勅命
「柳井陸将、本当によろしいんですか?」
山田三佐はその耳を疑った。なんと、米国海軍横須賀基地を奪取する為に、陸自特殊作戦群を投入しても良いと言うのだ。柳井陸将は陸自の中でも対米強硬派として知られ、特殊作戦群を管轄する東部方面総監を務めている人物であった。山田三佐はその情報を元に柳井陸将にこの作戦を持ちかけた。
「日米同盟は立ち消えになり、また絶望的な戦争をするかも知れない事を総理は理解しているのか?」
「総理は腹を決め、今作戦を私に託されました。」
「で?勝算はあるのか?」
「やって見ねば分かりません。いずれにせよ既に水面下で作戦は、進行しています。」
「海自も空自も最大限のバックアップをします。柳井陸将は特殊作戦群の派遣命令をして下さるだけで結構です。」
「分かった。山田三佐?一つだけ確認しておきたい。本当に総理は作戦の許可を出したのだな?」
「はい。総理の決めた作戦に従っています。」
「そうか。ならば、何も問題は無いな。」
「よろしくお願いします。では、失礼します。」
まさか米国も最大の同盟国である日本の自衛隊が、その様な暴挙に出るとは夢にも思っていないだろう。山田三佐はその足で防衛省に戻り、高山久海上幕僚長に報告し、作戦決行日を決定。全自衛隊部隊に極秘裏に通知した。
作戦の鍵を握るのは、潜水艦せいげいと陸自特殊作戦群の2つであった。横須賀基地に停泊している米国海軍艦艇の鎮圧をせいげいが、まとめて引き受ける事になっていたからだ。佐藤艦長には、出来る限りの米国海軍艦艇を沈めて欲しいと山田三佐は願っていた。と言うよりも、沈めなければならないと言った方が正しいか。一応、自衛艦隊と第一潜水隊群をバックアップとして、待機はさせる予定だが、今作戦の目的は海上部隊の鎮圧ではなくあくまでも米国海軍横須賀基地の制圧であり、陸自特殊作戦群の実力がモロに試される。迅速かつ正確に行わなければ、たちまち米国の大軍に逆に制圧されかねない。その為、作戦準備は慎重に行われた。
「山田三佐?もし米軍が反撃してきた場合はどうする?」
「こちらにはあらかじめ工作を仕掛けます。ですから、米軍の反撃は最小限度に抑えて見せます。」
「本当にそんな事が可能なのか?」
「理論上は。」
「陸自としては貴重な特殊作戦群を投入するからには、犠牲は最小限度に抑えたいと言うのが本音だ。それに米兵もなるべくなら殺したくはない。」
「ですよね。まぁ、日頃の訓練の成果を見せるつもりでよろしくお願いします。」
「対外工作班隊長が、一介の現役海上自衛官とは驚きだが、肝は座っているようだな?」
「まぁ、それはさておき今作戦は陸自特殊作戦群にかかってますからね。失敗は許されませんよ?」
「分かっている。万が一のことがあれば…と言うか総理は正気か?こんな馬鹿げた事を。」
「日本人は忘れているんですよ。何もかも。」
「相手は米国だぞ?大丈夫か?」
「先の事は…。あっ電話だ!柳井陸将ではよろしくお願いします。」
「おい!山田三佐!?まだ話は終わっていないぞ?」
柳井陸将には申し訳なかったが、それよりも重要な連絡が潜水艦せいげい艦長佐藤二佐から入っていた。
「山田三佐?指示通り奥田海士長達を米国海軍横須賀基地に潜入させたぞ?」
「そうか。指示通り頼むぞ!」
それは米国海軍横須賀基地の通信インフラに対するドローン工作であった。




