新しき世界へ
アメリカ海軍は、跳梁跋扈する厳龍に手を焼いていた。
いくら金を注ぎ込んでも、確実性のない攻撃ばかりを続けていても、このsubmarineには、致命的な打撃を与えられていなかった。
代わりに増えるのは、厳龍に面白い様に沈められていく、艦船の屑鉄と、アメリカ海軍の兵士の亡骸であった。
例え、敵の一部の情報が分かっても、未来兵器を徹底的に研究しても、現状の技術力では必殺兵器を作り出すのは、不可能だった。
アメリカ海軍が、思うように戦いを進める事が出来なかったのは、日本海軍の兵器が怖かったからではない。厳龍という怪物が、一匹いた為、制海権を日本より優位なように出来ていなかったのである。
物量と人員の数では勝っていても、供給量が追い付いていなかった。厳龍によるアメリカ海軍の被害は、生易しいものではなかった。
日本海軍も、またこの最強の深海の暗殺者を上手に利用していた。
きちんと休ませる所は休ませながら、効果的な運用が出来ていた。指定した場所に向かわせれば、あとは厳龍乗員に任せきりだった。
そのように、日本海軍が戦闘において何も口に挟まなかったのは、厳龍乗員にとって有難い事だった。
世界の覇権を争う2国の戦いは、間もなくクライマックスを迎えようとしていた。
厳龍という現代の最新鋭submarineがタイムスリップしてやって来た事により出来た、新しい歴史は先の分からない、未開の地を歩くように、沖田達も、この世界の人達も未到の領域へと、踏み出そうとしていた。右も左も見えないまま。




