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2発目

「まずはこれを見て欲しいのじゃ」


 スクナが大きく横に手を振ると、白い光ばかりが溢れていた世界ががらりと変貌した。

 空撮中のドローンの視点とでも言うべきか。上空に立って街並みを見下ろすような映像に囲まれた。

 山林と草原に囲まれた、西洋の城塞都市に似た街並み。その城壁付近で、派手に火炎が舞い踊っている。


「戦か」


「その通り。少し映像を寄せてみるかの」


 高さ20メートル、厚さ5メートルはありそうな巨大な城壁の上に、思い思いの武装をした男女の集団が集まっている。服装は全身鎧の者もいれば、革の胸当てだけの者、さらにはローブだけを着ている者もいる。

 ローブ姿の女性が身の丈よりも長い杖を天に掲げた。その先端から巨大な火球が生まれ、城壁を攻める集団に飛んでいく。


「これは魔法か。とんでもない火力だな」


「おぬしがこれから行く世界では、とても重要な要素じゃな。戦闘面ではもちろん、社会システムや文化面、土木工事や様々な基幹技術に使われておる」


 攻め手から放たれた巨大な氷の槍が城壁にぶつかり、一部を打ち崩す。が、すぐに地面から盛り上がった土の壁が補修をする。

 土の壁を発生させた魔法使いが、ひらりと城壁から飛び降りた。


「今飛び降りたやつに注目してほしいのじゃ」


 魔法使いを追跡するように、視界がズームインされる。

 まだ若い茶髪の青年だった。表情は溌剌はつらつとしており、幼さを残している。真剣さの中にひと掬いの無邪気さが見られる。

 そんな青年と相対しているのは、異形の集団だった。


 緑の肌の小鬼の群れ、獅子と山羊と蛇の三頭を持つ怪物、腹から下が蜘蛛になっている女。それらが青年に集中砲火を浴びせる。投石に光弾、白い液体などが青年に襲い掛かった。


「あれらは魔物やモンスターと呼ばれている存在じゃの。魔法に強い縁をもって生まれた存在でな。多くの場合、人間に仇なすものじゃ。そして――」


 青年の前に巨大な岩の壁が現れた。それは攻撃の一切を受け止めてから、魔物たちに倒れかかり、潰した。もうもうと土煙が立ち昇る。


「あのように、強大な力を持つ人間が『転生者』じゃ。おぬしと同じように、何らかの神がそれぞれの思惑で、この世界に送り込んできておる」


「この世界はスクナの管理下にあるのだろう?」


「あやつら、ゴリゴリ押し通してくるんじゃ」


 スクナは浮いたまま地団太を踏むという器用な動きをした。

 神同士の間で、力が弱いのだろう。幼い容姿にも関係があるのかもしれない。ともあれ。


「転生者のやつら酷いんじゃ。聞いておくれたも」


「うむ」


「勝手に進んだ文化を持ち込んで、自然な文化の成熟をぶっ壊すんじゃ。べらぼうな魔力にあかせて、派手に自然破壊ぶちかますんじゃ。生態系の頂点として世界のバランスをとってるドラゴンもぶっ殺すんじゃ。人間社会の重しになっている貴族階級も平気で殺すんじゃ。狩りやすい小動物を際限なく狩りつくすんじゃ。存在しちゃいけんような強力な武具を市場に流しまくるんじゃ。通貨を大量に抱え込むもんじゃから、デフレが止まらないんじゃ。貨幣価値が上がれば、貧乏人は貨幣が手に入らなもんで買い物すらできなくなるんじゃ。そうして失業して奴隷になった者を救うとか言って、最後の受け皿すらぶっ壊すんじゃ。挙句には自分を転生させた神を祀るとか言いおって、変な宗教を持ち込み始めるんじゃ。それにの、それにの、まだまだ聞いて欲しいんじゃ……」


「う、うむ」


 怒涛のように溢れ出した不満に、流石の孫市ですら引きつった声を出した。

 1時間あまり愚痴を吐き出し続けたスクナは、ようやく落ち着いたのか、頬を赤く染めながら、ぜえはあと肩で息をした。


「というわけでの、転生者をなんとかして欲しいのじゃ。もちろん、対価は用意してあるのじゃ」


「なんとか、か。それで対価とは領地と配下のことか」


「……ます、この世界には『職業』というものがあっての。魔法使いであったり、僧侶であったり、領主であったりと、特定の役割を果たすための特異な力を与える肩書きじゃ。おぬしの職業は、『ダンジョンマスター』じゃ。地下深くへと続く迷宮を作り上げ、魔物を従える王となるものじゃ。このダンジョンと魔物が、おぬしの領地と配下になる」


「人間ではなく魔物を従えるということだな」


「そうなるの」


 ダンジョン。

 それは、孫市が転生する先の世界に点在する、魔物たちの総本山のような存在だ。ダンジョンマスターが生きているものもあれば、死後もなお魔物が住み着いているものもある。

 日々成長して構造を変え、深い階層に至れば強力な魔物も湧き出してくる。

 しかしながら、そこから採れる資源は人類にとっても有益なため、多くの人間の戦士がそこに挑んで戦いを繰り広げている。


「そのダンジョンを運営するのに必要なのが『マナポイント』じゃ。階層を深く掘り下げたり、新たな魔物や罠を生み出すのに使う通貨のようなものじゃな。これはダンジョンで生き物が死ぬことによって得られる。魔物が死んでも得られるから、そうそう枯れることはないと言えるの」


「ふむ。1から生産しなくても生み出してくれるのか。それは便利だな」


 孫市はさっそく頭の中でマナポイントを集める手段を考え始めていた。

 ――ダンジョンの外で転生者を殺してもポイントは得られない。ダンジョンに引き込んで倒すのが理想か。


「転生が成功したら、マナポイントを送ってやろう。可能なかぎり奮発するからの、立派なダンジョンを作れることじゃろう。それじゃあ、新たな『器』を用意しよう」


 スクナが孫市の魂に手をかざす。

 黒く禍々しい塊はゆっくりと姿を変え、赤ん坊のようなシルエットになり。

 ――どんどんと大きくなり、成人男性のサイズに成長していく。


「な、なぜじゃ!?」


 スクナが焦った声を出す。

 出来上がったのは、身長2メートルはある偉丈夫のシルエット。卵からヒナが孵るように、表面がひび割れ……出てきたのは、60代くらいの白い髭のおっさんだった。


「な……な……」


 スクナが口をぱくぱくさせる。

 孫市は自分の体を見下ろし、手のひらをぐっぱと握ってから、満足そうに微笑んだ。


「すっかり若くなっているな」


「ど、どこが若いんじゃ!」


 スクナが吠えた。


「赤ん坊に転生させて、どこぞの人間から生まれてもらおうと思っておったのに、なんでおっさんになっておるのじゃ!」


「知らん」


 素っ気ない孫市の横に、金髪の天使がずずいと進み出る。


「畏れながら主よ。この孫市という男、500年も生きた魂でした。つまり、いくら若返らせてもこのくらいが限界だったのではないかと……」


 スクナの口がぽかーんと開いた。


「仕方なきこととはいえ、この姿で腹から生まれては、親が不憫だな」


 そう言う孫市に、スクナががっくりと項垂れた。


「イレギュラーではあるが、仕方あるまいの。どこか人里近い適当な平原にでも出てもらうしかあるまい。現地に行っても困らぬよう、言語や最初の持ち物なんかも整えておくのでな。転生者について頼まれてくれるかの?」


 スクナが宙に指を振ると、赤い光の輪が生まれ、ゆっくりと孫市に近づいていく。孫市は頷いた。


「あいわかった。こちらこそよろしく頼む」


 出された手を思わずスクナが握り返した瞬間。



 ――2人の姿が空間から消えた。



「主まで!?」



 天使の悲鳴だけが取り残された。

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