嬉しそうに弾んだセリアの声を聞いて、ラナハルトも嬉しくなる。こんな風に普通に話せる友達というのは、もう随分昔に居なくなっていて懐かしい感覚だった。今はピスナーが一番近い存在だが、次期王として認識されるようになってからは、子供の頃のようにはいかなくなっていた。もちろん、心の中では友のままなのだが。そんな長い付き合いの友に、このまま秘密めいた行動に付き合ってもらうのは悪い気がしていた。


……セリア、頼みがあるんだが。俺の友とも会話できないだろうか? ……


 ラナハルトはこれまで一緒に森に付き合ってもらっていたことを話した。そして、友達に話すから、少しして合図をしたら思念の会話ができるか試してみて欲しいと言った。


……まぁ! そんなお友達がいたなんて、私知らなかったわ! それはつまらなかったわよね……とりあえず試してみるわね……


これまで、ラナ以外にはいないと思っていたし、勝手に他人の思念を読み取らないように制御していた為、全く気が付かなかったのだ。そこで、ラナから合図を受け取ると、制御を外してまずは思念をキャッチすることから始めた。これはこの前の蜂騒動の時もやったし、更にあの時から能力が上がったことを考えると容易なことで、すぐに相手の思念が掴めた。ラナから説明を受けたらしい新しい友達は、ちょっと動揺しているような感じだけれど、この不可思議な事を受け入れて、こちらの思念をキャッチしようとしてくれているのが分かった。そこで、少し強めに思念を飛ばしてみることにした。


10話まできました。

初めて投稿した作品にもかかわらず、沢山の方に読んでいただけてとても嬉しい毎日です。

1週間経ちましたら、活動報告にて改めてお礼を書かせていただきます。

(活動報告……うまく使えるかな 笑)

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