米国の救世主猛将ウィリアム・ハルゼー提督現る
「そうか、英国は建国以来の危機に直面している様だなスミス大将?」
「マクドナルド大統領?NATO解散を目論む日露両国の政治的挑戦により、欧州各国は米国や英国を見限っています。いくら、原子力潜水艦を派遣しても、それは何の問題解決にはなりません。」
すると、一人の老人がホワイトハウスの大統領執務室に入って来た。
「誰だ!?」
「勝手に入っては…、まさかハルゼー提督ではありませんか!?」
「久し振りだな、スミス少尉?いや、今は大将だったか?」
「スミス大将?どういう事だ?ハルゼー提督はとっくの昔に亡くなられたはずではないのか?」
「随分、偉くなったものだなマクドナルド少年?私を覚えているか?」
「忘れるはずがないじゃないですか?ハルゼー提督は米国海軍の英雄であり、私の母方の父で血の繋がりのある御先祖様です。しかし、私の知る限り猛将ウィリアム・ハルゼー提督はもう亡くなられたはずですが?」
「私がここにいる経緯は既にCIAに報告してある。そこで耳にしたのだが、日本海軍の山本五十六提督が日本に現れたと言う事だが、それは誠か?」
「ハルゼー提督は、まさか山本五十六を追って死の世界から蘇ったのですか?」
「詳しくは分からんが、山本五十六の転生が私を呼び寄せた可能性は高いな。いずれにせよ、今米国は危機に直面しているのだろう?」
「猫の手も借りたい位ですから、ハルゼー提督の転生は米国にとって、これとない追い風になるでしょう。」
「マクドナルド米国大統領?勘違いするな。私は最早この世の人間ではない。神の悪戯でこんな事になった訳だが、米国海軍の指揮を執るつもりはない。スミス大将やハロルド中将と言った、私が育て上げた海兵達が必ずや米国の危機を乗り切ってくれていると信じている。ただ、第二次世界大戦で日本海軍を破った経験はある。それを活かした対日戦略の策定には関与出来る。国防省のエリート達にも猛将ウィリアム・ハルゼーここにありと言う所を見せつけないといけないからな。」
「スミス大将!直ぐにハルゼー提督を、ジェラルド・R・フォード級原子力空母にお連れして、英国に向かってくれ!」
「大統領?ですが当該空母は今、ドッグ入りして整備中ですが…。」
「ならば、大西洋艦隊に配備しているニミッツ級空母でも、何でも構わない。英国を救えるのは、米国海軍の空母打撃群だけだ。」
「マクドナルド少年…いや米大統領のおっしゃる通りだ。既に英国海軍大将スチュアートからは、いつ日仏露軍が侵攻してきてもおかしくはないと聞かされている。スミス大将?私を連れて行け!何かの役には立てる筈だろう。この作戦には山本も一枚絡んでいると私は見ている。」
「しかし、ハルゼー提督の身に危険が及んでは、今後の対日戦争に影響をきたすのではありませんか?」
「私を誰だと認識しているのだ?スミス大将?日本海軍キラーの猛将ウィリアム・ハルゼー大将だぞ?」
「スミス大将?ハルゼー提督の思う存分やらせてやろうではないか?」
その頃、東京市ヶ谷の防衛省では…。
「山田三佐?一体何がどうなったら、こんな事が立て続けに起こるのだ?」
第二次世界大戦で日本海軍を壊滅に追いやった張本人である、ウィリアム・ハルゼー提督の転生と言う衝撃のニュースがGMAT隊長山田三佐の元にもたらされ、山本閣下に続いて先の大戦を知る米国海軍の救世主転生に、衝撃が走った。対英戦争遂行間際の出来事だっただけに、ハルゼー提督の出現はある意味誤算だった。
「それは厄介な事になったな?だが、ハルゼー提督も私と置かれた環境は同じだ。戦意高揚の為だけの存在であり、新兵器が加わった訳では無い。それに、いざとなれば暗殺は容易だろうがな…。」
山本閣下は自分にもそれが当てはまると、山田三佐に言い残して、対英戦争遂行を潜水艦せいげいから見守る事にした。
「問題点はハルゼー提督自身が米国海軍にいると言う事だけでは無い。増派して来る米国海軍空母打撃群は、それなりの覚悟を持って英国海軍を助けに来るはずだ。まぁ、ロシア海軍大西洋艦隊の旗艦である原子力潜水艦ハバロフスクに搭載されている原子力魚雷ポセイドンがあれば、恐れるには足らないだろうがな…。」
「山田三佐?いずれにせよ、鍵を握っているのは潜水艦ですね。」
「あぁ、そう見て間違いはないだろうな。」
GMATの分析が正しければ、英国海軍の殲滅はそう難しい事ではないと、予測されていた。時同じくして、オーストラリア近海の太平洋沖の海域で、中国海軍空母山東と米国海軍ニミッツ級原子力空母セオドア・ルーズベルトが交戦していた。偶発的衝突と見られたが、中国海軍は日仏露軍とは別次元の独自路線で、米国を倒そうとしていた。勿論、海域がオーストラリア近海と言う事もあり、豪海軍の援護を受けたセオドア・ルーズベルト率いる米国海軍の空母打撃群が、一旦はその場を凌ぐ形となり、双方の空母打撃群に大きな損害は無かった。とは言え、中国の対米工作は日本の自衛隊とは全く意をかいしており、日中両軍が同盟を組むと言う所まで、GMATは持って行けていなかった。




