どんぶり勘定
確かに、アメリカは講和後も不穏な動きを、見せているのは事実であり、その情報は間違っていない。
井上大将の言動からも分かる様に、大本営だけでなく、日本海軍上層部としても、アメリカは依然として仮想敵国であり、イギリスと共になんとしても葬り去っておきたい、という思惑はあった。
沖田は、井上大将との会談を1時間で終えた。その会談の主旨を要約すると、2点になる。
1点目は、アメリカと再び戦火を交えようとしていること。
2点目は、アメリカ国民の民意が、黙っていない事。(第二次日米決戦)ということの2点である。
今度はもしかすると、アメリカ本土や北米大陸が、戦場になるかもしれないし、日本本土に敵の上陸を許すかもしれない。
そんな事を考えながら、沖田は東京発広島行きの列車に乗った。護衛には、外杉中尉と門人二等兵がついていた。
「人使いが荒いとは頭では分かっていたが、本当に荒かったな。」
「確かに、世の中は終戦だ!何だって騒いでるのにこんな命令ですからね。」
「大本営のどんぶり勘定も、ここまで行くとすさまじいですね。」
「一応、断っておくが、この事は他言無用だ。いいな?」
「はい。もちろんです。」
「俺達が休まる日は無いかもな。」
「そんな不吉な事言わないで下さいよ。」
「冗談だよ。」
「しかし、勝算はあるのかね。俺にはどうもそうは思えん。」
「今回はやっとこさっとこの講和ですからね。」
「当分はというか元の世界に戻れぬならずっと……。」
「帝国海軍にこき使われる事になるだろうな。」
「アメリカも、その内厳龍のテクノロジーに追い付いて来ますね。」
「それは、日本も同じ事ですよ。まぁどうなるか分かりませんが。」
「いずれにしても、当分先の事だ。その前に俺達は死ぬ。」
「病気か事故がいいなぁ。戦死の可能性も高そうですが……。」
「どんな死に方でもいいけど、痛いのはやだな。」
沖田は呉基地に着くと、64名を集めて今日の井上大将との会談の話を伝えた。
厳龍は3日間の休養を経て、再び作戦を遂行出来るよう、万全を期して待機命令が出された。




