スクラップ
帝国海軍戦史研究室では、その後活動を続けるも、目的を達する事が、困難になったと判断されて、戸村元大佐の死後20年経過した2006年には、終に組織の廃止が決定する事になる。
結果的に、厳龍がこの世界に紛れてしまったのは、科学的説明のつかない、原因不明のタイムスリップ的現象という結論で締めくられた。
2012年を無事に迎えようとしていた日本国であったが、世界の覇権争いから頭一つ抜き出た影響力で、世界史上類を見ない大国として、君臨していた。
通常陸軍兵力75万人、海軍兵力25万人、空軍兵力15万人、海兵隊35万人、核戦力約8000発、戦車5000両、原子力潜水艦15隻、通常動力型潜水艦15隻、原子力空母10隻、ヘリ空母25隻、イージス艦100隻……。他に揚げれば、キリがない程戦力を保有していた。堂々たる戦力である。
アメリカ、ロシア、イギリス、中国、フランスといった名だたる大国の戦力を遥かに上回る戦力である。日本の力は、世界の警察になりうるものであった。
この、巨大戦力を投入する世界大戦が、起こるはずもなかったのだが、局地的紛争の解決に日本の軍事力を利用する国はあった。
日本がこれだけの大国に成りえたのは、一隻の潜水艦のおかげで有ることを、平成の世に生きる者は知らない。厳龍は、過去の遺物となろうとしていたが、帝国海軍の記録にはきちんと残っていた。
2006年の大日本帝国海軍戦史研究室が閉鎖されると、2年後の2008年には、厳龍のスクラップ化が決定。長年海軍が、その処遇に頭を抱えていた潜水艦は、半世紀以上この国に尽くしておきながら、闇に葬られていようとしていた。
幸か不幸か、厳龍と共に未来からやって来た厳龍第一世代の人間は、全員死に絶えていた。第二、第三世代も、他の潜水艦に配置され、口を封じ込めるのは容易かった。
海上自衛隊には、20隻以上の通常動力型潜水艦を保有している。練習潜水艦を除く全ての潜水艦が、実戦配備されている。
この現実を普段我々は感じる事はまず無い。それは、海の中の事てあり、国民の目に触れる事が無いからだといえる。
潜水艦という、限られたスペースで寝食を供にし、日本の領海を守る為、懸命に働いてくれている海上自衛官の方々に、敬意を表したい。
この作品が潜水艦で働く人達の心理を、上手く表現出来ているかは分からないが、興味を持って貰う一環に成れば幸いである。
さて、皆様は日本の潜水艦の建造能力が、世界でもトップクラスにある事をご存知だろうか?
日本は、憲法9条によって、原子力を使用した兵器を保有出来ません。空母も戦闘機の離発着するような攻撃的空母は持てません。自衛権の行使に必要以上の攻撃を制限されているからです。そこで、日本の海上自衛隊は、大日本帝国海軍の時代の潜水艦建造技術を引き継ぎ、他国の原子力潜水艦に負けない、通常動力型潜水艦を作る必要が、あるのです。ロシアや中国は、原子力潜水艦を保有しています。
そうして開発されたのが、おやしお型潜水艦であります。そして、最近ようやく出来たのが、今作品に出てくる厳龍の元になる、そうりゅう型潜水艦なのです。
海の忍者とも言われる、潜水艦であるがその存在は、ベールに包まれている。なぜならば、偵察からミサイル攻撃まで、その用途は幅広く、情報はオープンにしないのが各国のスタンスだからである。
海上自衛隊の潜水艦や対潜水艦兵器は、とてつもなく強力である。核兵器はないが、もし搭載出来れ、小国ならばひとたまりもない。潜水艦はそんな兵器になってしまったのです。
日本の海を守るのは、イージス艦やヘリ空母だけではないのです。海の中、深海の精鋭達こそ、日本を守る立役者なのです。




