冬の陽射し 7
瑠衣との通話を終えた大志は思わず小さく息を吐いた。
瑠衣の災難と偶然そこに居合わせた裕也、その両方がショックな出来事だった。
でも、瑠衣が無事でよかった。
住む家を失った彼女にとって裕也と再会したのは幸運だったのだと思う。その一方で彼女に助けが必要だった時に、また自分は何の力にもなれなかった。
それに今は瑠衣が裕也のマンションにいることが気にかかる。
中学高校と一緒だった裕也とはクラスも部活も同じで、自分とは性格的に違いは多いけど行動的で面白くて友達思いのいい奴だ。
けれど、特に高校時代の彼は女の子との付き合いに関しては派手というか、見た目が好みなら手当たり次第と言っていいくらい奔放だった。
顔立ちもスタイルも良くて目立つし、少しも悪びれずにモテを享受する裕也。
付近の女子校からサッカー部の練習を見学しに来る女の子が「出待ち」して裕也に手紙やプレセントを渡していた。
なのに当の本人は女の子の気持ちには疎いし理解しようともしないフシがある。
マイペースだから付き合いが長続きしなくて結果、彼女は取っ替え引っ替えという事になる。
「別れるって言った覚えないのに、裕也くんて何考えてるかわかんない」
「連絡くれないし優しくない」
裕也と付き合う女の子たちから自分がそう愚痴を聞かされることもあった。
面白くなくてやっかみ半分陰口を言う奴もいた。
「裕也ってさあ、本当は親父さんの愛人の子なんだろ。十個上の腹違いの兄さんがウチに通ってたってさ」
「そういうの昔からありありな家柄らしいからね、血筋だろ」
その頃は親兄弟が幼稚園時代からの同門というのが珍しくない、名門と呼ばれる学校の厭らしさを感じて大志は噂に耳を塞いでいた。
けれど瑠衣がこうして裕也の側に暮らすようになったと知った今、大志はたまらなく気持ちが騒いだ。
裕也の過去やつまらない噂を思い出すなんて。
困っていた瑠衣ちゃんを助けただけのアイツに僕は何を思ってるんだろう。
彼女が好きで、好きで独占したくて。だからこんな時にまで嫉妬するんだ。
そんな奴じゃないのに、裕也の奔放さが彼女に向けられたりしないかって気にして勝手に苦しんでる僕は、なんて器の小さい人間なんだろう。
「瑠衣、久しぶりだねー。年末に火事だなんて本当に大変だったね、生きててよかった。ま、一応あけおめのことよろ」
瑠衣が部屋のドアを開くとサングラスを頭に載せた近江海斗が立っていて、手を挙げて挨拶してきた。
紫色のパーカーに革ジャン、ダメージジーンズに鮮やかなグリーンのスニーカー。
ストリート系のスタイルは確かに男の子なんだけど、海斗は中性的な顔立ちで肌も綺麗だし瑠衣と身長も変わらない。
もっとも瑠衣は身長が168センチあるので女子では背が高い方だ。
「海斗久しぶり、あけましておめでとう。うん、でもどっちみち引越ししなきゃだったし、これから頑張る。もうこのまま出かける?」
「うん、裕也も来た」
瑠衣が靴を履いて体を起こすと、急に頭から肩の上に何かがパラパラっと落ちて来た。
「何これ、キャアアっ虫っ!いやあっ!」
数匹の虫が髪からコートに落ちかかって来て、それを必死に払いのけた。
途端に海斗がゲラゲラ笑いだし、笑いながらさらに玄関に落ちた何匹かの虫を瑠衣に向かって放り投げた。
「キャアアっ嫌だって!怖いっ海斗これ何、ゴキブリ?」
玄関の壁に張り付くようにして動けない瑠衣を見て海斗は笑いが止まらない。
「ヒャハハ、アハハハ……苦しい、あーウケる。瑠衣よく見ろよこれ、はいあげる。お年玉」
こちらに差し出した彼の掌には数匹の虫が載っていた。
「やだっ怖いっ!海斗もう、出てって!」
瑠衣は海斗を廊下に押し出そうとした。
「お前ら何騒いでんの、やめて。廊下に響いてる」外から聞こえた今の声は日比野だ。
「ごめんなさい日比野さん、でも海斗が」
「だから瑠衣見てほら、これ。オモチャだよ」海斗が急に冷静に言う。
「あ、ほんとだ」
虫は全て良くできたゴキブリ型のオモチャだった。
「でもやだ、こんなの要らない、もう。怖い、持って帰って!」
「はいはいもう、怒んないでよ。早く行こう」
「早くって、もう。海斗のせいだよ」
久しぶりに会ったお正月だと言うのに、のっけから海斗は悪戯を仕掛けて来た。
「瑠衣のリアクション良かったわー、清々しいね、最高。俺の動画に出てくれない」
「絶対やだ」
「妹と一緒でいいから」
海斗には、名前や顔は公開していないけどたまに動画に出ている万鈴ちゃんという二歳下の妹が一人いる。彼女にドッキリを仕掛けて逆に怒らせてキックとかされてる動画もある。
「もっとひどいことするでしょ、嫌に決まってる」
そんな海斗だが動画クリエイターとしての人気は広がっていて、フォトブログやショートメッセージアプリのフォロワーもすごい数だ。
瑠衣自身も海斗の動画チャンネルを楽しみにしているリスナーで、フォトブログやメッセージアプリのフォロワーだった。




