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二本のガーベラ 1

『今日は心配をかけてしまってごめんなさい。でも日比野さんのおかげで仕事も間に合いました。大志くん、お祝いめっちゃ嬉しかった。本当にありがとう!』

 瑠衣からのチャット画面を眺めると大志はひとまず安心した。

 バースデーサプライズの余韻を楽しむ間もなく仕事モードに戻った瑠衣は、裕也の青いマセラティに向かって駆けて行った。

 本当はせめて自分で瑠衣を送り届けたかった。

 あれからずっと、あの時裕也に瑠衣を託した事が悔しくて胸がジリジリ炙られる気がする。

 明らかに理不尽な嫉妬まで裕也に感じている。

 この一年あまりはデジタル広告やイベントの仕事と、プライベートでは友人と過ごす時間を第一にしてきた自分だった。

 それが今は、裕也の身軽さに嫉妬して瑠衣を独り占めしたいと思っている。

 自分が大人げないとよくわかっている。

 こんな思いをするくらいなら、行動すればいい。

 瑠衣とだけ過ごす時間を大志は手に入れたくなった。




『今、電話してもいい?』

 バーベキューの翌日チャットで大志にそう聞かれてからほぼ毎日、瑠衣は大志とチャットか電話で連絡を取るようになっていた。

 あの別れ際の言葉どおり、Y市の港が見えるデッキ風のオープンテラスがあるレストランで、ランチをしようと大志は誘ってくれた。

 瑠衣が最近フォローしているフォトブログでも見た写真映えする風景や、お洒落で美味しそうなメニューがアップされている素敵な場所。

「そこ、すごく気になってたところです。楽しみ」

「そうなの?僕も初めてだから楽しみ。晴れて暖かければ外のテラスでご飯してもいいね」


 初めて大志くんと二人だけで出かける。

 これってデートみたい。

 すごく楽しみなのに、考えるとドキドキして緊張してきて苦しくなる。

 髪は下ろして巻いていこうかな、その前に何を着て行ったらいいんだろう。

 大志くんに褒められたいし可愛いと思ってほしい。

 いつも仲間の輪の中で明るく光っていて、彼の近くにいると心が照らされる気がする。

 私、大志くんが好き。


 約束の日、待ち合わせ場所に背の高い大志の姿を見つけた瑠衣は、やはり緊張しながらも近づいて声を掛けた。

「大志くん、待たせてごめんね」

 すぐに気づいた大志は瑠衣の大好きないつもの笑顔だった。

「いいや全然、会えて嬉しいよ瑠衣ちゃん。うん、すごく可愛い」

 一人ファッションショーを重ねた結果、今日はニットとハイウエストのスカートに秋らしくスウェードのパンプスを合わせて、流行のベレー帽を被って来た。

 メイクの色味も服装に合わせて考えて。

 大志からストレートに褒められて瑠衣は嬉しくなった。

 風もなく天気が良いので、憧れのオープンテラスでランチをした。

「寒くない?」

「大丈夫です。とってもいい景色」

 周りの風景もランチのプレートも、フォローしているフォトブロガーの写真と同じく素敵で、瑠衣も写真を撮った。

「大志くん、この風景とランチの写真、フォトブログにアップしてもいいですか?」

「いいよ、綺麗だよね。月ごとにメニューが変わるらしいね」

 美味しい食事をしながら、最近またモデルの依頼があったヘアケア商品のCMのことを瑠衣は大志に話した。

「連絡あった?D化粧品の依田さんが、瑠衣ちゃんは綺麗で透明感があってイメージにぴったりって言うからさ。瑠衣ちゃんに直接聞いてオッケー貰ってって言ったんだ」

 大志くんに言われると恥ずかしくなる。

 けど、D化粧品の依田(よりた)と言う女性担当者から、全く同じ言葉で瑠衣は依頼を受けた。

「私でいいのかなって思ったんですけど」

 大志との交流が思いがけず繋いだ縁で、ポツポツとだが瑠衣はモデルとして起用されることがあった。

 以前頼まれた別の人から事務所に所属してはどうか、と勧められもした。

 けれどそれが本業になるとは思えず、改めて考えることはして来なかった。

「自信持っていいのに。人の目に触れる仕事だから、苦手と思うなら仕方ないけど。でも瑠衣ちゃんならできるって、僕は思うけどね」

 大志くんがそう思ってくれるのなら嬉しいな。話してみてよかった。

「あ、大志くんせっかくお休みなのに。私の仕事の話なんかして、ごめんなさい」

「謝らないで瑠衣ちゃん、迷ったらたくさん相談して。僕の守備範囲の話だから少しは役に立つかも、だから」

 いいの?大志くん。

 そんな事言われたら甘えたくなってしまう。

 うんと頼りにしてしまうかも。

「ありがとう大志くん、落ち着いて考えてみます。また相談するね」

「うん任せて。さあ瑠衣ちゃん、選べるデザートはどれにする?」

 メニューを手にした大志と額を寄せ合って、真剣な顔で迷う彼をそっと見ると瑠衣はまた嬉しくなった。

 甘い物好きだよね、大志くん。

「どれもいいな。大志くん、別々のを頼んでちょっとずつシェアしたいけど、いい?」

 時々でいいから、こんな風に大志くんのそばで過ごしたい。

 そう思いながら瑠衣が言うと、

「いいよ。君がシェアしてくれるなら季節のジェラートを単品で追加したいな。いい?」

 大志くんも言って、目を合わせて微笑んだ。

「うん、いいよ」

 瑠衣も答えた。

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