英国王の英断
「スナイダー首相?状況を報告してくれ。」
「陛下、残念ながら米国の信頼にたりうる英国の戦力には到底及ばなく、英国沖に展開している日露仏聯合艦隊の圧倒的な戦力の前に降伏するか、核攻撃を行うかの2択になっています。陛下、英国王室を守るいや、英国民を守る為にどうかご英断をお願いします!」
「英国王室としては、これ以上の戦争継続には反対だ。だが、何もせず降伏したとあっては、戦争後の英国民の国益に深刻な影響が出るだろう。スチュアート大将?英国海軍としては少しでも、米国の為に日仏露軍の戦力を削ぎたいところではあるが、どうなんだね?核兵器使用を許可すれば、戦況は変わるのかね?」
「陛下、残念ながら核兵器使用は海軍としては進める事はできません。これは、陸軍も空軍も同じ意見です。」
「スチュアート大将?ロシア海軍提督エフゲニー・ニコライ上級大将に降伏の旨を伝えてくれ。それから、スナイダー首相?日本の自衛隊とフランス海軍の艦隊を英国沖10マイルの位置で集結させてくれ。」
「ロシアの艦隊はどうしますか?」
「スチュアート大将の報告によれば、ロシア海軍は原子力潜水艦を数隻展開しているに過ぎない。今、英国の脅威になっているのはフランス海軍の原子力空母シャルル・ド・ゴールと、日本の海上自衛隊のもがみ型護衛艦だ。陸軍中将アナサルの見解は、制海権と制空権の確保で、英国本土への直接侵攻はないとしていると聞いている。陸軍による交戦がないのならば、海軍の原子力潜水艦部隊で、なんとかしのげないか?米国海軍の原子力潜水艦部隊も援軍に来ている事だし。」
「ジョージ3世国王陛下!その軽率な判断は英国民を危機的な状況に陥れる結果となるでしょう。陛下、米国の対日戦争にこれ以上英国を巻き込む事態は、国益にかないませんよ。」
「スナイダー首相?英国政府見解としてはどうなんだね?軍部はもうお手上げ状態になっているようだが?」
「全く策がないと言う訳ではありませんが、残念ながら米国の空母打撃群の援護が無い以上、英国政府としても降伏、あるいは限定的な武力行使に留めておくのが、得策かと。」
「マリア空軍大佐を呼べ!」
「は?マリア大佐は今、英国政府専用機でワシントンに向かっていますが?」
「何だと?マリア大佐の指揮する戦闘機群が無ければ、制空権など取れるはずがないじゃないか?制海権だって、クイーンエリザベス級空母を展開させても獲得は難しいとなると、降伏一択になるじゃないか?」
「陛下、我々英国政府は王室の英断を尊重致します!欧州を第三次世界大戦の戦場に発展させないためにも、ここは全面降伏致しましょう。」
「後でそれは無かったことにしろと言われても無理だぞ?」
「伝統と格式ある英国王室を守る為には、ジョージ3世国王陛下の一存に託されています。いいですか?英国は世界大戦を望んではいないんです。そもそも、対日関係は良好で米国との同盟に見切りをつければ、この国難は回避出来るはずです。」
「簡単に言ってくれるが、英国単独の個別的自衛権だけでは英国を守りきれないんだぞ。」
「ならば、新たな同盟国を探せばいいではありませんか?アフリカや中東諸国、ひいてはアジア太平洋、それから反米感情の高い南米諸国を味方につけることは、核使用よりは確実にハードルの低い外交的な問題であり、国際的に信用度の高い英国王室の外交能力と、政府の努力によっていくらでも打開出来る事であります。」
「で?その外交能力で結果は出せているのかスナイダー首相?」
「そ、それは…。」
「英国王室は飾りなんかじゃないんだぞ?」
「それは、百も承知しております。」
結局、英国王ジョージ3世は、核使用をしてまで反撃する暴挙には打って出なかった。これを受けて、英国沖に展開していた日仏露聯合艦隊は撤収し、英国が米国との同盟を離脱し事なきを得た。
「英国王は賢明な判断をしたな?山田三佐、これで、対米包囲網はさらに縮小したな?」
「いえ。これくらいの事では、米国はびくともしないでしょう。ただ、英国王ジョージ3世の英断により、第三次世界大戦と言うのは不適切な言葉になった様ですね。」
「山本閣下?それより、ニコライ上級大将から預かった例のスイッチを、田中総理に渡して下さい。」
「もう渡したぞ?田中総理はご満悦の様子だったが…。」
「そうですか…。」




