山本五十六元帥とハルゼー大将が転生した意味
過去の偉人に頼り切ると言う訳では無かったが、日米双方にとって、先の大戦の英雄的指揮官が転生した意味合いは、現場の戦意高揚に大きな影響力を与えていた。特に日本の自衛隊の場合、指揮官に戦争経験者がいない為外交力に頼らざるを得ない所があったが、肝心要のその外交力も、歴史的には諸外国に比べて弱いとされ、田中総理が憲政史上初の女性内閣総理大臣に就任して、その外交力は確かにここまでは機能していた様だが、自衛隊の最高指揮官としての能力には、疑問符をつけざるを得なかった。そんな最中で突如として現れたのが、山本五十六元日本海軍聯合艦隊司令長官であった。GMAT隊長の山田三佐はこれをフル活用する事にした。真珠湾攻撃を指揮した対米工作作戦の先駆者であり、カリスマ性も兼ね備えている。山田三佐は自衛隊に足りない物を、山本閣下に求めた。日本海軍は消滅したが、そのDNAを受け継ぐ海上自衛隊の最高ランクの指揮官である海将に山本閣下を据え、海上自衛隊の戦力の中心になる自衛艦隊の司令官に就任させた事は、既に述べた通りである。
一方の米国側にも似たような現象が発生していた。日本海軍を事実上壊滅に追いやった張本人である猛将ウィリアム・ハルゼー提督が米国海軍の救世主として、困難に立ち向かう米国の指導者達の前に現れたのである。CIAが山本閣下をマークしていた様に、GMATもハルゼー提督をマークしていた。時期がタイムリー過ぎるのが気に食わなかったが、現代の科学技術力では到底説明出来ないこの宿命のライバル達の存在が必ずや、日米戦争のキーパーソンになると思われた。
「山田三佐?少しよろしいですか?」
「どうした?井上一尉?君が私に意見するなんて珍しい事があるもんだな?」
「山本閣下とハルゼー提督の事なんですが?」
「2人の偉人が現れたのがそんなに不思議か?私はそうは思わない。これは神様が悪戯をしたと言うカルト的な話だが、何か宿命的なものを感じないか?」
「宿命的なもの…ですか?」
「空母打撃群による艦隊決戦を行ったのは、歴史上日本海軍と米国海軍だけだ。あの英国海軍も、ロシア海軍も、フランス海軍も経験していない希有な軍事経験であり、その経験は現代戦において、非常に貴重なものだ。だから私は、必ずハルゼー提督のマークを疎かにはしない。米国も同じ様に、山本閣下をマークしてくるはずだ。だから、山本閣下には窮屈な想いをさせてしまうかもしれないが、潜水艦せいげいからこの宿命の対決の末路を見届けて頂きたいと考えている。」
「絶対に負けられませんね!山田三佐?」
「あぁ、同じ過ちは二度と繰り返させない。」
「ただ、相手は世界最強の米国ですから、先手を取ったとは言え、まだまだ油断出来る様な状況ではありませんね。」
「聞く所によれば、中国と米国の両軍が太平洋沖の公海上で、武力衝突したとか?」
「互いに潰し合ってくれれば、日本としては完全に漁夫の利状態ですな。まぁ、放っておいても中国とはいずれ、何らかの落とし前をつけなきゃならんですからね。」
「米国としても、悩ましい所だろうな。どこまで核戦力に頼らず戦おうとしているか、GMATとしては分析して行く必要はあるな。」
その頃、ワシントンのホワイトハウスでは…。ハルゼー提督と参謀総長が喧嘩していた。
「ハルゼー提督?もうあの頃の日本や中国とは全然状況が異なるのですよ!」
「それは、私にも分かっている。しかし、英国を救うには綺麗事だけでは済まされない事くらい、制服組トップの君なら理解しているだろう?参謀総長、今決断せねば同盟国を失う最悪の結果を招く事になる。出し惜しみをしている場合ではない。」
「っく…。しかし、提督?大西洋艦隊に派遣出来る原子力空母は、2隻が限界です。」
「10隻も米国海軍には、原子力空母があるのにか!」
「ドッグ入りしている空母もありますし、通常動力型空母とは違い、原子力空母は定期的なチェックを怠れば、放射能汚染にクルーを巻き込む事態になります。ですから、常時展開出来る原子力空母は数が限られています。」
「ニミッツさんが生きていたら、無理を承知でも英国を助けるとは思わんか?」
「ハルゼー提督?英国が例え世界地図から消滅したとしても、米国には寧ろ余り影響力は限定的なのでは?」
「参謀総長?貴様は何を歴史から学んだのだ?既に米国の最大の同盟国日本は、またしても敵に回ったのだぞ?太平洋の要衝であり我々米国海軍が150年かけて獲得した、あの横須賀はもうロシア海軍太平洋艦隊にぶんどられたのだぞ?英国海軍の援護がなければ、欧州戦線での…いや大西洋の制海権は露仏聯合艦隊に奪われるだろうな。そうなると、これはもう海軍だけに留まる話ではなくなるな参謀総長?」
「ではどうすれば?」
「私に考えがある。佐世保の米国海軍基地はまだ健在か?」
「はい。在日米軍の司令官と司令部は横須賀から長崎の佐世保に移管しております。日本の自衛隊も、手が回っていないようで、佐世保は日本本土では沖縄を除けば、唯一の在日米軍基地になっています。」
「ならば、佐世保から日本に逆襲しようではないか…。」
ハルゼー提督は、その天才的なセンスで窮地に陥っている状況を変えようと、佐世保米海軍基地に向かった。




