令和版戦艦大和と零戦の開発提案
「山本閣下、お帰りになられたのですね。」
「久し振りに外の空気を吸えて、いい気分だよ。」
「すみません。潜水艦なんかに閉じ込めてしまう形となって…。」
「山田三佐?君は私の命を案じていたのだろう?」
「はい。しかし、残念ながら米国には既に山本閣下の存在は漏れてしまいました。ですから、これからはGMATが護衛致しますので、どうか安心して、自衛艦隊の司令官として前線で指揮を執っていただきたい。」
「分かった。そこで提案なんだが、令和版戦艦大和を建造してみてはどうかね?それと零戦の様な世界最強クラスの戦闘機を開発し、米国空軍に負けない航空防衛網の構築を提案したいのだが?」
「令和の時代に戦艦ですか?確かに自衛艦隊の旗艦としての役割には、それなりの存在意義を発揮するとは思われますが、いかんせん戦艦の時代は等の昔に過ぎ去っていますが?令和版零戦計画の方は、確実に航空自衛隊の方に働きかけたいと考えています。」
「遂に米国海軍戦艦アイオワ級との戦艦艦隊決戦は実現せず、初代大和や、 武蔵と言った戦艦は無用の長物に成り果てたと聞いてはいたが、山田三佐?今の時代だからこそ、自衛艦隊には二代目戦艦大和が必要だと私は思っている。世界最強の対潜水艦作戦能力と、掃海能力を合わせ持った海上自衛隊ならば、米国海軍に負けないだけのインパクトのある艦隊を保持すべきでは?」
「山本閣下のおっしゃる通りです。自衛艦隊の旗艦には大和の様な世界最強クラスの戦艦が必要なのかもしれません。ですが、それを待っている時間が無いんです。」
「時間は作り出す物だ。幸いな事に、日本の自衛隊は米軍とは違い、世界的に信用がある。今は態度を保留している中東・アフリカ地域の日本に対する評価は、力による世界支配を目論み国益の為だけに世界進出している米軍とは異なるものだと、欧州から帰って思う様になった。特にいの一番で同盟に参戦してくれたロシアの反米感情は、並大抵のものではない。」
「ポルシェニコフ大佐もおっしゃっていました。我々ロシア海軍の潜水艦隊は米国を倒す為に、ソ連崩壊後の35年間周到に準備してきたと…。」
「NATO崩壊はユーロファイターと言う日本の外務省特務機関が工作したものだが、これでもう欧州も米軍の顔色をうかがう必要無く、一枚岩ではなくなった。米国最大の同盟国である英国は今、完全に包囲されている。核戦力を使う恐れはあるが、日本の自衛隊と露仏聯合艦隊の力を持ってすれば、それは恐れるに足らないものだ。と、認識しているが山田三佐?是非ともあの日本海軍が失敗した戦艦戦略で、私を対米国戦争の勝者に導いてはくれないか?」
「山本閣下?日本の自衛隊の予算と言うものを全く度外視すると言う前提ではありますが、これには市ヶ谷の防衛省だけでは決められません。決定権はあくまで自衛隊の最高指揮官である内閣総理大臣田中恵理首相の手の中にあります。それに、衆参両院の国会議員の賛同と国防費の財源を賄う日本国民の賛同がなければ、令和版戦艦大和構想は空論に終わるはずです。残念ながら、日本国民の世論調査では長期的な対米戦争に賛成している国民はわずかです。第二次世界大戦の時の山本閣下が決断していた様に、短期決戦による早期講和。これは、GMATも同じ見解です。核戦力の乱用も考えられ、政治的判断を誤ればこの第三次世界大戦とも同意の対米戦争は、世界終焉の決定打にもなりかねません。勿論、戦争ですから犠牲は覚悟しています。ただ、この戦争の最終目的は核兵器の撲滅と、米国による世界秩序の破壊にあります。」
「なるほど…。では、ロシアや中国やフランスも米国を倒した後には、自衛隊の仮想敵国になると言う事か?」
「先の事は分かりません。外交で解決出来るならそれに越した事はありませんが、戦後80年の核兵器拡散の流れを見ると、武力による核兵器排除の方が現実的です。核武装している全ての国が核兵器を廃絶した時、初めて日本の勝利となります。それは、世界で唯一の戦争被爆国である日本に課された、イスラム教のジハード(聖戦)の様なものです。」
「理想は高いんだな?山田三佐?」
「それだけが、取り柄ですから。」
「令和版戦艦大和は建造できなくとも、日本の自衛隊は米軍に勝てるのか?」
「勝つために山本閣下をわざわざ渡仏させたのですよ?それに奥田三曹から聞いていませんか?」
「何をだ?」
「自衛隊の戦力ですよ。」
「自衛隊の戦力?」
「第二次世界大戦の時の旧日本陸海軍の様な大戦力はありません。文官を合わせても自衛官の総数は陸海空各自衛隊合わせても約30万人。人口減少期の今の日本で、徴兵制度の復活が出来たとしても旧日本軍には数では到底及びません。」
「数より質の時代だと奥田三曹は話していたが?」
「山本閣下は対米駐在武官の経験もあると知っていますが、相手は国力で日本を遥かに上回る超大国の米国ですよ?できるだけ短い期間で決着をつけなければ、米国による世界秩序崩壊など、夢のまた夢です。米国の軍事力はこの80年で更に拡大しています。」
「それを支えたのが、自衛隊だったとは皮肉だな?」
山本五十六自衛艦隊司令官の痛切な批判に対して、山田三佐は反論する余地は無かった。




