魚雷の代打
「すると君ら65名は、67年後の未来から来たというのか?」 米内光政大将は、圧迫感のある声で沖田に聞いた。「ここまで来てしまったのも、何かの縁でしょう。厳龍を日本海軍の為に使う覚悟は出来ております!」
「沖田大佐、例のものを。」
「はっ!」
沖田は、呉の海軍ドックで職人に作らせた厳龍の設計図と89式魚雷及びハープーン級USM(対艦ミサイル)の設計図の合計三枚を米内大将に差し出した。
「67年後ともなると、次世代の近代的兵器を想像していたが、姿や形は今とそんなに変わらないなぁ。」
「それは見た目だけの事です。厳龍1隻で、この時代の列強は倒せます!」
「未来から来たという事は、この戦争の行く末も知っておるのか?」
「私の元いた世界なら、これから何が起こるかは知っています。」
「しかし、こうやって来てしまった以上、厳龍が戦争に投入される事は避けられませんし、歴史は変わるでしょう。ただ、この状況下で早急に89式魚雷やハープーン級USMの生産が出来ればの話にはなります。」
「と言うと?」
「厳龍の魚雷発射菅は六門しかありません。つまり、魚雷がなくなればただの性能の良いsubmarineでしかありません。日本海軍の一員として戦うには、我等の使う兵器が安定的に供給される必要があります。」
米内大将は物分かりの良い男だった。
「沖田大佐、いや沖田君。君も承知の通り、我が日本海軍は各戦線で大苦戦を強いられている。今や人間を乗せた片道燃料しか積み込んでいない航空機で、体当たりをする特別攻撃隊までを投入している。苦しい戦況だ。現在日本海軍が保有している、君たちにとっては旧式かも知れないが、その旧式魚雷で何とかのりきってもらいたい。その間に君からもらった設計図で89式魚雷の試行錯誤はしてみるつもりだ。」
「分かりました。では我々は何をすれば良いでしょうか?」 沖田は早くアメリカと戦いたかった。しかし、旧式の酸素魚雷を厳龍で使う事は、可能なのだろうか?沖田に一抹の不安が残った。