揺れる想い
呉基地を出航してから、現場海域までは約2日程かかった。テニアン島周辺に配備される予定の新型爆弾を上陸前に叩く為に、厳龍は敵のレーダーに捕捉されない位置まで潜航して、攻撃目標の艦船が現れたら、雷撃する事が出来るように準備をしていた。
沖田は水雷長の倉沢少佐と会話を何度もしていた。普段はおしゃべりをあまりしない沖田が、おしゃべりになるのだから緊張していたのだろう。
「倉沢少佐、敵目標艦船は○×○で良いのか?」
「艦長、何度も言いますが米内海軍大臣は○×○と言っておられました。多分潜望鏡員の設楽少尉に確認すれば、間違いないでしょう。」
「時間との戦いだぞ。」
「承知しています。」
「この海域にいられるのはどのくらいだ?井浦少佐。」
「あと6日と19時間です。作戦が成功するに越した事はありませんが、万が一このタイムリミットを過ぎる様な事があれば乗員64名の、命の保証は出来ません。」
「命を取るか、日本の未来をとるか?」
「難しい選択ですが、優先すべきは64名の厳龍乗員でしょう。我らの無事の方が大切ですよ。」
「それで良いのだろうか?」
「私は艦長の命令に従います。」
「あなたがぶれてどうするのですか?厳龍が沈んでしまえば、敵の新型爆弾を破壊出来なくなるんですよ。我々が生き残っていれば未来へのチャンスがやって来ます。」
「たしかにその通りだな。」
知識と腕もある沖田だったが、それは平時の訓練に過ぎなかった。刻一刻と変わって行く戦況の中で、部下の命を預かり正しい方向に導くためには、何よりも経験と冷静な判断力が必要であった。沖縄とは異なる状況でも、結果を出さなければ、日本の未来に傷を残す事になってしまう。




