同じ穴のムジナ
「倉沢少佐、お前は何故自衛官になったんだ?」
「何故ですかと言われましても直ぐには思いつきません。」
「少なからず、この国の為に何かしたいと思ったからではないのか?」
「防衛大学を受験しよう。と思ったのはそういった志があったからでしょう。」
「でも、今すぐに戦争に巻き込まれるとは、思ってなかっただろう?」
「アメリカとの同盟があるおかげで、そのようには思っておりませんでした。」
「日本海軍と海上自衛隊の違いはそこにある。」
「と申しますと?」
「日本海軍は、戦争を前提として組織されているが、海上自衛隊は戦争を前提としていない。つまり、自衛隊が戦争ごっこの災害レスキュー部隊に甘んじている陰には、そういうベースがあったって訳さ。」
「我々は今から戦地にへ行こうとしています。」
「他に我々がこの世界で生きて行く術はない。」
「厳龍の存在は歴史にとって異物だと思います。」
「その異物に乗っている我々が、1945年に来てしまったのだから仕方ないだろう。歴史を変えるなという方が無理難題だろう。」
「郷に入っては郷に従えという事ですか?」
「そういう事だ。」
倉沢少佐は、沖田の決定に文句がある訳でも、不満がある訳でもなかった。ただ、今一度自分の置かれた状況を、体系的に整理しておきたかったのだろう。
最後に近田中佐の事について、倉沢少佐は聞いておきたい事があった。
「何故、近田中佐は戦艦扶桑に行く事になったのですか?」
「私の指示ではない。彼が自ら向井大佐にお願いしたのだ。私は当然、彼の意思を尊重し承知した。お前も行きたいのか?」
「そうではありませんが、同じ穴のムジナとして65人まとまっていた方が良いのかな、と思いまして。」
「奴一人が抜けた所で、厳龍の戦力が大きく変わる事はない。あいつも何か考えがあっての事だろう。俺は奴を信頼している。」
倉沢少佐には信じられない言葉であった。犬猿の仲と言われていた沖田と近田中佐の関係の中で、信頼などという言葉が出てくるとは思っても見なかった。




