表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/24

14発目

 新たに誕生した2世代のゴブリンは、1世代とは少しだけ違う見た目をしていた。一回り体格が良く、筋肉が発達している。それに、1世代ではツノが出っ張りと呼ぶくらいが丁度いい小さなものだったのが、ハッキリとツノと呼べる大きさになっていた。


「おう、見た目まで強くなっておるな」


「はわ……これってほとんどホブゴブリンですよ」


 シェリルが、草原に群れているゴブリンたちを見て、驚きをあらわにした。

 彼女は孫市が思っていた以上に働き者だった。家事を一手に引き受け、さらには朝方のうちに孫市が渡した刃物の研ぎを済ませている。


「ホブゴブリンとは何だ?」


「ゴブリンの位階が上がった姿ですあ、位階というのは、何らかの条件を満たした魔物が、もっと強い姿になることです!」


「ふむ。詳しい条件を知りたいが……ダンジョンブックにでも書いてあるか?」


 孫市はダンジョンブックの位階についての説明を探したが、見つからなかった。鬼の血統についての説明も見つかっていない。

 どうやら、孫市が何かを達成するごとに説明が解禁されていくのだろう。

 スクナの知識に頼ることも考えたが、昨日の今日でさらに力を求めるような要求をしては、スクナの機嫌を損ねることが、孫市にも容易に想像できた。


 孫市はスクナに対してフランク――というよりむしろ偉そうな態度をとるが、それでも内心では神への敬意を少しは持ち合わせている。


「書いてないな。時期を待てばわかるか……」


「そうですか。そのあたりは、私はあんまりわからないんですけど……。それにしても、倍になっただけで随分と増えた感じがしますねえ」


「そうだな。20もの魔物がいれば、多く感じるな」


 孫市が用意した草原スペースは広大だが、それでも今後は鼠算式にゴブリンが増えていくことを思えば、いくら用意しても余ることはないだろう。


「何かいい解決策が欲しいものだが」


「食料の問題もありますしね」


「銭やマナポイントで食わせるのも馬鹿らしいな。できれば儂の領地の中で食い物は賄えるようにしておきたいところだ」


 孫市はダンジョンブックをめくり、解決策を探す。

 彼の考え方の根本にあるのは、『魔物の力で解決する』だ。


 ダンジョンの拡張は、彼の中では土木工事のジャンルに分類されている。それも、戦国基準の。領主である孫市が私財を払って整えるものではなく、領民が税の労役として働くものとして捉えているのだ。

 ただ、ダンジョンは地下に広がっていることも含めて、特殊な環境でもある。全部が全部魔物の力では解決しない。その辺りは孫市が手を出すべきところとして、きちんと受け入れていた。


「農業は手の空いているゴブリンにさせるとして、その指導者や環境の整備が必要だな。適当に拉致してくるか」


「うわぁ」


 奴隷狩りの思考である。シェリルは大いに引いた。


「ダンジョンの拡張については、丁度いいのがおるな」


 孫市はとある魔物の説明をシェリルに見せた。


 コボルト。

 犬の頭を持つ、小人の魔物である。洞窟や廃坑に住み着き、穴を掘り進めて暮らす。単体での戦闘力はゴブリンに劣るが、入り組んだ穴を使い巧みに戦うため、人間にとっては非常に厄介な魔物である。

 コボルトの強みはそれだけじゃない。多産であり、さらに群れの数のおよそ1割の個体が、コボルトリーダーという体格と戦闘力に優れた魔物へと、自動的に位階を上げるのだ。


特性

・多産

 一度の出産で生まれる子どもの数に、+4の補正値。


・掘削補正

 穴を掘る際に、作業速度に70%の補正。


・小隊長

 成体になった際、10%の確率で位階を上昇させる。


 非常に有能な特性を3つも持ってる。そのためか、必要なマナポイントは大幅に増額された80ポイントである。


「これら特性は、スキルのように遺伝するのだろうか。どう思う?」


 孫市はシェリルに訊いてみる。それはあまり答えを期待したものではなかったが、思いのほかハキハキとした返事が返ってきた。


「遺伝するかと思います。ドワーフの里で、たまに坑道にゴブリンが巨大なコロニーを作ることがあるんです。そのとき、ホブゴブリンも一緒にいることが多いみたいです」


 それも、孫市にとって非常に好ましいものが。


「ドワーフや人間の街では、ゴブリンは見つけ次第根絶やしにするように言われています。滅びる前はドワーフの里にも冒険者ギルドがあったのですが、ゴブリンの討伐は、討伐証明という下アゴを切り取って持っていけば、いつでも買い取ってくれたみたいですよ」


「銭を払えば人は動くからな。そこまでするということは、人間の上層部はゴブリンの厄介さに気が付いていたようだな」


 それを公表しないのは、テロリズムなどに使われる可能性があるからだろうか。人間の手で手足の自由を奪った魔物や冒険者とゴブリンを掛け合わせ、市街地に解き放つ。考える者もいそうだ。


「これで3世代目は決まったな。コボルトと掛け合わせたゴブリンを生み出し、儂のスキルを継いだ2世代目と掛け合わせて、両方の特徴を兼ね備えた4世代目を作るか」


「ひえぇぇ」


 多産でかつホブゴブリンに位階が上がる、孫市のスキルを持ったゴブリンの集団。

 ここにきて急速に、ダンジョンの軍備は拡大し始めていた。


「なに、ボス部屋に置く魔物がおらず、物足りなさを感じていたところだ。完全に留守に見えるのも、疑われる一因になろう?」


「ど、同意を求められましても……」


 シェリルは孫市に助けてもらったとはいえ、目の前で邪悪すぎる計画が進んでいることに、完全に納得しきれていない。それでも真っ向から否定しないのは、シンプルに孫市が怖いからだ。

 孫市にとっての自分の価値を示さなければ、いつでもどこでも、気軽に首を刎ねられそうな気がしていた。

 なにしろ、シェリルの命は「孫市預かり」なのだ。ある意味、世界で一番預けちゃいけない人物に預けられたと言えよう。


「あとは食い扶持の問題だが……。当面は、偽装を持たぬ初期のゴブリン以外は、街に行き冒険者として登録させるか。勝手に経験を積んで、スキルも育つことだろうしな」


 孫市が考えたのは、かつて生業としていた傭兵稼業だ。

 戦場に部隊を派遣して金を稼ぐのが、雑賀衆の大きな仕事の一つだった。それと同じことを、ゴブリンと冒険者ギルドを使ってやってしまえと考えたのだ。


「ゴブリンに冒険者をさせるんですか!?」


 シェリルは目の前の人物は本気で頭がおかしいと思った。

 人間の街にゴブリンを送り込み、魔物と戦う組織に登録させて働かせることのおかしさはもちろんのこと。


「ある意味、敵に手を貸しているようなものじゃないですか!」


「それが何だというのだ?」


「お、おかしいですよ!」


「否。敵から体一つで金を巻き上げ、さらには敵が本来得るはずだった実戦の経験すら掠め取るのだ。効率的であろう」


 シェリルは知らない。

 雑賀衆は、戦争している両方の陣営に部隊を貸し出し、雑賀衆同士で撃ち合わせた、真性のヤバい集団だったということを。そして、目の前の男が、それを良しとした最高責任者であることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ