ていちゃん8才
ていちゃん
8才になったんだね
8才の夏
山に囲まれた田舎
ねえ
ていちゃん
何を考えているの?
うふふ
何を考えているのかな?
ていちゃん
8才になったんだね
遠くに海があるのを知っているんだ
あなたは
きのうの夜
土間にいるお父さんの背中に
海を想像してみんだけどな
お父さん何にも言わないんだものな
娘8才 夏の前
オレンジ色の陽射しが包む
午前中はスイカ
畑の中でスイカ
お父さんが持ってきてくれたスイカ
イトコのヨシくんと齧りましたね
スイカは土の上が一番
ヨシくんのお母さんがそう言いました
それはそうだけれど
そんなことより
ホントはもっとお塩
かけたかったんだよね
土の上
口のまわりが冷たかったな
たくさん汁がこぼれたな
スイカの蜜がこぼれて落ちた
ヨシくんがアリをたくさんみつけたな
さあ、ほうら
ノースリーブの夏が来た
あたし図書館行って来る
一人で図書館行って来る
お父さんが掛けてくれた手ぬぐい首に巻き
黄色いサンダルみぎひだり
何の本を借りようか
絵本なんかはもうだめよ
あなたは自分に言い聞かす
自動車通りは行かないで
神社の裏を歩いて行こう
どっちも車来るけれど
山がはっきり見える道
そっちの方が晴れてる気分
図書館は涼しいね
二の腕 汗が引っ込んだ
あー
あの大きな机
カッコいい
5年生ぐらいになったらば
あたしあの机で勉強しよう
本を3冊 大きな本を
ノートの脇にどさりと積んで
あたし勉強してみたい
でもあなたはやっぱり
絵本の棚に向かっちゃう
やっぱり足はそこで停まって
お気に入りになる絵本
見つける才能はスゴイから
さっきの暑い空気の中で
遠くに見えた山の深緑
おなじ景色を絵本の中に見つけちゃう
あれれ
もう決めてるね
うんうん
それを借りて帰るんだ
お母さんに見せたかったな
この絵本
そんな事
あなたはちょっと思ってる
ちょっと想っただけなのよ
なんて言い訳しちゃってる
ねーねー
この本に描いてある山
新海山といっしょだよ
あの山の緑と一緒だよ
そんな風に言ってみたいなんて
思ってる
帰ってアイス食べたいな
きのうお父さん買ったもん
チョコレート味のあのアイス
本読む前に食べよかな
いつも見ているあの犬の脇
今日はどうしているかな なんて
やっとお母さんから引き戻る
暑くてグデーっと寝ていたね
ふふふふ
ゾウキン見たいだね
茶色いゾウキンみたいだからさ
チョコレートアイス思い出したんだよね
ただいまーっ!
って大きな声で
あなたは納屋を引き開ける
どうしてお父さんが納屋にいるの知ってるの?
すごいねあなたは
すごい すごい
お父さんも一緒に食べればいいのに
ちべてー
うめー
ここなら
縁側なら
クーラーも扇風機もいらないねぇ
あっという間に一本食べて
すぐに戻った冷蔵庫
もう一本引き出して
チョコレートアイス
夏の午後
今度はそのままキッチンで
ゴチャゴチャテーブルその前で
カプリと一口頬張った
お父さん海行かないのかな
お母さんの海
お母さんのお墓
きっと行くよね
きっと行く
ちゃんと聞いてみようかな
今夜聞いてみようかな
婆ちゃんの晩のおかずは何だろう
お父さんにお酒飲ませて聞こうかな
きっと行くって言うわよね
うんうん ていちゃん
聞いてみな
さぁて
お父さんなんて言うかな
ドキドキしながら聞いてみな
だいじょぶ
わたしちゃんと見ているよ
だいじょぶ
お父さん
ちゃんとお返事くれますよ
もう一本食べちゃおうかな
あらら
それはダメですよ
昔からお腹が弱い子なんだから
それよりさ
早く絵本を開いてよ
やっぱやーめた
お腹こわしちゃうもんねー、だ
あったかいな
縁側は
あったかいな今日の陽は
なんだかとってもあったかい
ていちゃん
グデーっと横になる
さっきの犬さんみたいだぞ
ホラホラ
ていちゃん起きなさい
絵本借りてきたんでしょう?
ていちゃん
ていちゃん
ほら ていちゃん
あったかいな
あたたかい
うんうんそうか
まあ いいわ
少し疲れたんだものね
後で絵本開いてね
少しおやすみしたら
ちゃんと絵本開いてね
お母さんと見るんでしょう?
わたしと一緒に
わたしに見せてくれるんでしょう?
ね、ていな
ていな
ていちゃん
ていちゃん・・・・・・
ぐーぐー
すーすー
ぐー
すーすー
お読みいただきありがとうございました
では、また