カツサンドとライト
その後3人の意見は折り合う事なく平行線をたどっていた。そんな展開を打破したのは、夜食を運んで来た雨宮二等兵だった。
コンコン
「はい。どうぞ。」
「失礼します。夜食を持って参りました。」
「気が利くな。」
「一旦休みましょう。」
「腹が減っては戦は出来ませんからね。」
この日のメニューは、カツサンドであった。験を担いでもらうために兵糧科の相田中尉が、考案したものだった。カツサンドを頬張っていると、倉沢少佐が手を止め食べるのをやめて、雨宮二等兵をじっと見つめて言った。
「雨宮二等兵、お前右手に持ってるのは、ライトか?」
「はい。右手にライトを持っております。ここまで来るのに暗いといけないからと、相田中尉に渡されました。」
「それだよ。雨宮二等兵‼」
倉沢少佐は、雨宮二等兵の両肩を掴んで握りしめた。そこからは、倉沢少佐のマシンガントークだった。
「艦長、井浦少佐よく聞いて下さい。停泊中の艦船は、必ず灯火して停泊しているはずです。敵もまさかこんな占領済の島まで、日本海軍の潜水艦が来るとは思っても見ないはずです。それに、米内海軍大臣の囮も簡単にたどり着けました。もし、このまま早朝(4~5時)に着くならば、その灯火を目掛けて雷撃すれば、かなりの確率で当たるでしょう。その前に必ず潜望鏡で、敵艦船の位置と灯火していることを確認するリスクはありますが…。」
「よし、そうと決まれば速力を上げ、全速前進でテニアン島に向かおう。」
「雨宮二等兵、君のおかげだ!」
「いえ、お役に立てて光栄です。」
そう言うと、食べ終わった食器を持って、お手柄のライトをポケットにしまい戦闘指揮所を後にした。
「テニアン島(原場海域)まであと残り5時間です。」
ここは水雷長の倉沢少佐が妥協点を見つけて、折り合いが着いた。今後も3人の意見が割れても、今回のケースのようにスムーズに3人の意見が折り合うとは限らない。その時はカツサンドではなく、沖田艦長の器が試されるだろう。




