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深海の精鋭たち(サブマリナーズ)  作者: 佐久間五十六
昭和の大日本帝国海軍の潜水艦

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米国海軍空母打撃群の守護神

数では圧倒的優勢な米国海軍の空母打撃群が下北半島沖に派遣した艦艇の数は、なんとわずか17隻だった。内訳はアーレイ・バーク級イージス艦5隻、ダンディコロカ級駆逐艦10隻、原子力空母ニミッツ、サンフランシスコ級攻撃型原子力潜水艦1隻と言う、およそ主力の米国海軍が誇る空母打撃群の陣容とはかけ離れた戦力の少なさであった。これには米国側の深刻な事情と、日本の自衛隊を甘く見ていると言う側面があった。

まず、米国海軍は第七艦隊を含む在日米国海軍艦艇のほとんどを米国本土やハワイ州やグアムと言った、日本近海から遠く離れた場所に逃がしていた。これは、横須賀基地を失い事実上沖縄以北の日本近海での制海権を失ったと言う側面から、米合衆国大統領マクドナルドの指示で在日米軍を撤退させると言う判断を下した。これは対日戦略における米軍の深刻な懸念材料であり、想像以上に深刻な事態だった。三沢基地に残された在日米国空軍の戦闘機群回収は、横須賀基地急襲の報復と言うよりは、米軍の戦闘機を日本側に渡したくないと言う理由から、最小限度の戦力で速やかに日本本土から撤退したいと言う側面の方が強かった。何より対日戦略における司令官であるリッジウェイ・ハロルド中将(米国海軍第七艦隊司令官)が日本の自衛隊戦力を、想像以上に過小評価していた。ロシア海軍太平洋艦隊の日本近海における軍事プレゼンスは、まだ充分機能していないと判断した事も、空母打撃群の戦力をそいだ最大の理由である。

そんな原子力空母ニミッツを含む臨時空母打撃群の守護神としてハロルド中将が、活躍を見込んでいたのが最新鋭の攻撃型原子力潜水艦サンフランシスコ級であった。わずか1隻ではあるが、そのステルス性能は米国海軍の潜水艦の中でも群を抜いており、日本の海自哨戒機P−3Cの旧式レーダーでは探知不能な攻撃型原子力潜水艦であった。

「くろしおを含む日本の潜水艦群では、サンフランシスコ級攻撃型原子力潜水艦を攻略するのは難しいか?」

「ええ。ただ、幸い米国海軍としては本気を出せばもっと多くの艦艇や航空機を投入出来るはずです。それをして来ないと言う事は、米国側がまだ充分な戦闘態勢を取れていないと言う証拠でもあるでしょう。いずれにせよ、下北半島沖に展開する原子力空母ニミッツの撃破が出来れば、くろしおを含む日本側の潜水艦群がサンフランシスコ級攻撃型原子力潜水艦を攻略出来なくても、結果としてはOKと言う事になる。」

「しかし、海幕長!それでは竜矢先輩達はまるで捨て駒ではないですか?」

「くろしお艦長には申し訳無いが、あくまでも米国海軍原子力空母の撃破が最優先事項だ。それはな山田三佐?隊員達の命よりも重い…任務なんだ。それは防衛大学校で習っただろ?命令は絶対だし、ここでニミッツを叩ければ日本の自衛隊員にとっても確実に自信になる。」

「命よりも重い任務ですか?そんなもの習った覚えはありません。」

「山田三佐?君は何か勘違いをしている様だな?」

「勘違いですか?」

「あぁ、そうだ。相手はあの米国だぞ?叩けるうちに叩いて置かなければ、痛い目を見るのは目に見えている。GMATがどんな秘策を持っているかは知らないが、米国には数千発もの核兵器があるのだぞ?その気になれば日本本土を世界地図から消滅させる事位わけはない充分過ぎる戦力差がある。」

「いくら米国が核戦争可能でも、その抑止力として組みたくは無かったロシアと同盟国になり、その核戦力の補強に努めたのでは無いですか?」

「確かにロシアと同盟国になるのは、ある意味ギャンブル的な要素が強かった。それでも君達GMATは積極的に対ロシア外交に積極的ではなかったか?」

「お言葉ではありますが海幕長!これは田中総理の指示ですよ!我々GMATは、もう10年以上前から米軍の核戦力の分析を入念に行い、日米同盟破棄を実行する為の対米工作作戦の準備を水面下で実施していました。確かに日本の防衛大学校では、幹部自衛官として必要なスキルを叩き込まれます。しかし、かつての旧日本陸海軍の行った特攻作戦の様な、安易で命を粗末にする様な教育はなされていません。」

「どう思いますか?統幕長?」

「私も山田三佐の意見は正論だとは思う。しかし、先の大戦で日本は空母や潜水艦がどれだけ恐ろしい兵器であるか、と言う事を嫌と言うほど理解させられた。第2の広島・長崎を生み出さない為には、命懸けの任務は避けられない。それが今出来るのは、我々現場の自衛官だけだ。私はそう考えている。」

「竜矢先輩!?」

「山田三佐!私に死に場所を与えてくれて感謝している。これより、我々潜水艦くろしおと無人潜水艦艇UUVによる米国海軍原子力空母ニミッツへの魚雷飽和攻撃を実施したい。よろしいか?」

「くそ!!…。お願いします!」

山田三佐はくろしおが殺られる可能性を考えていない訳では無かったが、いざそれが現実のものとなると、躊躇いたくなる気持ちがあった。しかし、それは防衛省特務士官として、乗り越えなければならない一線である事に違いは無かった。

「海幕長!これをするからにはもう後には引けませんよ?」

「横須賀基地を奪った時点で、既に後戻りは出来ない状況下にあったと言う認識が、私にはあったが?」

「そうですか…。」

と、横須賀市船越地区の自衛艦隊司令室のやりとりを聞いていたかの様に、米国海軍が動き出した。そこをすかさず潜水艦くろしおは見逃さなかった。

「総員戦闘配置!総員戦闘配置!」

その勇ましい掛け声が、旧式の海上自衛隊潜水艦おやしお型の11番艦くろしお艦内にこだましていた。

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