防衛大学校同期の腐れ縁
せいげい艦長佐藤二佐と、山田三佐は防衛大学校の同期で、同じバスケットボール部に所属していた。学生時代は親交があったが、そこまで親密と言う訳では無かった。山田三佐に言わせれば腐れ縁とでも言った所か。幹部候補生学校を卒業してからは、これと言って接点もなく、それぞれ全く別の畑を行く事になった。
「奥田海士長?今時間ある?」
佐藤二佐は階級の違いなどお構い無しに奥田海士長を可愛がった。勿論、訳ありでの事だが。
「ええ。今、整備終えた所ですので。」
「急な話で誠に申し訳ないんだが、明日東京の市ヶ谷の防衛省に行ってくれないか?」
「え?明日ですか?はぁ~…。」
奥田海士長は理解に苦しんだ。
「この書類を山田玄太郎と言う人物に渡して欲しいんだよ。安心しろ、山田は俺の防大同期の現役海上自衛官だ。」
「分かりました。出張届けは?」
「あ~あ。そんなもんいらん。これは特命任務だからな。書類、絶対無くすなよ!」
「特命任務!?」
「何、舞鶴から東京に行って書類を渡すだけの事だ。とは言え、信頼出来る君にしか頼めない任務なんだ。よろしく頼むよ!」
「あ~あ、それとこれ新幹線のチケット。寝坊するなよ。」
「はい。失礼します。」
と、艦長室を後にした奥田海士長は渡された書類を鞄にしまい就寝した。
翌朝、奥田海士長は始発の電車で舞鶴から京都駅に向かい、東海道新幹線で一路東京を目指した。
「あ~あ山田三佐?例の書類、部下に持たせたから、受け取り海上幕僚監部に報告を頼むよ。」
「わざわざ悪いな、佐藤。いや佐藤二佐。」
「よせよ。防大同期の腐れ縁じゃねーか。」
「それもそうだな(笑)。」
と、久し振りに会話した2人であった。
書類の中身はマル秘だと言われていたが、奥田海士長は思いがけず書類の中身を見てしまう。
「米国海軍横須賀基地急襲?…。マジか!?」
それは山田三佐が極秘裏に進めていた対米工作作戦の概要書類であった。だが、それを知ってもたかが海士長の奥田隆雄には、何も出来ずただ、上官の命令に従うしか無かった。東京に着いた奥田海士長は、市ヶ谷の防衛省に直行。予定通り山田三佐に書類を渡して舞鶴に戻った。
「山田三佐、佐藤艦長からの書類です。」
「ご苦労さん。」
「あの!差し出がましい様ですが、無茶は駄目ですよ?」
「まさか?中身見たのか?」
「すみません。」
「あのな‥。マジかあ~あ。こりゃ始末書もんだな。」
「本当ですか?」
「これを見られたからには奥田海士長?貴様にも1枚絡んで貰う事になるぞ?」
「やっちまったな(泣)。」
と、この時はまだ奥田海士長は、その重大さに全く気付いていなかった。
「佐藤?お前の部下、書類の中身見ちまったみたいだぜ?」
「おいおい、やばくねぇのか?」
「奥田海士長だったか?しっかりマークしておいてくれよ?」
「分かった。責任は私にある。万が一のことがあれば…。」
「まぁ、奥田海士長には悪いが、それなりの報いは受けてもらう事になるだろうな。」
と、これは今後予想される一大事の単なる前触れに過ぎなかった。




