表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/37

二本のガーベラ 3

 冬が訪れ十二月になり、瑠衣はこれまで続けてきたファミレスの仕事を終わりにしようと思っていた。

 D化粧品のCMに出演してからまた更に地方のCMモデルの仕事の依頼があったし、当面の目標にしてきた引っ越し費用も目処がたった。

 何より大志と会う時間をもっと作りたかったし、友達と過ごす時間も欲しかった。

 これまでは仕事で出会った絵菜を始め、大志を中心としたグループで知り合った女子大生の女友達と一緒だったけど、最近は時間がなくて疎遠になっていた。

 ()()()写真をアップして、お互いにチェックやコメントをし合っていたフォトブログにも、気づけばその子たちからのコメントがなくなっている。

 自分と学生の子達とは生活が違うし、楽しそうな遊びの誘いに乗り切れないのも寂しいけど仕方がない事と思っていた。

 でも絵菜と共通の友達で同じ女子大生の有紗(ありさ)からのチャットを見た時、瑠衣は何かで刺されたように心が痛んだ。

『瑠衣、絵菜と何かあったの?』

「どうして?この頃会ってないけど」

『なんか絵菜が、瑠衣にすごく腹立ててるから』

 大志と過ごしたカフェのフォトブログを見て店に来た時の絵菜。

 その様子を思い出すと急にひどく気になって、仕事帰りに有紗と会うことにした。


「絵菜は瑠衣がモデルの仕事の為に大志くんにくっついて、彼を利用してるって言ってたけど」

「そんな、モデルは会社の人から直に言われてやっただけだよ」

「でもその人大志くんのパーティーに来てたんでしょ。彼に頼んで色んな会社の上の人と顔合わせして貰ってるんじゃないの?大志くんのお父さんも広告業界の偉い人だし」


 親がそんな人だなんて。

 そんなこと知らなかったし大志も言ったことがない。

 瑠衣自身もこれまで家庭のことや過去のことを大志に話したことがなかった。

「そういう事、逆に今日有紗に聞いて知ったよ」

「えー、瑠衣本当に知らなかったんだ?今さらなんだけど」

 戸惑う瑠衣に有紗が苦笑する。

 絵菜は最近、女子大の友達を集めてこれからの広告の仕事について大志に聞くイベントを開いたらしい。

「ほらこれ、打ち上げの写真」

 有紗が見せてきたスマホの写真には、満面の笑みを浮かべる絵菜や有紗や他にも瑠衣の知らない女の子達と写る大志の姿があった。

「絵菜がブログとかで拡散して、すっごいたくさん人来たよ。大志くんはほぼボランティア仕事だけど、絵菜がお願いしたら神対応だったって」

 知らなかった。

 二人でいる時、瑠衣の相談は聞いてくれるけど大志は仕事の話をしない。

 ファッション雑誌の読者モデルもして顔が広い絵菜は行動力があり、だから大志も力になったのだろうと瑠衣は思った。

「すごいね絵菜、自分でイベントをするなんて」

「知らなかったの瑠衣、大志くんの彼女なんでしょ。打ち上げでみんなに聞かれて大志くん、彼女いるって言ったから」

「そうだったの」

「余裕だねー、瑠衣。絵菜が後から、彼女って誰ですかって大志くんに聞いたって」


『二人で会うこと、僕は別に秘密にしないよ』

 初めから大志くんはそう言ってた。


 それに絵菜と最後に顔を合わせた時はまだ彼と付き合ってはいなかった。

 でもそれから彼女とぷっつり連絡が途絶えていたから、大志くんにそのことを聞いたんだ。

 絵菜に、私が大志くんと付き合ってることを隠してたって思われたの?

「しばらく絵菜と会ってなくて、その間に大志くんと付き合う事になったの」

「モデルの仕事絡みで皆んなには隠しておきたかったんじゃなく?」

 やっぱりそう思われてたんだ。

「本当に隠してないよ」

「そう。瑠衣は若いしもう社会人だから、私達とはやり方違うよねって絵菜言ってたわ」

 若いって、一、二歳しか違わないのに。

 仲間内の女の子達と違って大学に通ってないのも、一刻も早く自立して生きていくため。

 やり方違う、なんて。

 そんなんじゃない、大志くんとのことも隠してなんかいない、誤解してる。

 でもそう言えない。

 有紗にうまく伝えられる自信がない、そう思って瑠衣は言葉を飲み込んだ。

 その日帰ってからチャットアプリで絵菜に連絡してみたけれど、いつまでも既読にならなかった。

 反応がこれまでと違う。

 もしかして無視されてるの。

 数日経ってやっと『久しぶり、何か用』と絵菜から素っ気ない返信があった。

「大志くんのことで、絵菜に誤解されてると思ったの。話したいから会えない?」

『有紗から聞いたし私は別に話すことない。瑠衣に騙された感あるし正直会いたくない』

 騙された、と決めつけられた心の痛みをこらえて「騙してないよ」と返すと『電話していい?』と返信が来た。

 かかってきた電話に出ると絵菜が突き放すように言った。

「話しつこくない?会いたくないし、もう。」

「ごめんね。でも隠してたんじゃないし……」

「そんなのどうでもいい!」

 瑠衣が言いかけた言葉を遮って絵菜の声が大きくなった。

「瑠衣ってなんか信用できない。それに、中学の時から援交してたって噂聞いたんだけど、マジ?それって大志くん知らないんでしょ、知ってて付き合えるわけない。キモすぎる、だからもう連絡しないで!」

 それっきり電話が切られた。

 うそ、どこからどうしてそんな噂が立つの。

 そんなこと一切ない、援交なんてしたことない。

 学校も全く別だった絵菜にどうしてそんな事言われるの。

 どこで、誰がそんな事言ってるの。

 部屋の床にスマホを放り出して瑠衣は放心した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ