昭和の呉基地
自衛隊にも階級はある。沖田一佐は、帝国海軍でいうところの大佐にあたるものであり、佐官は立派な士官である。下士官からの叩き上げではまずなれない。
風呂場も、士官と下士官・兵では違ってくる。その風呂場で厳龍乗員は異変に気付く。確かにここは、住み慣れた海上自衛隊呉基地の入浴場である。ところが、脱衣場にある制服は長い航海で汗臭い自分達のものとは、少し違っていた。
沖田は少し違うという所から、これが日本海軍の(大日本帝国海軍)のものであると確信する。沖田は、5分足らずで風呂から上がり、基地司令の元へ走った。そこで全ての真実を知ることになる。沖田は賢い男であった。脱衣場にあった帝国海軍士官のものと見られる純白の製品を、自分の来ていたものとこっそり変え、警衛(憲兵)に怪しまれない工作をしていた。厳龍乗員が、呉基地の正門で怪しまれかったのは、偶然もあるが、制服に着替えさせた艦長沖田の、お手柄であった。
何はともあれ、他の乗員や自分の身を守る為には沖田は、一刻も早くここのトップである、呉地方総監に当たる基地司令の海軍将校に話をつけなければならなかった。沖田は緊張するタイプの男ではなかったが、未知の時代の帝国海軍将校に、何とも言えない不安と動揺の感情を抱いていた。
「呉基地司令殿はどこにおられるのだろうか?」
明らかに位の低そうな下士官を捕まえて、その時代らしい話方をした。
「私なんかよりも中佐殿の方が詳しいかと思いますが、あの建物に上田司令はおられると思います。」
別れの敬礼をして、その下士官とは別れた。この服の持ち主は、中佐殿であるという事を沖田はふと思った。いかんこうしてはいられない。急ぎ上田司令の元へ行かねばならん。沖田は、目的の建物に入っていった。事前に入ってリサーチしていたわけでもないが、沖田は建物こそ違えども、2012年にあった海上自衛隊呉基地にあるような、初めての気がしない感じを受けていた。