15発目
孫市がコボルトの雄と雌を1匹ずつ召喚してから一週間が経った。
すでに第4世代のゴブリン65匹が生まれ、全て成体になっている。
孫市が想定していた以上に優秀だったのが、小隊長の特性だった。群れの数の1割の位階を上げるというこの特性。なんと、全ての世代のゴブリンをカウントした全体数から算出されたのだ。
現在ダンジョンにいるゴブリンの各世代の数は、次のようになる。
・1世代 10匹
・2世代 10匹
・3世代 16匹
・4世代 65匹
・5世代 215匹(胎児)
合計すると、316匹だ。これにコボルト2匹と、さらには人間3人までカウントされるので、321個体からなる群れとして特性は捉えたようだ。
結果、第4世代のゴブリンの半数にもなる32匹が小隊長化し、ホブゴブリンになった。ただでさえ鬼の血統で大型化していたホブゴブリンは、人間とほぼ同じサイズにまで成長してしまっている。
「ふむ。なかなか壮観であるな」
孫市もその1週間の間、何もせずに見守っていたわけじゃない。冒険者ギルドに出かけては依頼をこなし、細々と稼ぎながら、情報を集めていたのだ。
「なんかこの空間も様変わりしてきたのぅ……」
スクナが草原スペースを見て呟いた。
そこはかつてあったような、草が生い茂るだけの広い大地ではなくなっている。草は全て奇麗に刈り取られ、木造の小屋のような家が立ち並んでいた。原始的ではあるが、もはや村になっている。
「御屋形様」
1匹のホブゴブリンが孫市のもとに駆け寄り、膝をついた。
ひときわ体格の良いホブゴブリンで、第4世代で最初に生まれたことから、ヨイチと呼ばれている。今いるゴブリンたちの纏め役のような立ち位置だ。
すでに偽装スキルを使いこなしており、精悍な日本人青年の顔立ちと、狩衣を再現している。いささか和風に過ぎるが、この世界では転生者の影響で着物文化も入ってきている。そう酷く目立ちはしないだろう。
「どうした?」
「畏れながら、願いを申してもよろしいでしょうか?」
「構わぬ」
「今のところ、水は屋敷の土間の水道から頂いております。しかし、頭数が増え生活用水の需要が急速に増えております。泉のような水源をダンジョン内に作っていただけないでしょうか?」
「それもそうだ。農地にするにも水がいる。それについては考えていたが、下へ下へと掘り進むダンジョンにおいて、高所に水源があるのは致命的な結果を招きかねん。何かしら、水捌けについて考えがまとまってからになるな」
水不足で多少ゴブリンが不便や渇きを感じること、ひいては死んでしまっても孫市は構わない。それよりも、この隠し部屋より下に向かって掘り進めたときの、水責めの水源にされる方がまずかった。
「転生者を相手にすることを考えればな。強大な水魔法あるいは水魔術で、ダンジョンごと水没させられることは起こりうる。そのための対策を成せれば、幾らでも水源は用意しよう」
「はっ。早急に水責めの対策を考案いたします」
「まとまれば、儂に報告せよ」
「御意」
ヨイチは頭を下げてゴブリンの群れに戻っていった。その様子を見て、スクナは首を傾げる。
「なんかゴブリンの知能じゃないように見るんじゃが」
「ホブゴブリンは賢いからな」
「ホブゴブリンは賢いからのぅ」
もはやスクナの顔は死んでいる。諦めを何度も上塗りしたら、人間の顔はこうなる。
「そろそろ4世代のゴブリンたちに冒険者登録をさせようと思っている。アレン用に、懐妊しておらんメスも1匹確保しておるからな」
スクナはアレンという転生者の、精神的な冥福を祈った。
メスのゴブリンは妊娠すると、運動能力が著しく下がる。戦力として使えるのは、実質オスのみだ。
ゴブリンは人間の女を攫って犯すというイメージが、人間社会では定着している。それは、メスは巣穴で大人しくしており、人間と遭遇するのはオスばかりだからだ。もしメスが出歩いていたら、人間男性も容赦なく攫われていることだろう。
ということで、戦力として外に出せるのは、基本的にはオスのホブゴブリンになる。
ヨイチ含めて防衛と管理に数匹はダンジョン内に残しておきたいので、冒険者として使えるのは、オス9匹とメス1匹だ。
「武器はどうするんじゃ?」
「メスには剣を持たせる。オスの奴らは素手とダガーでよかろう」
元のゴブリンの数を想定して買ってきたダガーが、ここで活きることになった。
筋力が人間よりはるかに優れていることはもとより、孫市から受け継いだ優秀な格闘術も持ち合わせている。素手でも十分な戦力になるはずだ。
こうして孫市から選抜された10匹のゴブリンたちは、旅人の一団を装って、冒険者ギルドに登録しにいくことになった。
最初に全メンバーで登録しにいくと、何かしら失敗があったときに全滅する可能性がある。
そのため、先遣隊として、まずは1匹のゴブリンが行くこととなった。メスのゴブリンで、第4世代の3匹目。名前をヨミという。
すいませんでしたぁぁぁぁ!
テキストファイルから切ったときにミスして、ぐっちゃぐちゃな15話になっていました。こちらは直したものになります!
打ち首だけはお許しください。




