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19発目

 孫市は珍しく、冒険者ギルドの酒場スペースで昼食を食べていた。早朝に請け負った依頼が午前中に終わったからだ。依頼内容は、野良のゴブリンの討伐。あまりの弱さに拍子抜けした。体感的に、やせこけた農民兵と同じくらいの強さに感じたのだ。


 うっすらと血の臭いが残る手で、サンドウィッチを掴み頬張る。


 周囲に食事をする冒険者の数が増え、ざわざわと無秩序に世間話の輪が広がっていく。

 斥候風の一人の冒険者が、興奮した様子で戦士風の男に話しかけた。


「おい、聞いたか。あのアレンがパーティーを組んだらしいぞ」


「なんだよ。いつもの新人指導だろ?」


「いや、そうじゃないみたいだぞ。あいつの新人指導の場合は、何日かに一度くらいのペースで依頼に連れていくんだが、今回のパートナーは毎日一緒に依頼に出かけているみたいだ」


「はぁ?」


「ホーキンのところの斥候が言っていたから間違いねえ。あそこのパーティーは態度はクソだが、仕事は出来るからな」


 戦士風の男は唸った。そこに、魔法使い風の女がやってきて、隣に腰かける。木製のジョッキを3つテーブルに置くと、口を挟んだ。


「ヨミちゃんの話してるっしょ。見たことあるけど、奇麗な美人さんだったよ」


「ほぇ。女目当てか。あいつも俗っぽいところがあんのな」


「ばっか。腕も立つみたいよ。昨日なんかBランクの依頼達成だって」


 聞き耳を立てていた孫市は、満足そうな表情で口の中の物を飲み干した。

 彼の次の一手は動いている。早速、冒険者の登録をする受付がざわざわし始めた。なにせ、9人もの美丈夫の集団が現れたからだ。

 全員男で、体は筋肉で大きく盛り上がっている。格闘家なのか、誰も武器を持っていないという点でも異様だった。


「なんだあいつら……」


「冒険者の登録をするみたいね」


 孫市のときのような、嘲る視線ではなく。かといって、ヨミのときのような、好意的な注目でもない。ただ、異様な集団を見守る奇妙な静けさが広がっていた。

 受付嬢でさえも、何やら気圧されている。


「な、なんか最近目立つ新人が多いな」


「戦争が多いからか?」


「ありそうね。負けそうな国から、優秀な人材が流れ出してるのかも」


 彼らが推測するような事情も、もちろんある。

 敗北した部隊から逃げ出した兵士だったり、敗北を悟って逃げ出した貴族家の私兵だったりと、行く当てを失った戦闘職の者が冒険者になることは多い。

 もちろん野盗に堕ちる者も多いが、その分、冒険者の需要も上がるのだ。


 それに、戦争で命を懸けなければいけない機会が多すぎて、兵士に嫌気がさす者もいる。

 兵士なんてのは、月給で戦う公務員なのだ。地球でもブラック労働に嫌気がさした優秀な技術者がフリーランスになるように、戦争が多すぎると、兵士が冒険者というフリーランスに転職するのはよくあることだ。


 もちろん、国への忠誠心をもって最後まで戦う兵士や騎士だってたくさんいる。が、全てがそうだというわけではない。


「冒険者登録が終わったみたいだな。そのまんま9人でパーティー組んでるぞ」


「全員格闘家のパーティーか。バランス悪すぎないか?」


「武器が手に入ったら、別の職をやるのかもな」


 職業によって、武装にかかるコストは違う。

 弓使いならば矢がランニングコストとして圧し掛かってくる。盾を使って前衛で受け止める戦士も、防具やポーションの消耗が激しい。

 最初はコストがかかりづらい職業で冒険者を始めて、稼げてから転職するのは、さして珍しくないのだ。


 周囲に注目されているのをよそに、謎のマッチョな9人組は、さっそく依頼を受注して出かけて行った。


 孫市は立ち上がると、自分も依頼を1件受け、9人組を追うように外に出ていった。

 街の外に出てから、偽装したホブゴブリンの一団と孫市は合流した。人目につかない草の間にしゃがみこみ、小声でやりとりする。


「御屋形様、無事に登録し、言われた通りの依頼を受けてまいりました」


「うむ。これを渡す。日が暮れたらギルドに提出せよ。それまでの間に、山に行き野生のゴブリンを見つけて狩っておけ。下顎が討伐証明の部位になる」


「はっ」


 ホブゴブリンのパーティーの暫定的なリーダー、ヨロクは、孫市と背負い袋を交換した。これは武器屋で簡単に手に入る、冒険者や行商人などが幅広く使っているもの。多くの者が使っており、同じ背負い袋だからといって、そこから繋がりを疑われることはない。


 背負い袋の中には、採取依頼の品が5種類も入っている。

 これを提出するだけで、彼らはFランクに昇格する。現在Dランクにまで上がっている孫市が、最短で上がるための依頼を分析し割り出したのだ。


 そして、Eランクへの昇格条件は、戦闘力があることを示すこと。そのためには討伐クエストをこなす必要があるが、それを常設されているゴブリンの討伐であらかじめ済ませておく。

 採取依頼の品を提出し、昇格と同時に、常設依頼をこなして連続昇格。それが孫市のプランだった。


 Gランクの依頼でせこせこ稼ぐより、さっさとランクを上げて難しい依頼をしてもらった方が、ずっと稼ぎがいい。多少の手間と損を孫市がすることになるが、先のことを考えれば、こっちの方が効率がいいのだ。


「では、儂は自分の依頼をしてくる。ザイルモンキーの討伐依頼で、森まで出る。恐らく帰りが遅くなるであろうから、スクナたちには勝手に飯を食うように伝えておけ」


「畏まりました」


 プライベートなことまで命令を出し、公私混同ダンジョンマスターは森へと歩いて行った。ホブゴブリンの一団も、素早くその場を離れて移動する。


 嗅覚が人間よりも優れているホブゴブリンたちは、野生の不潔なゴブリンの素早く察知し、馬鹿げた戦闘力で刈り取っていく。

 その夜、ギルドは大騒ぎになった。

 昼に登録した手段が、夜には依頼を全て達成し、さらには49個ものゴブリンの下顎を持ち込んだからだ。

 彼らは騒ぎを巻き起こしながら、Eランクへの最短昇格を成し遂げた。

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