夢
あまりに唐突で私は言葉が出て来なかった。
「他に好きな人がいるんだ、会社の後輩」
「俺がいないとダメな子で、彼女の傍にいてあげたいんだ。」
私の身体から血の気が引いた。
手足が冷たくなり、言葉が出て来ない。
何が起きているのか理解できない。
現実を受け止められず、立っているのがやっとだった。
「本当にごめん、このまま二股は嫌だったから、
おまえは強いから大丈夫だよ。
俺じゃなくても大丈夫。」
私は泣かないように空を見上げた、
今まで見たことがないような綺麗な星空だった。
「そう、わかった、
好きな気持ちは抑えられないよね、
私は大丈夫だよ。」
私は悲しく笑った。
暗闇で彼には見えない笑顔だった。
彼が波打ち際を歩いて行く、
彼の姿が暗闇に消えて行く。
「待って!!」
持っていたスマホが落ちて目が覚めた。
また同じ夢。
私はスマホを拾い部屋に戻る。
夜風で冷えた身体を温めようとお風呂場に行く。
鏡に映る自分が嫌い。
私はYouTubeでジャミロクワイをかけて、
お風呂に入る。
冷えた身体に温かいお湯が気持ちいい。
そしてまた泣いている。
なんであの時、あんなに強がったのか?
なんであの時、素直に別れたくないって言えなかったのか?
なんであの時、私は強くないって言えなかったのか?
なんであの時、冷静な振りをしたのか?
なんであの時、涙を見せなかったのか?
なんで、なんで、なんで…
私もあなたが傍にいないとダメだったのに…
人間は失ってから始めて大切だったと気付かされることがある。
彼は私の中でとても大きい存在になっていた。
海で話したあとに彼が家の近くまで送ってくれた、
海での別れ話しのあと何を話したのか覚えていない。
私は家に帰り部屋の明かりをつけた、
部屋は綺麗に片付けてあり、
ベットには新しいシーツがかけてある。
涙が溢れて来た。
ほんの数時間前の私の予定では、夜はこのベットに彼といる予定だった。
なのに彼は今、子猫ちゃんと一緒にいる。
すべてが無くなった。
私だけがデートを楽しみにしててバカみたい。
今夜の為に新しい下着まで付けてバカみたい。
そろそろ結婚の話しでもしようか、なんて考えていた私がバカみたい。
色々と考えていたら、
だんだん笑えて来た。
私は1人で何してたのかな?
彼の気持ちが離れたことも気が付かないなんて、
自分のことだけ考えていた自分が恥ずかしい。
後悔と悔しさに押しつぶされそうになりながら、
数ヵ月後、私はその家から引っ越した。
彼を責めた時期もあった。
結局若い子が良かったんでしょ?
私のことなんて好きじゃなかったんでしょ?
私のことを何も知らないくせに、
私がどれだけ愛していたか知らないくせに、
私がどれだけ苦しい思いをしてるか知らないくせに、
私の人生返して、あなたのせいでめちゃくちゃ!
いくら彼を心の中で責めてもスッキリしない。
私の心に大きな穴が開いた。
心の穴はどうしたら埋まるのか?
おいしい物をたくさん食べても、
他の男性に抱かれても、
たくさんたくさん寝ても、
私の心に穴は開いたままだった。
お風呂から出て、ベットの上で寝ながらスマホをいじる。
さっきうたた寝したせいで少しも眠くならない。
時計を見ると11時を過ぎていた。
「まだ大丈夫かな?」
12時過ぎると1人での外出が怖くなる、
11時ならまだ大丈夫。
私は雑誌を買いに近くのコンビニに行くことにした。
私はジーパンに履き替え、
上着はパジャマの上にパーカーを羽織っただけだけど、
この時間に知り合いに会うこともないから大丈夫と家を出た。
6月下旬でも夜はまだ冷える。
あと一ヵ月もするとあの猛暑がまた戻ってくる。
1年が過ぎるのは本当に早い。
家から5分ほど歩くとコンビ二がある。
夜の住宅街は静かで昼とは違った顔をしている。
私が足早にコンビニに向かっていると、
「久しぶり!」
と声をかけられた。
振り向くとそこには彼がいた。
つづく