生きた瞳
戸村元大佐は、報告会も含めて、井野元中佐と法野元中尉を集めて、食事をする事にした。
「まずは、一杯やろう。皆すまんな貴重な時間を使わせてしまって。」
「やることなんてなかったし、暇潰しに丁度良かったよ。」
「自分達は所詮異邦人ですから。消え行くのも運命ですよ。」
「この世界に来て、大衆酒場に来たのは、以外にも初めてなんだよな。」
「いつも、汗臭さと油臭さと糞尿の混じった臭いの、鉄の棺桶の中しか行くところはなかったからな。」
「今は昔ですけどね。まぁ、たまには良いでしょう。こうやって飲むのも。」
「酒の旨さは時空を越えても変わらんのだな。」
「そうそう、この間米内元海軍大臣に会ったよ。」
「どうでした?」
「どうもこうも元気なじい様だったよ。」
「米内元海軍大臣が一番厳龍の理解者だったからなぁ。」
「沖田初代艦長や近田元大佐は、ひいきになってたみたいだな?」
「そうみたいですが、お二人共もうこの世にはいません。」
「米内元海軍大臣の所でも、良い情報はなかったみたいだな。その感じだと。」
「他にも良い情報を持ってる人はいないんですか?」
「肝心の厳龍元幹部はとっくに死んじまったしな。」
「米内元海軍大臣の所で駄目なら、他も駄目だろう。」
「年表整理しましたけど、戸村元大佐なら分かっている事でしょう。」
「いや、そうでもないぞ。助かってるよ。ありがとう。」
「こういう小さな努力が大きな花を咲かせるんだよな。」
「出口は見えないままですけどね。」
「まぁ、そうだな。」
「ピンともスンとも来ないんだが?大丈夫か?」
「タイムオーバーが先に来てゲームセットかもな。」
「それまでに解明出来ないってのも、運命ですね。」
「法野元中尉は、運命という言葉にすっかりはまってしまっているな。」
「もう少し心当たりのある所に行ってみるよ。」
「自分もまだ、年表を完璧に終わらされた訳じゃないんです。」
「皆、もう少し付き合ってくれ。分からずしまいでも良いんだ。」
「そうだな。死んで謎が残っているのも、悪くはないかな。」
「明日にはきっと良い年表が出来上がってますよ。」
「お、それは心強い言葉だな。」
「今のところ、ハッキリ分かっているのは、"birth deth" 生年月日に死ぬって事だけだ。」
「その理由も謎のままだ。」
三人は途方に暮れていた。だが、その瞳は死んではいなかった。




