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大きな戦力ダウンのしわ寄せは、末端の方に来るのが世の常である。
厳龍の出動回数も、当然のように増していた。この日の当直は、水野中佐、戸澤少佐、渋谷伍長、倉井一等兵の4人であった。
「しかしながら、こんなに厳龍を酷使して大丈夫かな?」
「お言葉ですが、水野中佐殿、整備班が頑張ってくれているので、大丈夫かと。」
「整備兵は、熟練下士官が勢揃いしてますからね。何とも言って来ないから大丈夫ですよ。」
「中佐殿のお考えも、ごもっともだと思います!」
「まぁ、俺は根っからの水雷屋で、厳龍のメカニックな事は、全く分からん。」
「だから整備兵がいるんじゃないか?」
「皆で力を合わせて、帰れる日を夢見ています。」
「それが早く実現するように、助け合わないと。」
「下っ端の意見もたまには聞いてみるもんだな。」
「中佐殿、それは見下し過ぎですよ。」
「まぁ、下っ端ってのは事実なんで否定はしません。心苦しいですが。」
「軍隊というのは、上官のさじ加減で全て決まります。」
「いざとなったら、星の数で決まるって訳だ。っていう俺にも上官がいるんだけどね。」
「こんなに意地悪いうイメージ全くなかったんですけど。」
「時間の経過は人を変えますからね。往々にして。」
「変わらないのは、ここにいるという現実だけですからね。」
「この世界に来て7年半か。あっという間だったな。」
「俺達は、いつまで帝国海軍にいなくちゃならねぇんだ。」
「この潜水艦なら、国外に行くことも容易いんですが。」
「そうすると、次はアメリカ海軍かイギリス海軍か。ロシア海軍かもしれません。」
「ものの例えだ。真に受けるんじゃない。バカども。」
「バカはないでしょう。でも、やれないことはないですよ。」
「いずれにしろ、母国を敵にまわすんですから、良い気分じゃないでしょう。」
「そんな事より、一日でも早く帰れる方法を探さないと。」
「そうだな。だが、全ては艦長の考えが全てだ。」
「俺達はとにかく、艦長命令に従う事を、海上自衛隊に入隊した時既にsignしているんだ。従うしかない。」
ああでもない。こうでもない。と、隊員達は心配していたが、よほどの事がない限り、厳龍が一線を離れる事はないだろう。




