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12発目

 冒険者ギルドで登録を済ませた孫市は、武器屋に移動していた。

 サプレスの街の武器屋は、大きな商業施設になっている。冒険者ギルドよりも大きな石造りの建物だ。


 辺境という土地柄もあり、サプレスの街には戦いを生業にする人が多い。冒険者にしろ、騎士にしろだ。また、兵士でも制式装備のほかに個人で武器を用意する者もいる。

 この世界では、スキルという摂理がある。それにより、個々人の実力や戦闘スタイルに違いが出てくる。

 さらには地球と異なり、武器の素材が金属に限られていない。魔物の素材であったり、特殊な植物などが使われることも多いのだ。

 そんな事情があり、武器屋には幅広い商品が置かれていて、フロアごとに様々な特徴で分けられて並べられている。


「これがあ奴が使っていたものか」


 孫市はポーション売り場で、小瓶をしげしげと眺めていた。ギルドで目にした回復力は驚くべきものがあった。瓶一つで金貨1枚400ゴールドもするが、それに見合う価値は十分にあると言えるだろう。

 ゲームではなく、生身の体なのだ。斬撃ひとつ、矢傷ひとつが致命的に動きを止めることだってある。保険として考えれば。とても優秀だ。

 孫市はポーションを3本買った。これで1200ゴールドを使い、残金はおよそ5000ゴールドになった。


 次に短剣のコーナーを見る。

 孫市が探しているのは、脇差の代わりになるものだ。脇差に関して、孫市は日本人には珍しいであろう考え方をしていた。それは、短い日本刀である脇差よりも、海外のダガー系の方が使いやすい、というものだ。

 短剣となれば、求められるのは至近距離での取り回し。特に、もみくちゃな組打ちの状況での使いやすさだ。前後どちらにも刃がついている両刃の刃物は、その点で有利である。


 孫市はシンプルな鉄製の、刃渡り20センチくらいのダガーを見つけた。木箱に何十本も同じようなデザインのものが入っている。

 鍔はなく、柄の部分は木の板が二枚リベットで刀身に固定されているだけだ。形に若干のバラつきや歪みもあり、質は悪そうだ。


「そちらの商品をお求めでしょうか?」


 黒のエプロンを付けた男性店員が、笑顔で孫市に近寄る。


「うむ」


「そちらは、サプレスの鍛冶師組合の、見習いたちが練習で打ったものになります。質にバラつきこそありますが、非常にお安いので、ちょっとした用途にぴったりですよ!」


「であろうな」


 ちょっとした用途というのは、戦闘を想定しないことの遠回しな言い方だ。

 紐を切ったり、投擲したり、薄板に突き刺して刃を上に地面に置くとか。そういう、使い捨てじみた補助的な使い方を想定した言い回しである。武器というよりは、道具に近いと表現した方がいいかもしれない。

 下手に戦闘に使えると言ってしまうと、斥候や暗殺者のような、短剣主体で戦う冒険者にクレームを入れられてしまう。


 孫市は一本手に取ると、親指でゆっくりと刀身を横向きに押していく。刀身はあっけなく曲がってしまったが、孫市は逆に感心の表情を浮かべる。


「曲がったな」


「は、はい。曲がってしまいましたね」


「いい出来じゃないか。この曲げてしまった分と合わせて12本もらおうか」


「ありがとうございます!」


 ダガーは1本50ゴールド。合わせて600ゴールドだ。

 曲がったということは、バキンと折れないということ。金属に粘りがあるということだ。それは孫市が求めていた性能でもある。


 孫市はそのまま店員に案内させ、2000ゴールドくらいの剣を1振り購入した。

 いい買い物をした孫市は、ホクホクした様子で、武器屋を後にする。食料品店でいくらかの食材も仕入れ、街を出た。




 ダンジョンに戻った孫市は、ゴブリンたちに食料の分配をした。それから冒険者から奪った装備品を確認すると、予想通り防具の裏側から冒険者プレートが出てくる。

 ジョッターらの冒険者ランクはDだった。Gから始まることを考えれば、真ん中あたりのランクになる。まさに中堅といったところだ。


「おお、無事に帰ってきたの」


「お帰りなさいませ」


 家に帰ると、リビングにあたる場所でスクナとシェリルが待っていた。スクナは相変わらずの着物姿だが、シェリルはなぜか巫女服になっている。


「その服はどうしたのだ?」


「おぬしの部屋を掃除したのだがな、ダンジョンブックが雑に置かれていたもんで触ってみたら、我でも操作できたのじゃ。シェリルは出来んかったから、たぶん我とおぬしだけじゃの」


「そうか。スクナも触れたのだな」


「それで、シェリルがいつまでもボロ着なままじゃ可哀そうじゃろうと思うてな」


「考えもしなかった。助かる」


 生きていくには服も必要なのだ。自分とスクナだけでなく、人間を抱えるなら、これからはその辺りの面倒も見ていく必要がある。

 孫市にとっては勝手にポイントを使われたことよりも、気を回した功績の方が大きい。


「次からは急ぎでなければ確認をしてくれ。資金もそのうちスクナが街に出ることがあれば預けよう。資源と人の管理に裁量を与える故、いい具合に回してくれ」


「承知したのじゃ」


「うむ。で、冒険者登録と買い物を済ませてきたのでな」


 孫市が買ってきたものと、冒険者プレートを出す。


「触ってもよろしいですか?」


 シェリルが訊ねた。


「好きにせよ」


「ありがとうございます」


 シェリルは「孫市預かり」という、なんとも言えない身分に落ち着いている。別に奴隷でも配下でもないが、孫市の世話になっているので、なんとなく上下関係がある、といったところだ。

 彼女は量産品の短剣を手に取ると、まじまじとその表面を眺めた。


「真っ先に鉄を手に取るとは、ドワーフとやらの血か?」


「え。あ、えへへ」


 女の子なのにすぐに刃物に興味を示したことに突っ込まれたシェリルは、照れ隠しに笑った。


「あの、これ本当にいい鉄を使ってますよ。仕上げが雑なだけで、十分に実用的だと思います」


「ふむ。儂の組打ち用と、ゴブリン共に持たせようと思ってな」


「そうでしたか。もし砥石があれば、整えられますよ?」


「研ぎが出来るのか。長巻も頼めるか?」


「お任せください。これでもドワーフですから」


 シェリルはぺったんこな胸を張った。

地味な話が続いてすいません

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