厳戒態勢ヲ持続セヨ
呉のドックに入っている間も、その存在の異質さから常時3名の隊員が、見張りという名の整備員補助をしていた。士官(大尉以下)1名と、下士官・兵から2名という編成であった。この日の見張りは小野大尉と大杉曹長と法野一等兵であった。3名とも今回が、初の見張り任務だった。「折角の休みが、よく分からん任務で潰れたな。」「万が一の事もあっての事でしょう。お気の毒ですが…。」「自分のような下っ端ならまだしも、お二人のような上の方まで…。」「何だ法野一等兵、こんな年になってまで見張りをやってちゃ悪いか?」「そう言いたいのか?だとしたら鉄拳制裁ものだな。」「いえ違いますよ!他にやらなきゃいけない事もあるのに、と思いまして。」「まぁそうだな。そういう事なら今回は見逃してやる。」「この任務は、設備している兵士(帝国海軍兵士)に何かを聞かれたら、答えてあげるんですよね?」「でもここの人は…。」「優秀だな。67年後の技術水準に順応している。」「正直、自分などより余程詳しいと思います。」「でもここの見張りはあと何回やれば良いのでしょうか?」「そうぼやくな。陸地にいるだけまだましだ。出撃命令が出たら、厳龍にずっと缶詰めだぞ。」「元の世界に戻れるなら戻りてぇな。」「私もこんな緊張感だらけの日々はこりごりです。」「でも、実戦で敵艦を沈めるのは楽しいかも…。」「小野大尉も不謹慎なこと言いますね!確かにそうですが。」「潜水艦なんてどれも一緒と思っていましたが、違うんですねぇ。」「この時代の平均的な潜水艦に比べれば、厳龍は…。」「人力車とAT車並みの差になりますかね?小野大尉!?」「カボチャの馬車とベンツくらいっていうのも、どうでしょうか?」「二人とも、よく思い付くな!まぁそんな感じだ。」「あ!交代の3名が来たようですよ!やっと交代か。」(出撃まで酒でも飲むか?いや、やめとこう。)この三人の会話に見るそれぞれのピースこそ、部下の本音である。沖田もこうした事を把握しておくのも、艦長の役目だと思う。




