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シンデレラへのサプライズ 3

 現れた男性は長方形の大きな白い箱を抱えていた。

「こちらにお願いします」

 大志が言い、それを合図に絵菜や他の子がキャンプ用の簡易テーブルの上を手早く片付けて赤と白のギンガムチェックのクロスをかけた。

 十人を超えるバーベキューのメンバーもテーブルの周りに集合した。

「ほら瑠衣、こっちに来て」

 絵菜に手を引かれた瑠衣がテーブルの真ん前に連れて来られた。

「よし開けよう。オープン!」

 大志と友人が白い箱を開くと、中から果物や花と白いクリームで飾りつけた長方形の大きなケーキが現れた。

「うわぁ、凄いねえ」

 周りから歓声が上がり、瑠衣も「綺麗、凄い。どうしたのこれ?」と、目を見開いた。

「見て瑠衣ちゃん。誕生日おめでとう!」

 大志が言って、みんなも口々にお祝いしてくれる。

 驚いた瑠衣もケーキに『HappyBirthday Rui』と書かれているのを確かめた。

 バースデーソングを歌って歓声とともにいつの間に持っていたのか、みんながクラッカーを鳴らし盛大に拍手してくれた。

 記念写真を撮り、19の数字キャンドルの炎を瑠衣は吹き消した。

「みなさんありがとう。すっごく嬉しい、こんな誕生日は初めて。一生、絶対に忘れません」

 心から嬉しくて瑠衣は涙ぐんだ。

 今日は私の誕生日。

 大志くんを通じて知り合えたたくさんの仲間と過ごせると言うだけでも、幸せで特別だと思っていた。こんなにたくさんの友人に囲まれ祝ってもらえるなんて、想像すらしたことがない。

 家で誕生日を祝ってもらったのは小学校に上がる前、祖母が生きていて両親が離婚する前が最後だったな。

「すごいよ。これ、大志くんが準備してくれたの?」

「誕生日のことは絵菜ちゃんに聞いたんだ。だから内緒でね。驚いた?」

「すごく驚いた。嬉しいよ。ありがとう大志くん、絵菜」

 ケーキが切り分けられ色々な飲み物で乾杯する。

「あんた、今日が誕生日だったんだね。十九歳おめでとう。ケーキ、俺の分食べていいよ」

 隣から日比野が自分の分のケーキを瑠衣の紙皿に載せてきた。

「え、日比野さんケーキ食べないんですか?」

「甘いの俺、得意じゃないんだ」

 日比野さんて大志くんと真逆なんだ。

「じゃあいただきます」

 そう言って見上げた彼は、再会の時の怪訝そうな表情を解除した穏やかな笑顔で瑠衣にうなづいた。


 もう今は全然怖くない。

 それに日比野さんて大志くんと同い年なんだ。スーツじゃないと若く見えるな。



 その時、ポシェットに入れていた瑠衣の携帯が鳴った。

 着信はアパレルショップの店長からだった。

「瑠衣、お休みのとこ急にごめんね。夕方からのバイトの子が急に熱出しちゃって、来れそうにないって言って来たの。代わりを瑠衣に頼みたいんだけど」

「え、そうなんですか。確かシフトは十七時からでしたよね」

 今は十四時過ぎ、この場所からだと二時間はかかる。でも自分は社員だから行かないとは言えない。

 何とかして行けないかな、とすぐに瑠衣は考えていた。

 もしも夕方の渋滞にかかったりしたら。

 電車の駅も離れているけど、どっちみち今すぐにでもここを出なければ間に合わない。

 皆んなにお祝いしてもらったと言うのに、申し訳ないけれど。

「店長、何とか行きます。少しだけ時間を下さい、電話かけ直しますね」

 そう言って顔を上げると心配そうな大志と目が合った。

「瑠衣ちゃんどうしたの?」

 瑠衣が事情を話すと「そんな、嘘でしょ。休みなのに、せっかくの誕生日なのに。それ絶対行かなきゃダメなの?」と絵菜が憤慨した。

「でも私、社員だし。皆さんにせっかくお祝いまでしてもらったのに、こんなことになるなんて本当にごめんなさい。あの、迷惑かけてしまうんですけど、近くの駅までどなたか送ってもらえませんか」

「そういうことなら俺があんたの店まで送る。渋滞しないうちに。すぐ荷物まとめろよ」

 そう日比野が言った。

「日比野さん、まだ来てからそんなに経たないじゃないですか」

 瑠衣が止めると「僕が送るよ」と大志が言った。

「お前、今日の主催者だろ。俺は今夜仕事関係の会食が入ってるから、どのみち早く帰るつもりだったんだ」

 そう言った日比野は、もう周りの友人達をハグして帰りの挨拶を始めた。

「大志くんは隊長だもん、ここにいなきゃ。私、日比野さんのお世話になりますね」

 そう言うと瑠衣は店長に折り返しの電話をかけた。

「ごめんね瑠衣、無理言って」

「大丈夫です。これから向かいます」

 通話を済ませると大志がそばに居て、背の高い彼とまた目が合った時、瑠衣は急に切なくなった。


 さっきまで、自分がまるで物語の中のお姫様になれたようなハッピーな気持ちだった。

 せっかく大志くんが準備してくれたのに。

 大好きな眩しい優しい笑顔で、おめでとうって言ってくれたのに。

 寂しさにキューっと胸が締め付けられる。


「瑠衣ちゃん帰り気をつけて、仕事頑張ってね。お祝いの続きを今度やり直そう」

「そんな、大志くんごめんなさい。でも幸せで、今日は贅沢すぎてバチが当たっちゃったのかな。続きなんて気にしないで」

 けれど大志は首を横に振ると瑠衣の耳のそばで低く優しく言った。

「そんなこと言われたら返って寂しい。今度は僕と二人で、だめ?」

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