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3発目

「しもたあああああああああ」


 目を凝らせば遠くに城壁が見える。

 それ以外何もないだだっぴろい平原の真ん中で、幼女の叫び声が響いた。

 緑に包まれた世界に、着物姿のスクナと、藍色の袴を身に着けた孫市がいた。


「付いてきてくれたのか、助かる」


「そんなつもりはなかったのじゃ!」


 スクナは自分も一緒に転移してしまったことに気づき、頭を抱えた。


「どうしよう、どうしよう……」


「とりあえずダンジョンを作ってみないか?」


「マイペースじゃの!?」


 他人事のようにあごひげをさする孫市に、涙目でスクナが掴みかかる。

 しかし大男の孫市とスクナの身長差では、腰にしがみつく孫のようにしか見えなかった。


「しかしな。儂が転生する条件が領地であり配下であったはず。なれば、まずはそれを受け取るのが物事の順序であろう」


「我は神ぞ!?」


「神を祀るにも、神が落ち着くにも社は必要であろうに」


「ぐ、ぬう。それでは、マナポイントと使い方が記された書を渡す故、ダンジョンを作ってみるとするかの」


 何もない空間からスクナは1冊の本を取り出した。丈夫そうな革で表紙が作られた、重厚なデザインの本である。


「21世紀まで生きておったなら、パソコンはわかるじゃろ?」


「ああ」


「それに似たようなものじゃ。それぞれのページを開けば、触って操作ができるのじゃ」


「なるほど」


 孫市が本を開くと、1ページ目にこう記されていた。




名前  雑賀孫市

種族  人間種

年齢  61

性別  男

レベル 0


<状態>

健康


<スキル>

なし


<マナポイント>

10,000




 孫市は感心したように頷く。


「このように自分の状況がわかるというのは、便利なものだな」


 スキルの部分に触れると、一覧のようなものが出てくる。そこには「スタミナ強化」や「筋力強化」「魔力強化」などの能力を強化するような言葉や、「隠密」「鑑定」などのような技術を示す言葉が並んでいた。その隣には、10や20と数字もついている。


「あー、それはスキル獲得画面じゃな」


 いつの間にか孫市の隣に来ていたスクナが、覗き込みながら言う。


「獲得したいスキルに触れると、マナポイントを消費してスキルを獲得できるのじゃ。スキルにはレベルがあっての。10段階あって、10が最高じゃ。レベルが上がるにつれ、必要なマナポイントは増えていく感じじゃの。とはいえ、配下を使うのが主流のダンジョンマスターにはあまり関係ないと言えるじゃろ」


「そのようなものか。将の強さも必要に思うが」


「転生者に通用するような力を得ようとすれば、ほぼ全てのポイントを注ぎ込んでも足りぬぞ。ならば、ドラゴンみたいなのをどーんと召喚して、繁殖させるのが一番じゃ」


「ほう、繁殖するのか。良いことを聞いた」


「ドラゴンはいいぞ。かっこいいのじゃ。まさに王者の風格じゃな」


 目を輝かせながらドラゴンの良さを語り始めるスクナ。それに生返事をし聞き流しながら、孫市は次のページを開く。そこはダンジョンの設計に関するページになっていた。

 ざっと説明文を流し読むと、孫市はざざっと指を滑らせ、操作をしてしまう。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴ。


 地面に大穴が開いた。草原がすり鉢状にへこみ、その底に垂直な縦穴が口を見せる。

 穴の中には黒々とした闇が横たわっていた。


「いきなり過ぎぬか!?」


「迷っても仕方あるまい。とりあえずダンジョンを作っておいた。簡単な作りだが入ってみるとしよう」


 孫市が壁面に手足を擦るように減速しながら、先に降りる。縦穴の深さは5メートルくらいだ。ひらりと飛び降り、下から見上げた。

 スクナは呆れたような顔をしながら、ふわりと羽のように穴を降りていく。


「無茶苦茶だの。普通の人間では縄でもなければ出入りできぬぞ」


「これでも道なき道を進むような経験が多くてな。それに、スクナが飛べるのは承知しておる」


「それでも気づかいぐらいはせい」


「うむ」


 穴の底まで来ると、壁のところどころに松明のような弱い光が灯されている。壁から突き出した水晶のような六角錐の石が光っているのだ。これは見た目通り「松明石」と呼ばれている。


 松明石は、ダンジョンマスターが生きているうちに採るのは御法度だ。夜目が効かない人間が不利になってしまうからだ。反面、便利な素材でもあるため、ダンジョンマスターが討伐されたあとには採りつくされることも多い。

 人間の攻略に利用されてしまう弱点でもあるのだが、これがなければダンジョンマスターも内部を把握しづらい。守る側、攻める側の両方にとって、ジレンマを生み出す不思議な素材なのだ。


 薄暗いトンネルが斜めに下って行く。その先には石材で出来た、人間1人が通れるくらいの扉が設置されている。扉を押して開くと、バスケットコートくらいの広さの部屋が用意されていた。


「ここがボス部屋というものだな」


「ここで終わりなのかの?」


「うむ。攻め手にとっての終わりがここまで、だな」


 孫市はそう言うと、ボス部屋の扉を一度閉じてから、今度はシャッターを開けるように真上に持ち上げた。カチリと機械的な音がする。ボス部屋の床が重たい地鳴りを響かせながら沈みだした。


「お、おお、絡繰りかの!?」


 スクナが頬を上気させながら、興奮した声をだす。

 階層2つ分くらいだろうか。床が沈み切ると、目の前にはサッカーグラウンド6面くらいはありそうな広い草原と、神社の拝殿に似た立派な朱塗りの建物が姿を現した。天井にはびっしりと松明石が隙間なく生えており、なかなかの光量が保たれている。


「おおおおおお! ここが我の住むところじゃろ?」


 スクナがはしゃぎながら走り出した。


「ああ、そうだ。儂らの家だな。内装はわからなかった故、『オート機能』にて簡素に仕上げてある。マナポイントに余裕が出来たら拡張するのでな。追々整えてゆこう」


「ええのう、ええのう!」


 一見は拝殿のような作りをしているが、祀るべき神は下駄を放り出して板の間を裸足で駆け回る幼女だ。

 通常は鏡や祭壇が置かれている空間は、ただの玄関口になっている。奥へと廊下が伸びており、客間や寝所、土間などがある。土間にはかまどなんかも置かれているが、壁際にはシステムキッチンが半ば無理やり設置されていた。

 床はほぼ全て板の間だ。だが、随所に現代日本の匂いがする。そんな不思議な住宅になっていた。


 ぺたぺたと走り回っていたスクナは、走り飽きたのか、茶室に潜り込んで畳にごろんと横になった。よっこらせ、と孫市も中に入り、スクナの向かい側にあぐらで座る。


「ダンジョンがとりあえず出来たところで、魔物はどうするんじゃ?」


 質問の形式をとってこそいるが、スクナの表情は完全にドラゴンに期待しているそれだった。

 孫市はダンジョンの管理用の本――ダンジョンブックを真剣な表情で読み始める。


「むう、魔物と一口に言うても、様々な特徴があるのだな。それに、呼び出すのに必要なマナポイントも違いが大きい」


「そうじゃの。スライムやゴブリンにスケルトンなぞは安く呼び出せるが、ドラゴンやヴァンパイアなんかは高くなってしまうの。しかしのう、スライムを何万と集めたところで、ドラゴンには勝てぬぞ」


 ドラゴンは言うなれば、戦闘ヘリだ。空を自由に飛び回り、時にはホバリングし、ブレスという破壊力抜群の飛び道具を放てる。

 飛べるというだけで、生物同士の戦いは優位に運べる。ほとんどの物は、星の重力に引かれて下に落ちるのだ。相手より高い場所にいるだけで、一方的に攻撃できる展開もある。


「確かにそれもそうだ。が、興味深い特性を見つけた。いいやり方を発見したやもしれぬ」


「ぬ?」


「ゴブリンだ」


 孫市はにやりと凄絶な笑みを浮かべた。

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