日露同盟締結
「山田三佐!せいげいがウラジオストクに到着した様です。」
「佐藤二佐なら問題無いとは思うが、相手があのロシア大統領となると、一抹の不安が残るな。」
「せいげいをわざわざウラジオストクに派遣したのは、何の為ですか?」
「そりゃあ、ロシアとの軍事同盟締結の為さ。米国に勝つ為には必須条件だからな。」
山田三佐はせいげい艦長佐藤二佐に、総理の親書を密かに託していた。田中恵理総理の意向で、中国や北朝鮮等よりも先にまずはロシアとの軍事同盟締結を画策していた。
「俺にはちと荷が重い気がするが…。」
「まぁ、そう言うなよ佐藤二佐。こんな状況下だから、君に頼らざるを得ないんだよ。」
佐藤二佐は、海上自衛隊の中でもトップクラスのロシア通として幹部内では有名だった。日本人には難解なロシア語を駆使出来る貴重な人材であった。
「サージ大統領!日本海軍の士官が何やら用があると。」
「話は日本の田中総理から聞いている。通信してやれ。」
「ハッ!どうぞ、こちらへ。」
佐藤二佐はモスクワにいるロシア大統領サージと電話で会談し、日露同盟締結の提案をした。意外にもその答えははっきりしていた。
「我々としては歓迎する。日露同盟を画策したのは正しい選択だ。よろしく御手柔らかにな。」
「ありがとうございます大統領閣下。直ぐに本国の総理に伝えます。本来なら、モスクワまで出向き同盟締結の合意文書にサインするのが筋ですが、そんな事をしている時間はありません。」
「それは、我が国も理解している。即座に日本に向けてロシア軍を派遣したい。なんならICBMの一発でも米国本土に着弾させるくらいの事は可能だぞ?」
「大統領閣下、それはいけません。ただでさえ米国は横須賀基地を制圧されて、血の気が高まっています。事は慎重に運ばなければ。」
「それもそうだな。にしても米国の犬だった日本が何故今になりこんな事をしている?」
「広島・長崎の悲劇を日本人は忘れていないからです。日本の尊厳ある未来の為には、今行動しなければならなかったのです。」
日露同盟締結に成功した佐藤二佐はせいげいに戻り、奥田海士長を呼んだ。
「奥田海士長?防衛省の山田三佐に向けてロシア大統領サージ閣下の返答を通達してくれ!急いでな。」
「はい。分かりました。しかし何故自分がその任務を?大切な通達ですよね?」
「こう言うのをわざわざ士官に頼むのはあまり好ましくないからな。と言うより奥田海士長を信頼している。せいげい艦内で横須賀基地急襲の詳細を知っているのは、私と奥田海士長だけだからな。」
「そうなんですか?それにしても通訳無しでよくサージ大統領閣下とコミュニケーションが取れましたね?」
「一応、これでも防大主席卒業者だからな。」
「そうだったんですね?それは恐れ入りました。」
そうこうしているうちに潜水艦せいげいは、海上自衛隊横須賀基地に帰投していた。奇跡的にも米国海軍の艦艇に出くわす事なく、在日米軍も謎の沈黙を貫き、報復攻撃の機会を慎重に見極めていた。その頃、ワシントンのマクドナルド合衆国大統領の元に、国防省から日露同盟締結の一報が届いていた。




