24発目
孫市が依頼を受注するのを見てから、門をくぐるゲドラドの一味。
完全武装で出かける大所帯に、衛兵が声をかけた。
「戦争でもしに行くのか?」
「演習だ演習。この人数で動けるように鍛えるのは大変なんだ」
「そりゃそうだ。束ねられるあんたは大物なのかもな」
サプレスの街では、ゲドラドの評判は悪くなかった。
木造街にいるだけでゴロツキ扱いは免れない。が、人数と統率力に裏打ちされた、依頼達成の実績は高い。
――ちょっと困ったやつだが、本当に困ったときには頼りになる。
それが住民たちのゲドラド一味への評価だ。
彼らは街で喧嘩するようなトラブルを起こさないのも、その評価を支えている。
強い相手とは正面から争わない。弱い相手は数で威圧する。それがゲドラドの流儀。それ故に、喧嘩は端から起きないのだ。
誰にも咎められることなく。むしろ、仕事熱心な奴らだと好印象を持たれながら、彼らは草原に入った。
「よーし、周囲を警戒しながら進め。この辺りの依頼で、ジョッターたちが行方不明になったらしいからな」
平凡だが弱くはないパーティーが壊滅したのだ。警戒は必要だ。
「まぁ、あのサイカって野郎が怪しいが……」
ゲドラドは孫市が殺したのではないかと疑っている。ギルドでの一幕で、平然と人殺しを出来る男だと分かったからだ。
「殺ってんならむしろ好都合ってもんすよ。ジョッターのパーティーの財産がありますから」
「それもそうだな!」
ゲドラドは豪快に笑った。
慎重さを持ち合わせつつも、部下の不安を吹き飛ばす豪胆さも持ち合わせている。だからこそ、悪人にも関わらず、強い配下をたくさん抱えているのだ。
リーバスの案内で孫市のダンジョン入口に辿り着いたゲドラド。まず最初にしたのは、下っ端に背負わせてきた大量の麻袋を広げることだ。
「よし。ウィルダ、やれ!」
命令された魔法使いが、風の刃を飛ばして、辺りの草を刈り倒した。それを下っ端たちが拾い集めて、麻袋に詰めていく。あっという間に、それなりの重さのあるフカフカの袋が何十個も出来上がる。
冒険者集団の彼らは、同族みたいなものなのに、盗賊狩りの依頼を好んで受ける。それは人間相手に暴力を振るう快感を得るためでもあるが、純粋に得意としているからでもある。
海賊上がりのゲドラドは、対人戦の方が得意なのだ。
盗賊のアジトは、洞窟や廃屋に罠を仕掛けているものが多い。
そこに、草を詰めた袋を放り込んで、安全な足場を確保する。罠があれば、先に袋相手に起動してもらうのだ。
あとは攻め込んで荒らして奪い、火をつけて丸ごと消し炭に変えて去っていく。
それがゲドラドの常套手段だ。
孫市が講じた安全策のひとつ、純粋に高低差のある入口は、麻袋のクッションで無効化された。
「っしゃ! 突っ込むぞ!」
ゲドラドが先陣を切って中に入る。リーバス含めた部下たちがぞろぞろと後ろに続いた。
そんな侵入者たちの動きは、簡単に察知される。当然だ。ボス部屋までほぼ一直線の、あまりにも単純な構造をしているのだ。
ボス部屋にいたホブゴブリンは、すぐにギミックを起動して、隠しスペースに戻る。
「ヨイチ殿、敵襲です!」
「ペンペン! (すぐに迎え撃つぞ!)」
ヨイチの尋常ならざる様子と、なぜか意思疎通できるペンペン語に、理由は不明だが色々と察することが出来たホブゴブリンも、ペンギン化する。
「ペンペンペンペンペンペンペンペン! (敵の数は大量。確認しきれませんでした)」
「ペンペンペン。ペンペンペンペンペン! (用心せよ。総力戦でかかるぞ)」
ヨイチの号令に、未だ武器を与えられていない数多のゴブリンたちが、拳を突き上げて呼応する。
ほぼ全員が、格闘術スキルに任せた戦闘スタイルの、脳筋集団なのだ。
「ペンペン! (出陣!)」
ギミックのエレベーター、つまりボス部屋に詰め込めるだけ詰められた、強力なゴブリンの集団。
全員が格闘術スキルのレベル6を操る。
その肉体は鬼の血統で大きく強化され、指の2本だけでリンゴを潰すことが出来る。さらには、ホブゴブリンとなれば、分厚い土の壁をタックルでぶち破れるパワーを得ている。
そんな彼らが整然と並び、ボス部屋に詰め込まれている様子は、一言で例えるならば――ペンギンの群れ。
残念ながら、吹雪に耐えるために身を寄せ合うペンギンたちにしか見えなかった。
が、同じ風景でも見る人が変われば、意味合いも変わるもの。
ガコンと大扉が開いた先の光景を目にしたゲドラドたちは、身を固くした。
「な、なんだあれは」
「知らないっす。未知の魔物でも飼ってるんすかね」
武器を向け、剥き出しの警戒心をぶつける。
「何してくんのか分かんねぇな。こういうときは――総攻撃だ!」
ゲドラドが叫ぶと同時。
ヨイチも号令を飛ばす。
意味合いは、奇しくも同じだった。
「ペン、ペンペン! (総員、突撃!)」
狭いダンジョンの通路。
肉と肉がぶつかり合う音が響いた。




