良いコンビ
「まぁ、いろんな理由があってこういう集団(軍隊)に身を置いてるんだから、仕方ないと言えば仕方ないな。」
「伊沢少佐はどこの配置なのですか?」
「一応機関科の副長だ。」
「機関科のNo.2と言えば、あの山下中佐の部署ですか?」
「厳龍一の鬼士官山下中佐が俺の上官。」
二人は笑い合っていた。階級は天と地ほど差のある二人であったが、艦内や基地外に出てしまえば、少し年の離れた上司と部下であった。
「何だかこの時代の飯は懐かしい感じがします。」
「そりゃそうだろ。67年前の飯なんだから。俺達は所詮この時代には居ちゃいけないお訪ね者さ。」
「でも、平和な時代にいたら味わえない事を沢山経験出来ていると思います。」
「一番下っ端のお前がそう思っているなら、皆そう思っているだろう。おっと、酒を飲みたくなったらコーラかコーヒーだったな。」
「はいどうぞ、コーヒーです。」
「タバコ吸うか?」
「ありがとうございます。頂きます。」
「今度はいつ戻れるか分からんらしいからな…。」
「伊沢少佐は高級幹部のような感じが全くしないのですが?」
「自分でいうのも何だか、変わっているからな俺は。」
「次に日本の土を踏む時には戦況も良くなっている事を、祈りたいものですね。」
「おい山川二等兵、そろそろ戻るか?」
「伊沢少佐がよろしいのであれば。」
二人は実は以外にも良く似たバランスの取れたコンビで、漫才をやらせたらブレイクするかもしれない。そんな感じがした。ちょっと変わっているが、憎めない士官と、しっかり者の下っ端二等兵の久しぶりの外出は、こうして幕を閉じた。潜水艦乗りにとって、地上から艦に戻る時は、覚悟を決めなければならない瞬間でもある。海の底で藻屑となるか、または生きて戻るか、その二つに一つしか選べないのが、潜水艦という兵器の特性上仕方のない事ではあった。




