元の木阿弥
さて、日米戦役以外での厳龍の任務はと言うと、日本本土近海にて、2~3時間哨戒するだけの短い任務であったり、呉基地近海で訓練をする程度の至ってシンプルなものであった。
この日も、そんな哨戒任務から帰って来る途中であった。とにかく、必要がなければ呉基地に居て欲しい。という米内海軍大臣の意図が、彼等をそうさせていた。
厳龍の食堂では、村井軍曹と宮村上等兵と藤堂一等兵の3人が、遅い夕食を食べていた。階級が下の者は、こういう労苦もある。
「このまま、日本海軍の犬で終わっちまうのか?」
「下っ端の俺達が言うのも何ですかね?」
「やはり、これだけ活躍しているのに、この待遇ですからね…。」
「まぁ。元はこんな所にはいない存在ですからね(泣)」
「それを言ってしまえば元の木阿弥ですよ。村井軍曹。」
「この未来の兵器はいつまで戦うのでしょうか?」
「分からんが、俺達がいた頃(2012年)位までは大丈夫なんじゃない?故障とかなければ。」
「そうですか?艦命が先に尽きると思いますが…。」
「整備の腕は海上自衛隊随一なんですがね?」
「俺達はそんな心配せず、言われた事だけやってりゃあいいの!」
「それは確かにその通りなんですがね。」
「一を言われて十をするのが幹部。俺達下っ端は、一を言われて五やれば充分なの。」
「そうやって、組織は成り立っているんだよ。」
「下っ端が七も八もやる必要はないと?」
「ってことは、俺達は犬の手先の手先という事に。」
「言葉は悪いがそうなってしまうな。」
「大事なのは、今後どうなるかって事だ。」
「それは、誰もなんとも言えないんじゃないですか?」
「それでは、私らが困ってしまうが、お前らに話をしてもなぁ…。」
「確かに意味のない事だと言うのは、明らかです。」
「今日の飯が食えれば、自分は文句ありませんよ。」
厳龍が力を持て甘しているのは、別に誰のせいでもない。戦争が終わっても、彼等の戻る場所は呉基地しかなかったのだから。




