シークレット人事
「え?山本閣下の海自入りは極秘扱いですか?」
「現場に著しい混乱が生じるのを防ぐ為だそうだ。ただ、ある人物に監視させるそうだ。」
「ある人物?」
「潜水艦せいげい艦長佐藤源治二等海佐だ。」
「私では役不足ですか?」
「君には山本閣下の世話より、やる事が山程あるだろう?それに潜水艦内なら、公開しなければ秘密裏に山本閣下の指揮を受ける事も可能だ。これは、防衛大臣である私の判断だ。君は総理からGMATの運用を任されている。そちらに集中したまえ。」
「分かりました。佐藤艦長なら安心して山本閣下を任せられますし。それに山本閣下もせいげいにいた方が都合が良いでしょう。」
「と、言う訳だから佐藤艦長?山本閣下の事は任せたぞ?一応元日本海軍元帥で、自衛艦隊司令官の海将扱いだから、失礼の無いようにな?」
「事情が飲み込めないが、それは緊急事態だな。相分かった。山本閣下の面倒はせいげいで管理させてもらう。奥田海士長を呼べ、井上一尉?」
「はい?奥田海士長ですか?」
「良いから急いで呼んでこい。」
「はっ!」
「詳しい事は山田三佐から聞きました。」
「なんだ?山田三佐の奴、既に山本閣下の事を話していたのか?」
「山本閣下?重要人物の世話を頼みたいとしか、伺っていませんが?」
「転生した山本五十六元日本海軍聯合艦隊司令長官の世話を君に頼みたい。同郷の君にしか出来ない任務だ。」
「せいげいには、山本閣下と同郷の下士官がいませんからね。」
「この際、君を三曹に昇進させたいのだが、異論はあるか?嫌なら断っても良いんだぞ?」
「いえ。よろしくお願いします。是非ともそうして下さい。」
「じゃあ、山本閣下の事は一切合切君に任せる。他の隊員になるべく接触させない様にしてくれ。」
「と、言われましてもこの狭い潜水艦の中で、山本閣下を匿うとしたら、やはり艦長室しかないのでは?」
「そうだな。海将扱いと言う事だし、海自のトップシークレット人事らしいからな。私が艦長室を明け渡せば済む話ではあるな。」
「私が潜水艦に?」
「万が一のことがあり、他国にこの事が知れ渡れば、日本の弱点になりかねません。特に米国に知られては厄介です。現場の事情もどうかご理解ください!」
「君にそこまで言われるとな。仕方ない。そうする他無い。」
と言う事で山本五十六閣下は、せいげいに身を隠す形となった。山田三佐としては、山本閣下の存在を公のものにし、自衛隊の士気を上げたいと言う狙いもあったが、そんな事をすれば山本閣下の存在が米国に知られる可能性が、必然的に高くなる。それは避けなければならなかった。アドミラル・山本の存在はあくまで極秘扱いとされ、この日米戦争が落ち着くまでは、国民にも明かせない自衛隊のトップシークレットとして扱われる事になった訳である。同盟国であるロシアにも箝口令が敷かれ、ロシア大統領サージ閣下にすら、その事は伝えられなかった。日露の海軍連携の在り方には、様々な方法が考えられたが、まさか日本海軍聯合艦隊司令長官の山本五十六が現代戦の指揮を執るなどとは、ポルシェニコフ大佐も思ってはいなかっただろう。ましてや、山本五十六の存在はロシア側としてはドイツのアドルフ・ヒトラーの様なものとして考えていられる側面もあった為、たとえ強固な日露同盟を築いている最中とは言え、GMATとしては慎重に事を進めようと言う結論に達した。自衛隊としては、山本五十六の存在はこれ以上ない助っ人であると理解していたし、GMATは山本閣下を邪魔者扱いするつもりは、毛頭無かった。
「山田三佐?せめて、ポルシェニコフ大佐位には話しても良いのでは?」
「いや、駄目だ。ロシア海軍の潜水艦隊司令官と言えども、相手はあのロシアだぞ!何を要求して来るかも分かりやしない。」
それは最もな意見であり、司令官が山本五十六になった事がバレる訳には行かない日本側の事情は、大いに理解出来るものではあった。山田三佐は、GMAT隊長としてそこまで思案していた。




