第57話 王女の使命 ― その5 ―
裏門には、ソフィアが待っていた。
太陽はまさに今、地平線から顔を出そうという刻だった。
馬上から、リディはソフィアに言った。
「正午に早馬を出せるよう、準備を頼みたい。国内だけでなく、総督府、近隣諸国すべてに声明を出す。それから9時に緊急会議を開く。幹部全員に集まるよう、伝えてくれ。」
突然の申し出にソフィアが茫然としていると、リディは優しく言った。
「ソフィア。今回の事は、本当に感謝している。」
ソフィアは、僅かに細い眉を震わせた。
「本当は・・・憂いておりました。もしかしたら、このまま戻らないのではないかと。」
「なぜ?私の居場所は、ここしかないのに。・・・追い出されても、行くところなどないのに。」
馬に乗ったまま城へ駆けていくリディの後ろ姿に、ソフィアは安堵の息を吐いた。
城を出ていくときは、それこそ死んでしまうのではないかと思うくらい沈んだ表情をしていた。だが、今のリディには生気が戻っている。何があったか聞くことさえできないが、少なくとも行かせたことに間違いはなかったのだ。
(それにしても、リディ様は一体何の声明を出そうというのだろう・・・?)
9時に少し遅れて、リディは会議室に入った。
すでに幹部20名は首をそろえ、派首のお出ましを待っていた。
長方形のテーブルの一番奥に立ったリディは少し深呼吸をして、幹部全員の顔を身渡した。
「緊急に集まってもらったのは他でもなく、大事な話があるからです。」
ソフィアは、ハッとして隣のリディを見上げた。
仲間や部下に対し、こんな丁寧な言葉遣いをしたことなど今までなかったことだ。
これは只事ではない・・と、誰もが思った。
「私は、これから広く声明を出すつもりでいます。でもその前に、皆さんの了承が必要です。」
「そんな。リディ様の御判断に、我々は従うまでです。」
幹部の一人がそう言うと、リディは頷いた。
「今まではそうでした。でも、今から私が話すことを聞いたら、心が変わるかもしれません。」
リディは、机についた両手をギュッと握りしめ、前へ身体を倒した。
「私は、アドルフォの娘として育ち、今日まで生きてきました。でも本当は、私はアドルフォの娘として生まれたわけではありません。」
「!!」
キールもソフィアも、思わず息を呑んでリディを見上げた。
その事実を、リディ本人に話したことも、匂わせたこともない。リディには絶対に知られてはならないと思っていたのに、一体どこでばれたのか?
リディは、ゆっくりと言葉を選んで話した。
「8年前、私はこの事実を知りました。私自身、信じたくはありませんでしたが、認めざるを得ない確かな証拠が私の身体に刻まれていたのです。それが何かは教えられませんが、私の正体は間違いなく、滅亡したはずのプラテアード王家の末裔・・王女なのです。」
キールは、何もかもわかった気がした。
8年前といえば、アンドリューとの出会い。
バッツがアンドリューを助けた時に見たという額の紋章。一緒にいたジェリオは、それを王家の者の徴だと推測したという。そしてその通り、アンドリューは王子だった。リディの身体に刻まれたという証拠とは紋章のことであり、それを教えたのはアンドリューだろう。リディを連れだしたあの夜、満月だった記憶がある。
「私の正体を教えてくれた人から、この事実は様々な方面へ波紋を呼ぶから隠しておくべきだと言われ、それを守ってきました。でも結果的に皆さんがそれを裏切りだと思うのならば、私はそれを否定しません。アドルフォの娘でない私は、派首として上に立つ資格はないと思っています。それに、アドルフォの目指す民主的な独立国家を望む皆さんが、こともあろうに対局する王家の末裔を派首として認めることなどできるわけがないとも思っています。国外追放さえ、やむを得ないと覚悟しています。」
キールは、強張った唇を無理に開いて聞いた。
「なぜ、今なのですか。その事実をなぜ今、我々に知らせたのですか。」
リディは、悲しげに嘲笑した。
「私は卑怯者なので、この事実を隠し通せるなら隠しておきたいと思っていました。それが・・いけなかったようです。皆さんに伝える前に、アンテケルエラの王子に知られてしまいました。王子は王女である私との結婚と引き換えにプラテアードの食糧難を救うと言ってきました。それに応じぬ場合は、すべての取引から手を引き、私が王女である事を大陸全土に公表すると。」
ソフィアは、静かに息を呑んだ。
アンテケルエラの王子は、単にリディを欲したわけではなかったのだ。リディが王女と知ったからこそ興味を持ったということか。
「それで、リディ様は何と?」
「返事は、これからです。私の一存で決められることではありませんから。プラテアードを救うために嫁げというなら、そう・・します。」
ソフィアは、弾かれたように立ち上がった。
「それでいいのですか!?リディ様が、アンテケルエラの王子との結婚を望んでいるとは思えません!」
キールも、それに続いた。
「リディ様は、どうされたいのですか。それを聞かない事には、我々に判断はできません。アンテケルエラに嫁ぎ、王妃となることがリディ様の幸せに繋がるのなら、止めることはできません。それともリディ様は、今まで通り派首として活動していきたいとお考えですか。」
「私の気持ちは一切考慮しないでください。私がどうしたいという問題にはしてはいけません。考えるべきは、プラテアードの最大の利のみです。プラテアードのために私はどうすべきか、ここにいる幹部の皆さんで御決断ください。私は自室で待っています。結論が出たら、知らせてください。」
リディが部屋へ戻ると、ほどなくして扉がノックされた。
扉の向こうにいたジロルドの表情を見たリディは、(私の出生の秘密が明らかになる時が来た。)と直感した。
部屋の中に入るや否や、ジロルドは驚いて辺りを見回した。服や下着がトランクに詰められ、部屋は綺麗に片付いている。
「リディ様。まさか城を出ていくつもりでは・・・?」
「このまま、ここに居られると思ってはいけませんから。」
ジロルドは木の椅子に腰かけ、深い息を吐いた。
「キールから、幹部会議の話を聞きました。」
「先生は、御存知だったのですか。」
「リディ様が王女であることは、わしとアドルフォ様だけの秘密でした。ですが、リディ様がアドルフォ様の本当の娘でないことは、キールやソフィアも知っております。リディ様の側近としてお守りする上で必要なことですからな。」
「・・・知っていて、私を派首に据えておいたのですか。」
「血の繋がりがあろうとなかろうと、アドルフォ様の魂を受け継いでいるのはリディ様だけです。・・・まさか王女だとは、思ってなかったじゃろうが。」
リディは、ジロルドの向かい側に座った。
「知っていることを、すべて話してくださいますか。」
「・・・今でも覚えております。ジェードとの戦いで白旗を上げたプラテアードの王家は皆殺しでした。しかし産み月を迎えていた王妃様のみ、アドルフォ様がお助けに上がった時、かすかに息があったそうです。アドルフォ様は王妃様から頼まれ、腹を切り裂き赤ん坊を取り上げたと・・・。そしてアドルフォ様は、その血だらけの赤ん坊をマントに大事に包んでわしの所へお越しになった。」
「父は、私がいつか王女であることに気付くと思っていたのでしょうか。」
「それは、アドルフォ様が本当の父親ではないということにも気付く時。望まぬことではあるが、いつも覚悟はなさっていたようですじゃ。」
「気づいても、私がプラテアードを率いることを望んでいましたか。」
その問いに、ジロルドはカッと目を見開き、大声を上げた。
「当前でございます!アドルフォ様が心血注いですべてを教え込んだことを何だと思ってらっしゃるのですか?リディ様は幹部達に結論を出せとおっしゃったそうじゃが、それは愚問ですぞ。リディ様はご自分の意志で動かねばならんのです。誰がなんと言おうと、例え反対されようと、アドルフォ様の御意志を継いでいかねば!」
リディは悲しげな瞳で、ジロルドを見つめた。
「父は偉大過ぎるんです。私が父と同じ立場に立てるとは思えません。皆だって、そう思っているはずです。皆は私が父の・・・アドルフォの血を引いているから、私を立てていてくれただけだと思います。それが崩れた今、私を派首に据える理由がなくなったではありませんか。」
「確かにアドルフォ様は非凡なお方でした。人生のすべてを、王家と、独立に捧げた立派なお方。アドルフォ様が亡くなっても尚、国民の独立を望む士気が衰えないのはリディ様がいるからに他ならんのです。リディ様は、皆の希望の光なのです。血が繋がっていなくとも、アドルフォ様と人生を共に過ごしたのはリディ様しかおられません。それを否定なさるなど・・・アドルフォ様がお聞きになったら、どれほどお嘆きになるか。」
リディがジロルドの言葉を肯定も否定もできないでいると、扉が再びノックされた。鍵が開いたままの扉を、ソフィアが開けた。
「先生。恐れ入りますが、二人きりにさせてください。」
ジロルドは少し腰を屈める様にして、部屋を出て行った。
ソフィアはリディが荷造りを済ませているのを見て、グッと奥歯を噛みしめた。
そして、意を決したように顔を上げ、告げた。
「幹部達の結論が出ました。・・・国外追放です。」
リディは顔色を変えることもなく、黙って頷いた。
ソフィアは、唇の端を軽く噛んだ。
「予想通り、・・・ってことですか。」
「いいえ。どんな結論でも、覚悟していたということです。」
「プラテアードを出て、どこへ行かれるつもりですか。」
「・・・。」
「先ほど、行くところなど無いとおっしゃいましたよね。」
「・・・。」
「ジェードの総督府は、国外扱いですよ。」
刹那、リディとソフィアの視線が、ぶつかった。
「これで心置きなく、アンドリューのところへ行けるというわけですわね。」
リディは、首を振った。
「そんなこと、できるわけがない!」
リディの叫びを聞いたソフィアは、フッと息を吐いた。
「なるほど。リディ様は、そういう所が駄目なんですね。」
「え?」
「兄もフィゲラスも絶対に口を割らなかったし、私もリディ様をお見送りする時、何も申し上げませんでした。でも、私はアドルフォ様に鍛えられたスパイですから・・・察するのは得意なんです。」
「・・・。」
「ジェード総督府の監視下で、一介の医師に過ぎないフィゲラスが何から何まで一人でリディ様を助けたなんて話、私には通用しませんよ。絶対に裏に誰かいるはずだと思っていました。それに、リディ様が忍んででも会いに行きたい人なんて一人しか思い浮かびませんでしたし。そして今のお返事。私の目論見が正解だったということですわね。」
リディはソフィアから目を反らすと、トランクの取っ手を掴んだ。
「プラテアード人が絶対に行ってはいけない国がジェードであることくらい、わかるでしょう。」
「国外追放ですよ?国から見放されたんです、リディ様はもう、プラテアード人ではないんですよ。」
「それでも血は・・・私の身体に流れる血は、プラテアードのもの。決して変わることはできないのです。」
そう言って背を向けたリディの腕を、ソフィアは思わず掴んだ。
リディは振り向きざまにソフィアの力強い、しかし切ない瞳を目にした。
ソフィアは、低い声で訴えた。
「これが・・・、これが、最後のチャンスなんですよ。」
「・・・え?」
「アンドリューの所へ行ける、最後のチャンスだと言っているんです!」
「ソフィア・・!」
リディは、ソフィアが何を言っているのかすぐには理解できなかった。
ソフィアは金髪のウェーブを揺らしながら訴えた。
「私にとってアンドリューは敵です。しかも、リディ様が国へ捧げるべき御心を奪った、この世で最も憎むべき男です。でも、それはリディ様がプラテアードの派首だからこその話。そうでないのなら、憎む必要はありません。」
「それは・・・。」
「これで派首としての責任からも、王女の身分からも解放されたんです。リディ様はもう、ジェードの敵ではないんです。・・・いいんです。もう、好きな人の所へ行っていいんですよ!」
王女であることが他国に広まれば、リディは、今までとは別の次元で国家間の争いに巻き込まれるはずだ。アドルフォだって、それを一番恐れていたに違いない。エストレマドゥラ王子がリディの正体を公告する前に、国も身分も名前もすべて捨ててアンドリューの所へ行けばいい ――― ソフィアは、そう考えたのだった。
リディは、ソフィアを見つめながら静かに首を振った。
「・・・国から見捨てられても、私が国を裏切ることはできないのです。」
「そんな・・・!」
「ソフィアの言う通りにできたらと、思わないわけではありません。でもそんなことをしたら、私が、私を一生許さない。・・・第一、アンドリューは私など受け入れません。」
「夕べ、お会いになったのでしょう?何と言っていたのです?」
「私が、もっと覚悟を持たねばならないことを諭してくれただけです。」
「覚悟って・・・。」
「もっとも、国外追放ではその助言も役に立たなくなってしまったけれど。」
ソフィアは、リディの正面に回り込んだ。
「本当はどうなさるおつもりだったのです?アンドリューの言う覚悟とは、何だったのです?これが最後です。聞かせていただいてもいいでしょう?」
「・・・言えば、未練が残ります。」
「では、国外追放を望んではいなかったということですね。」
リディは少しの沈黙の後、口を開いた。
「プラテアードの血が濃く流れている私は、この国を離れて生きてはいけません。本当は、派首という立場でなくても、父の・・・私を育ててくれた父の志を叶えるべく、力を尽くしたかった。この国で生き、この国のために死にたかった。」
「では、始めから私たちにそう言えば良かったではありませんか?」
「アドルフォの娘だと偽っていた私に、何も言う資格はありません。第一、一番嫌な事はアンテケルエラに嫁ぐことで、次に嫌なのが国外追放だなんて本音を言ったら、皆の選択肢はなくなってしまいます。」
ソフィアは長い睫毛を伏せがちにし、しかし強い意志を口にした。
「アンテケルエラへ嫁がせることだけは、私が許しませんでした。他の幹部がどうしてもと言うなら、リディ様と逃亡する覚悟でした。アンテケルエラの王子がリディ様になさったことは、同じ女として絶対に許せません。これだけはリディ様の立場以上に大切な部分だと・・・知っているからです。」
「ソフィア・・・。」
「私が、国や思想のために女の幸せを捨てたと思ってらっしゃるでしょう?でも本当はそんな立派なものではありません。ただ好きな人のそばにいたかった、そんな不純な動機だったのです。私の幸せは、あの方と同様、国のために命を捧げる事です。あの方の遺志を継ぐことそのものが私を満たすんです。でもリディ様は違います。国から捨てられたリディ様がアンドリューの所へ行って、女としての幸せを求めても、誰も咎めはしません。敵でも味方でもなくなったんです。我慢する必要がなくなったんですよ!?」
リディはその時初めて、ソフィアが父を愛していたのだということを確信した。
ソフィアは、決して叶うことがなかった自分の恋の代わりに、リディにその夢を託そうとしているのだった。
それら総てを察して、リディは紅茶色の瞳でソフィアを見つめた。
「ありがとう。その気持ちは本当に嬉しい。でも、できないのです。」
「アンドリューがリディ様をどう思っていらっしゃるかは知りません。でも今片思いだとしても、押しかければいいんです。強引にでも一緒に居れば、そのうち情も移るというものです。」
「ソフィアには、そんなことできて?」
「・・・いえ・・。」
「でしょう?それに私が行かないのは、お互いの思いがどうかという問題ではなく、ジェードに行かないという事がプラテアード王家の末裔である私の使命だと思うからです。」
「使命・・・。」
「そうです。実は8年前、私が王女であるという事実を教えてくれたのはアンドリューでした。アンドリューは私がどう生きていくべきか、私以上にわかっていました。もし私が国外追放処分になったからといってジェードを頼ったりなどしたら、軽蔑されてしまいます。」
8年前、ソフィアの反対を振り切ってアランについて行ったリディ。あの時は、何があったのか一切話してはもらえなかった。そう、あれは、リディの出生の秘密を打ち明けるためにアンドリューが呼び出したものだったのだ。アンドリューがなぜそんな重大な事を知っていたのかはわからない。しかし。
「私は、いつでもアンドリューに恥じない生き方をしたいと思いながら、今朝ここへ帰ってきました。幹部の皆が望むのなら、国民のためにアンテケルエラへ行くことも覚悟しました。アドルフォの娘としてではなく、私が私の使命を果たして生きていくことを決意したのです。」
「後悔、しませんか。」
「・・・ええ、しません。」
リディの言葉を聞いたソフィアは、深く頷いた。
「ならば尚のこと、言われるままに国外へ行ってる場合ではありませんね。この国が独立する日を、この国で迎えていただかなくては。」
「・・・でも私は、もう・・・。」
その時、部屋の扉がノックされた。
リディの返事を待つことなく、キールが入ってきた。
「リディ様、用意ができました。」
「え?」
「早馬です。ソフィアに御命じになったと聞き、準備いたしましたが。」
「でも、私は・・・。」
リディは訳が分からず、困惑の表情でソフィアを見た。
ソフィアはキールに二言三言耳打ちし、驚いて言葉を失ったキールを置いて部屋から出て行った。
キールはため息を吐き、改めてリディの方を向いた。
「ソフィアがつまらぬ事を申し上げたようで、申し訳ありません。国外追放など、ありえませんから。」
「どういうことです?」
「リディ様の真意を確かめるために嘘を言ったようです。本当に、何を考えているのか。」
「嘘?・・・では、私は本当はどうすればいいのです?」
「無論、今まで通り派首として我々をお導きください。そもそも私やソフィアは、リディ様がアドルフォ様の本当のお子様でなくてもついていく覚悟でお仕えしておりました。真実を知った他の幹部も、同じ気持ちでした。・・・当然ではありませんか。血が繋がっていなくても、アドルフォ様の遺志や思想を最も受け継いでいるのはリディ様なのですから。」
リディは、何が本当の結論なのか理解しかねていた。
だが、キールから幹部会議の内容を説明されるうちに、結局元の鞘に収まったということ、そして王女の身分が諸外国に知られることへの対策を早急に練ることになったということがわかった。
自分がここに居ても良いということに喜びを感じる間もなく、リディは用意しておいた何十もの封書をキールに渡した。それは、城に戻ってからリディが急いで書き上げたものだった。
「明日の日の出までに届けるよう、伝えてください。そして、くれぐれも気を付ける様にとも。」
キールは手を胸に当て、頭を下げた。
「かしこまりました。リディ様・・・今後は、以前どおりの口調でご命令ください。」
「それは・・・もう少し待ちます。その封書の幾つかは、私が明日の午後3時に声明を発表する旨の通達です。国民が私を受け入れてくれたら、元に戻しましょう。でも、受け入れてもらえなかった場合はキールを派首に据え、今度は私が下につきます。」
「・・・それは、舞い散る木の葉と木の葉が重なるほどの確率でしかあり得ないことです。」
リディはその答えに返事をせず、キールを見送った。
緊張から少しだけ解放され、リディは窓辺に立ち空を眺めた。
明日は満月。エストレイとの約束の日。そして、リディの勝負の日でもある。
その重さを抱きながらも、リディはソフィアの取った行動を思い返していた。
(ソフィアは、国外追放になったということにして、私がアンドリューの所へ行く後押しをしてくれたのだろうか。それとも私がアンドリューの所へ行くかどうか、試そうとしていたのか・・・。)
――― リディ様はもう、ジェードの敵ではないんです。・・・いいんです。もう、好きな人の所へ行っていいんですよ! ―――
ソフィアの言葉が、今更のように胸を締め付ける。
それは、ソフィアが自分を試そうとしていたのではなく、本心から出た言葉だったからに他ならない。
リディは、それ以上湧き上がる気持ちを抑え込むように固く瞼を閉じ、そして、再び見開いた。
この正念場を戦う力は、アンドリューから貰った。
(幹部達の了承を得られた今、私の進むべき道はただ一つ・・・!)