第50話:帰路へ
フィゲラスは、よろめきながらも何とか部屋の中に戻った。そこでは既にアンドリューが、リディの腕を診ているところだった。
縫った傷口が開いて血が流れている。その様子が、フィゲラスの医師としての意識を目覚めさせた。
アンドリューは、フィゲラスを隣に呼んだ。
「消毒をしなおすか?」
「ええ。そこの脇机の茶色の瓶・・その中の脱脂綿をください。」
赤黒い傷口を直視したアンドリューは、思わず眉をひそめた。
「俺が手当していた時より、傷が深くないか?」
「破傷風になった時、創部を切り取りましたからね。女性には可哀想ですが、一生跡は残りますよ。」
傷口を縫い直し、包帯を巻き終わるまでに、そう時間はかからなかった。
リディの眠るベッドから少し離れたテーブルに、二人は腰を下ろした。
アンドリューは、ガラスボードからブランデーのボトルを取り出し、グラスに注いだ。
「・・ありがとうございます。」
黄金色の液体を喉に流し込み、フィゲラスは息を吐いた。
落ち着くと、先ほどの事が夢であったかのようにさえ思える。本当に自分は死ぬ寸前にいたのだろうか。
足を組み、片腕を机に預けた状態で、アンドリューは静かに話し始めた。
「こうなっては、そなたがどれほど重大な秘密を知ってしまったか自覚してもらうしかない。話せることだけ、話しておく。」
グラスを握る手にぐっと力を込め、フィゲラスは固唾を呑んだ。
「ルヴィリデュリュシアン・ヴァルフィ・コン・シュゼッタデュヴィリィエという名を聞いたことがあるだろう。」
フィゲラスは疲れた体ながら、その身を起こさずにはいられなかった。
「プラテアードの独立運動を率いている首長ですね。最高賞金首と聞いています。・・・まさか・・・。」
思わず、ベッドで眠るリディの方を見やった。
アンドリューは、フィゲラスが何か質問する間を与えず、話を続けた。
「昔、彼女は身分を隠してジェードに潜入していたことがあって、その時半年ばかり関わった。今回は、暴動の市民に捕まっていたアランを彼女が助け、逃げる途中で毒矢を受けた・・・ということだ。」
「それでアランさんは、リディさんを助けるのに懸命だったのですね。」
「今回は、アランに免じて助けたのだと思ってくれていい。だが、例えどんな理由があろうと、こんなことは許されない。ジェードへの裏切りだからな。」
フィゲラスは、机の上で拳を握りしめた。
「私の口を塞がねばならないのは、わかりました。ただ、もう一つの・・。」
「額のことか?あれの正体は知らない方がそなたの為だ。今後何十年か生きていくつもりなら、知るべきではない。額のことを探ったり、他人に話してもならない。決して口に出さず、墓まで持っていく覚悟ができぬのなら・・・やはり、死んでもらうしかない。俺の為にも、そしてリディのためにも。」
フィゲラスがゆっくりと息を呑む息遣いの後、しばらく沈黙が続いた。
やがて、アンドリューは立ち上がった。
「リディが目覚めた時、そなたが死んでいたら俺が恨まれる。あそこまでされては、俺の出る幕ではない。そなたの首は、リディに預けることにする。」
「総督・・・。」
「もう2、3日したらリディをアドルフォ城へ帰す。ジェードを捨て、己の命をリディに捧げるつもりがあるなら、見逃そう。選択肢は二つ。ここで俺に殺されるか、リディに運命を捧げるかのどちらかだ。」
アンドリューは、フィゲラスの瞳を覗き込んだ。
「どうする?抱えた秘密が重くて、やはり耐えられぬか?」
フィゲラスは、アンドリューの目を見返すことができなかった。
口の端をギュッと結んでいたフィゲラスだったが、やがて小さな声で訊いた。
「プラテアードへ行けば、私は余所者で敵国の人間です。そんな中で生きていけるとは思えません。」
「無論、始めは疑われるだろうし針の筵だと思う。だが、リディの目が黒いうちは命が保障される。見かけは頼りなげかもしれぬが、プラテアードでの地位は絶対だ。かつての独立運動の王、アドルフォの娘としてな。」
アンドリューは部屋の扉の前に足を投げ出し、入り口を塞ぐように座り込んだ。フィゲラスが再び目くらましの間で自殺を繰り返す心配を拭えなかったからだが、そんなことは口にせず、静かに瞳を閉じた。
アンドリューが寝入った頃、とても眠る気になれないフィゲラスは、リディのベッドの淵に腰かけた。
――― 私がフィゲラスを貰い受けます! ―――
いつも「先生」と呼んでいたのに、あの時だけ「フィゲラス」と名前で呼んだ。本人は気づいていたのかわからないが、あれは明らかに上の立場に立った者の発言だった。
(プラテアードの最高責任者だと思えば、色々合点がいく。)
ろうけた頬でベッドに横たわっている女性と同じとは思えないほど、凛とした眼差しだった。力強い声、そして自分の腕を必死に掴んだ命懸けの表情。
ああして、敵国の人間であるアランも助けたのだろう。殊勝な、といえば聞こえがいいが、無謀ともいえる行動だ。一歩間違えば、命を落とすか身を滅ぼす。
(しかし、そういう人だから総督も彼女を殺せないでいるのかもしれない。)
フィゲラスは、部屋の扉に凭れて眠るアンドリューを見た。
いつもと違う髪の色をしているが、このプラチナブロンドが本物の色なのだろう。つまり、府内の人間に対しても偽りを持って生きているということだ。それは、結局正体がわからなかった「額」の秘密に関係しているのだろうか。
金色の朝日が部屋に刺し込む頃、フィゲラスはいつの間にかリディのベッドに伏せて眠っていたことに気付いた。
部屋の入り口には、すでにアンドリューの姿はなかった。
リディはまだ、眠っている。
「おはようございます。」
そこへ、アランが静かに入ってきた。その表情は穏やかで、フィゲラスに軽く会釈をした。
「朝食の準備をしますね。待っていてください。」
「・・・総督は?」
「仕事に行きました。」
アランは持ってきた麻袋の中から黒パンとチーズ、塩漬けの肉を取り出して切り始めた。スープは出来立てがブリキの蓋付き鍋に入っており、やはり袋から取り出された。
「リディは起きられそうですか。」
「いや、もう少し寝かせておきましょう。スープは後で私が温め直します。」
アランは、楕円形上にスライスされた黒パンにチーズをのせてフィゲラスに渡した。スープを皿に盛っている間も、その後も、アランは昨晩のことには一切触れなかった。
夕べ、アランはいつも通り前室にいたのだろうか。あれだけの騒ぎだ。いたなら、すべて聞いていたに違いない。だが、アランは何事もなかったように平静だった。
フィゲラスが食事を終えると、いつも通り空の食器を布で拭い、スープの鍋以外は袋にしまって部屋から出て行った。
リディが目覚めたのは、それから間もなくのことだった。
包帯を取り、昨晩の傷口を確認する。
新しい包帯に取り換えながら、フィゲラスは言った。
「昨晩は、申し訳ありませんでした。」
リディは、静かに首を振った。
「謝ることはありません。もとはといえば、私が発端なのですから。」
「総督が、選択肢を与えてくださいました。ジェードを捨ててあなたに命を捧げるか、このまま総督に殺されるか。」
リディは、フィゲラスの目をまっすぐに見つめた。
「で、どうします?」
「・・・私がどれほど重い秘密を知ってしまったか、自覚せよと言われました。あなたの正体は教えていただきましたが、額のことは一切追求せず、墓まで持っていくよう言われました。その覚悟ができぬのなら、やはり死ぬしかないとも。」
「先生、ご家族は?」
「本国に両親と兄がいます。首都ヴェルデの郊外に城があって・・・貴族です。両親は領土を兄と分け合って悠々自適な生活を送れるのに、なぜ医者になる必要があるのかと反対しました。それでも次男ですから、渋々許してくれました。でも、流石に総督府へ行くという時には、母が泣きました。いつ暴動の危険にさらされるかわからない場所ですからね。」
「それなのに、なぜいらしたんです?」
「誰も行きたがらないからですよ。ヴェルデには余るほど医者がいる。でも、総督府に行くのは殆ど輪番で強制的に送られる医者ばかりだと聞いて、居ても立ってもいられませんでした。」
「・・・では、やはりここで死んではいけませんね。」
「あなたは、私を疑わないのですか。もしかしたら私は、仕組まれたスパイなのかもしれませんよ。」
すると、リディはクスリと笑った。
「自分から名乗るスパイなどいません。先生は、面白いことをおっしゃる。」
「いや、しかし・・・。」
「一度は死を覚悟なさったのです。それ以上に怖いことも、できないこともないでしょう。」
リディは強い口調で言った。
「あなたが秘密を守って下さる限り、私があなたの命の保証をします。絶対に、誰にも手出しはさせません。ただし、あなたが私を裏切ったり、私やアンドリューの秘密を噫にでも出すようなことがあれば、その場で射殺します。万が一あなたがプラテアードをジェードに売るようなことがあれば、私が全責任を負い、私の命をもって償わなければならなくなるでしょう。それだけの覚悟をもって、貰い受ける旨をアンドリューに伝えたのです。」
フィゲラスは、ぞくりと震えた。
フィゲラスの命も、アンドリューの命も、リディの命も、秘密を共有した以上一連托生ということだ。
リディは紅茶色の瞳に日の光を宿して、まっすぐ前を見据えた。
「私は、生かされました。死んでも殺されても当り前だったというのに、生きています。それは、私に使命があるからだと思っています。そしてあなたも、生かされるチャンスが与えられた。それは先生が、やはり何らかの使命を帯びているからだと思いませんか。」
「・・・。」
「抱えるには重すぎる秘密だという気持ちは変わってないかもしれません。でも、それは課された試練として受け止められませんか。父が生前よく言っていました。人には、耐えられない試練は与えられないものだと。そして試練に耐え抜いた時にこそ、成長できるのだと。」
リディは再び、フィゲラスを見つめた。
「私のような頼りない主人に命を捧げるというのは、プライドが許しませんか?」
「いいえ。」
命懸けで、本当に命を賭けて救ってくれた。その人にならば、命を捧げても惜しくはない。ジェードを捨てることに躊躇いはある。だが、死ぬか生きるかなら、重責を負ってでも生きるべきだろう。それも、将来歴史を動かすかもしれない大人物に仕えるとあらば、本望だ。
フィゲラスは片膝を付くと、リディに向かって頭を垂れた。
「フィゲラス・ディアルバート・コン・リオデーロ。生涯かけて、あなたにお仕えいたします。・・・シュゼッタデュヴィリィエ様。」
3日後の未明。
2頭の馬が、総督府の門を出ようとしていた。
足まですっぽりと隠れる厚いマントを被ったアンドリューとアランの姿を見た番兵は、行く手を塞いだ。
「総督、ちょっとお待ちください。」
「何だ。今日は本当に伴を連れている。問題なかろう。」
「レオンさんが承知していない総督の外出については、すぐに知らせてほしいと言われているのです。」
「そなたは、総督である俺とレオンと、どちらの言う事をきくのだ?」
「それはそうなのですが、私がレオンさんに叱られます。」
情けない声をあげる番兵にアンドリューは言った。
「レオンに言っておけ。止めようとしたが、馬には適わなかったと。・・・いくぞ、アラン!」
馬の嘶き勇ましく、2頭はあっという間に森の中へと消えて行った。
森を抜けたところで、アランとアンドリューは重いマントを脱いだ。
その中には、アランの後ろにフィゲラス、そしてアンドリューの前にリディが隠れていた。
「苦しかったですか?窮屈でしたでしょう。」
アランがフィゲラスを振り向くと、乱れた髪を撫でながらフィゲラスは首を振った。
二人が総督府を出る所は、絶対に知られてはならないことだ。馬車という手もアンドリューは考えたが、時間もかかるし小回りもきかないため、やめた。
アンドリューは、自分に背を向けて座っているリディに訊いた。
「だいぶ飛ばしたが、傷は痛まなかったか?」
リディは黙って大きく冠りを振った。
リディがアンドリューとまともに顔をあわせたのは、この出発の朝が初めてだった。今は殺意がないことを確信したリディだったが、撃たれた事を身体が思い出して、身を竦めた。そんなリディを軽々と抱き上げ馬にのせ、続いてアンドリューが乗りこみ走り出した時、リディはこれが夢ではないかと思った。目の前がくらくらする、という現象を初めて体験した。
喉から飛び出しそうな心臓も、逸る鼓動も、アンドリューに触れている全身から伝わってしまっているのではないかと思うと、余計に緊張した。馬の振動は、傷に相当響いたわけだが、そんなことはどうでもいいほど甘美な想いに包まれていた。もちろん、互いに命を狙うべき間柄だということを忘れてはいない。それでも、やっぱり、好きなものは好きなのだ。
やがて、幅の狭い川の土手の上に出た。馬を休ませる意味もあり、二頭は歩みを緩めた。
互いの距離が少しあいたのを見計らって、フィゲラスはアランに聞いておきたいことを聞くことにした。
「あの二人は昔関わったことがあると聞きましたが、恋人同士だったんですか。」
アランは、思いがけない発想だというように笑った。
「リディはあの当時、男の子として潜入していたんですよ。僕もアンドリュー様も疑ってませんでした。恋人なんて、とてもとても。」
「それにしては、浅い関係には見えませんでしたが。」
「・・・まあ、色々ありましたから。詳しくは他人の僕が話すことはできません。でも・・・。」
アランは、少し前を行くアンドリューの背を見つめた。
「多分、リディは・・・好きなんだと思います。」
「・・・総督は?」
「アンドリュー様は、自分に厳しいですから。絶対に好きになってはいけない相手だと思えば、気持ちもコントロールしてしまうんじゃないですか。元々女性と縁のない世界で生きてきましたし。」
「でも、地位もあるし、整った顔ですし、女性が放っておかないでしょう?」
「あの性格ですよ?僕には優しいと最近まで思っていましたが、その実何を考えてるか、本心は絶対に言わない方だと気づきました。結構冷酷な部分もありますし、並みの女性では近づいた途端に玉砕しますよ。」
その時アランの脳裏には、アンドリューがリディの傷口に口をつけて血を吸いだしていた光景がよみがえっていた。そしてフィゲラスは、アンドリューがリディに口移しで白湯を飲ませていたことを思い出した。あの時、部屋から追い出されたものの心配でこっそりと扉の隙間から様子を窺っていたのだ。
(果たして、あれは他の誰に対してもやったんだろうか・・・。)
その頃アンドリューも、リディにだけ話せることと話しておくべきことがあった。
「フィゲラスにはお前がプラテアードの首長であることと、俺と昔知り合いだったことは話してある。だが、額の紋章のことは、追及も口にすることも許さないと言っておいた。勝手な言い分になるが、プラテアードでは俺やアランが関わったことは口外しないでほしい。あくまでも、ジェードの医者であるフィゲラスに助けられたということで通してくれ。」
揺れる髪の後ろで聞こえるアンドリューの声に、リディは小さく答えた。
「わかってます。私もその方が都合がいいし、ちゃんと筋書きは作ります。」
「ただし、キールだけはすべてを承知している。」
「え?」
思わず振り向いても、この体制ではアンドリューの片頬しか見えない。
「ジェードで血清が必要で、リディの命を盾に10人分を提供してもらった。それを拒否されていたら、お前は死んでいた。」
リディは、まだ事態が呑みこめていない。
「どういうこと・・・?」
アンドリューは、電報を打ったことからヒースの荒野でキールと交わした会話について話した。そして最後に
「二人に礼を言ってほしい。お蔭で、ジェードの9人の命が救われた。」
「わかりました。伝えます。」
「だが、」
アンドリューの唇が、一端引き締められた。突然低くなった声音に、リディの背に緊張が走る。
「あくまでもこれは取引だ。プラテアードの首長の命とジェード国民9人の命を引き換えにした。今回お前を助けたのはアランに免じて、そして、バッツの借りを・・返すためだ。」
リディは、遥か彼方の水平線を見据えて言った。
「つまり、貸し借りはなくなったと・・。」
「そうだ。」
唇を震わせ、リディは瞼を閉じた。
「わかりました。・・・覚悟はできています。いつでも、あなたに殺されることを。」
「リディ・・・。」
「でも私には、あなたを殺す理由はない。・・・あなたが何度私を殺そうとしても、殺したとしても、それは、私があなたを殺す理由にはならない。」
アンドリューは何も答えず、再び馬に鞭をくれた。
蹄が土を蹴る音と、耳元を通り抜ける風の音が、二人の沈黙を許した。
アドルフォ城の城壁を望む丘で、馬は止まった。
すでに東の空は、オレンジからレモン色に変わりつつある。
アンドリューは馬を降りると、鞍の上のリディを抱き降ろし、そのままもう一頭の馬上にいるフィゲラスに渡した。それは、腕に傷を負っているリディが馬に乗るために鞍を掴んだり片腕に全体重をかけることは酷だと思ったアンドリューの気遣いだった。
アンドリューの馬に、今度はアランが同乗した。
「できるだけ良い馬を選んだ。アランを救う時失った馬の代わりになるかわからぬが、大切にしてやってくれ。」
アンドリューの言葉に、リディは、瞬きながら頷いた。
アンドリューを見つめるその視線から、アランもフィゲラスも、リディの想いを確信していた。
「アラン、色々ありがとう。」
一変、切ない瞳から親しげな眼差しになったリディが、アランに手を振った。
アランが手を振り返すや否や、アンドリュー達の馬はすぐに走り出した。
リディが、いつまでもその後ろ姿を目で追っているのを見て、フィゲラスは影が見えなくなるまで走り出すのを待とうと思った。
アンドリューが毒を口で吸いだした事や、口移しで白湯を飲ませた事を話したらリディは喜ぶと思ったが、すぐにその考えを改めた。
二人は、敵同士だ。未来のない恋愛に一番苦しんでいるのはリディだろう。それなのに期待を持たせるような話をしても虚しいだけだ。
「そろそろ、行きましょうか。」
フィゲラスの声に、リディは我に返ったように頷いた。
手綱はフィゲラスが操り、リディはフィゲラスの前で鞍の先を掴んでいた。
今は全然緊張もしないし、何も意識していない。
城が近づくに当たり、リディはフィゲラスに背を向けたまま言った。
「総督府周辺で怪我を負った私を見つけて介抱したものの、敵を助けてしまった以上国に戻れず、私に同行したという話にしてくれませんか。」
「もちろん、仰せのままにしますよ。」
「私の側近のキールという男は、アンドリューやアランのことを知っていますし、今回何があったかも承知しています。医者のジロルドも血清を提供した以上、ある程度は承知しているでしょう。」
フィゲラスはそこで、あの血清がプラテアードから提供されたものだと初めて知った。
「でも、他の者は一切何も知りませんから余計な事は言わないでください。」
「わかりました。」
「それから、城へ戻ると私は先生を呼び捨てにすることになります。横柄な口も利くでしょう。それは、許してください。」
「私はあなたに一生お仕えするとお約束しました。何も気にせず、思うままに振る舞ってください。」
「・・・私が何をしても、すべては先生のためですから我慢してくださいね。何があっても、どうか私を信じてください。」
どういう意味かは分かりかねたが、フィゲラスはとにかくリディに付いて行くしかなかった。
一体、アドルフォ城で何が待っているのか・・・。フィゲラスは静かに固唾を呑んだ。