第111話:扉を隔てて
アンドリューが国王の居殿に戻ると、ハロルド伯爵がリビングで待機していた。
ハロルドはアンドリューが扉を開けきる前に、深く頭を下げた。
アンドリューはここまで付き添ってきたレオンに、エストレイ一行の「見送り」を丁重に行う様命じ、ネイチェルには他の側近と共に、爆竹騒ぎの真相確認と、王宮内の警備にあたっていた近衛兵の身辺調査を命じた。
当然のことながら、リディの一件には箝口令が敷かれ、リディは既に人質として再び王宮外の屋敷に戻ったことにした。
時計は午前3時を過ぎている。
連日の夜会の後の騒ぎ。
誰もが疲れのピークを過ぎていることは明らかだ。だが、エストレイの陰謀に加担したジェード側の人間がいることは否めない。爆竹騒ぎから舞踏会場入り口での混乱、その中からの連れ去りまで、すべてが計算づくだったとしか思えない。その協力者を早急に炙り出しておかねばならない。
側近に命令を下しておいて自分だけ休むわけにはいかないと、アンドリューは上着を脱いで絹のシャツの袖をたくし上げた。
そんなアンドリューの様子を傍で見守りながら、ハロルド伯爵は頃合いを見て声を掛けた。
「陛下、リディ様のことですが・・・。」
アンドリューは宙を睨んだまま、無言で次の言葉を待った。
「マチオ殿にも診てもらいました。やはりあと半日以上は目が覚めないと思われます。目覚めても副作用で頭痛や激しい眠気に襲われる様です。シンシアが付いておりますが、一度御様子を確認されますか?」
「・・・しばらく目が覚めないなら、誰かがついている必要はない。シンシアに、しばらく自室で休むよう伝えてくれ。」
「ですが、リディ様をお一人にするわけには・・。」
「寝室は執務室を通らなければ出入りできないのだから、心配ない。伯爵も一緒に自室へ戻って少し休んでくれ。」
「陛下は?」
「明け方になったらひと眠りする。そうだな、正午になったら起こしに来てくれ。」
アンドリューが執務室に入ると、国王用の机の脇にアランが座って、書類にペンを走らせていた。
アランはアンドリューの姿を見るとハッとして立ち上がった。
「勝手な真似をして申し訳ありません。でも、こんな大変な時だと言うのに僕にできることは、事務仕事のお手伝いぐらいで・・・。少しでも役立てればと・・。」
アンドリューは軽く息を吐いて小さく微笑むと、やはり、正午までは休むように伝えた。
誰もいなくなった空間で、伯爵が淹れておいてくれたブラックティーにオレンジのリキュールを垂らし、口に含む。
エストレイと対峙した興奮が冷めやらぬまま、身の置き所が見つからない。だが、落ち着かずに部屋の中をうろついたりする様子を他人に見られたくなくて、アンドリューは敢えての人払いをした。
さっきハロルドが誘った時には無言でやり過ごしたものの、その実、リディの事が気になって仕方がない。
だが、その様子を見る事が、怖い。
身体だけでなく心も傷ついた人間に、どう触れていいかわからない。
しかし、一番辛いのは本人なのだから、周囲の人間は安易に同調するのではなく、本人の辛さを正面から受け止めねばならないと思う。
頭でわかっているが、心の動揺が治まらない。
アンドリューは意を決して、リディが眠る寝室に入った。
枕元のランプシェード越しの灯りで照らされた、薄暗い室内。
音をたてないように静かに扉を閉めて、天蓋のついたベッドに歩み寄る。
綺麗に掛けられた羽根布団は、微動だにせず静まり返っている。
足元から近づき、リディの身体が見える手前で立ち止まった。
深呼吸して、覚悟を決める。
何の覚悟か?それは、アンドリュー自身にもよくわからない。
真横に立ち、そっと見下ろした。
白い額。硬く閉じられた瞼。色褪せた唇。
肩より伸びた栗色の髪が、緩いウェーブを描いて白い枕に埋もれている。
ここ暫く、一つに括っていたり、結い上げたところしか見ていなかったため、下ろしたところを見ると昔の面影が蘇る。
頬に残る、銀色の傷跡。
アンドリューは、自分が付けた傷を、人差し指の関節でなぞろうとした。
が、寸でのところで手を止めた。
今リディの肌に触れたら、抑えられない激情が溢れだしそうだったからだ。
その生の肌の感触から、リディがエストレイに何をされたか、まざまざと思い知らされそうだったからだ。
強く寄せた眉根と、握った拳が震える。
何もかも承知してはいるが、今のアンドリューには、流石に耐えられそうにない。
苦い思いを噛みしめるように、瞼を閉じる。
2年前、ヒースの丘で自分の胸に飛び込んで泣き震えていたリディ。奇しくもキールに預けたペンダントがエストレイを思いとどまらせていたとは。その未遂の時でさえあれ程打ち震えていたものを、今回はどうすればいいのか。
目覚めた時、リディは何を思い、何を言うのか。
眠らせる方法が何であれ、薬を使った以上、一瞬で気を失ったとは考えられない。
どれ程の恐怖だったろう。
どれ程の屈辱を味わい、絶望しただろう。
嫌、そんな言葉で表せるような感情では片付けられないかもしれない。
そんなリディに、一体、何をしてやれるというのか?
どんな言葉をかけられるというのか?
(俺は、それに追い打ちをかけるように、エストレイとの約束を告げねばならないのだ。)
呑みつくせない自責の念を抱え、成す術も無く、アンドリューは肩を落として執務室に戻った。
リディが目覚めて最初に見たのは、天蓋の内側に描かれた金彩の蔦模様だった。緋色の薔薇に緑の葉も見える。
(ここは・・・天国・・?)
初めて見る美しい光景に、何度か瞬きをした後―――、ハッとして起き上がった。
「・・っ!」
その刹那、ズキンと側頭部が痛んだ。
思わずこめかみを押さえ、周囲を見渡す。
柔らかで軽い寝具。豪華な調度品。柔らかな灯りが照らす、金彩の壁紙。
(ここは・・・?)
だが、次の瞬間リディの脳裏を駆け巡ったのは、ここがどこかということよりも、自分の身に起こったことだった。
思わず胸元を見ると、王宮に来てから毎晩着ていた絹の夜着を身に付けている事に愕然とする。
「・・・リディ様!」
洗面室から水を汲んできたシンシアは、すぐにベッドの脇に駆け寄った。
「どうぞ横になったままで。薬の後遺症があると聞いておりますから。」
シンシアに促されて柔らかな枕に再び頬を埋めて、リディは聞いた。
「ここは、私が滞在していた部屋ではありませんね?」
「はい。国王陛下の寝室でございます。」
「アンドリューの?」
リディは驚いて、再び上半身をもたげた。
「陛下自らリディ様をここへお連れになったのでございます。」
リディは眉を微かに震わせた。
唇が開いても、声が出ない。
だが喉に力を入れ、無理に振り絞って声を出した。
「では・・・アンドリューは、すべて知っているということですか。」
シンシアは一瞬口ごもったが、隠し果せるものではないと、黙って頷いた。
リディは掛布団をめくり上げると、ベッドから出ようと足を床へ降ろした。しかし、すぐに下半身に痺れと痛みを感じて、そのまま絨毯の上に崩れ込んだ。
驚いたシンシアがリディの身体を支えようとすると、リディはそれを拒絶した。
「私はここにいられません。アンドリューの寝室を穢すわけにはいきません。」
「何をおっしゃいます?すべては陛下の御意志です。穢すだなどと・・!」
「いいえ、いいえ・・・!」
リディはシンシアと押し問答を繰り返した後、唇を噛みしめて言った。
「・・・伯爵夫人、お願いです。どうかアンドリューに・・・、ジェード国王に御取次ぎを。私は、謝罪をせねばなりません。」
「謝罪?」
「そうです。」
絨毯を掻き毟る様に手を握り締め、リディは上を向く。
シンシアは、寝室から執務室に繋がる扉をノックしながら、肩越しに振り向いた。
「今、陛下をお呼びしますから。お待ちくださいませ。」
アンドリューは、寝室からノックの音がすると、すぐに立ち上がった。
シンシアは、リディの目が覚めたらすぐに知らせる様、アンドリューから言われていた。腰をかがめて、執務室に入る。
シンシアは、リディの様子や言葉をつぶさに伝えた。
アンドリューは息を詰めてすべてを聞き終わると、静かに瞼を閉じてシンシアに背を向けた。
「―――3日後の午後に会うと、伝えてくれ。」
「しかしながら陛下、リディ様はこのままではベッドにお戻りになりません。」
「好きなようにさせておけばいい。寝室から出なければ、何をしようと構わない。」
シンシアは、伏せがちにしていた視線を、思わず上に向けた。
「恐れながら、陛下。リディ様は御自分を穢れた身体などとおっしゃっています。それは違うと、私が何度申し上げても聞き入れてくださいません。どうか、陛下のお言葉で、リディ様にお伝えいただきたいのです。」
「俺が?」
背を向けたままの声は、表情がわからない分冷たく聞こえる。だが、シンシアは怯まず続けた。
「出過ぎた事を申し上げていることは重々承知しております。ですが、陛下もリディ様のお気持ちは御存知のはずです。ですから、どうか、」
「俺に、何を言えというのだ?」
「それは・・・、」
アンドリューは、大きく冠りを振った。
「何を言っても、何も取り返しはつかない。慰めにもならない。それがわかっていて、何が言える?」
「陛下は、リディ様にとって特別な存在でございます。言葉をかけられずとも、御顔だけでも見せて差し上げて下さいませ。」
「どんな顔をしてリディに会えと言うのだ?この苦々しい顔を見てリディが思い出すのはエストレイの事だ!忌まわしい記憶を反芻して、苦しむだけではないか!?」
シンシアは、息を呑みながら口を噤んだ。
アンドリューも、苦しいのだ。
その傷口を、これ以上抉ることはできない。
二人は暫く押し黙ったまま、ただ己の無力さを噛みしめていた。
やがて、ゆっくりと西に傾き始めた太陽を、アンドリューは眩しそうに眼で追った。
そして。
「伯爵夫人。3日間は、どうか、あなたがリディの支えになってほしい。同じ女であるあなたにしか分かち合えない痛みを、どうか和らげてやってくれ。」
国王の寝室には、バスルームと執務室に繋がる扉の外に、壁と書棚の間に隠された秘密の扉があるが、国王以外の人間は知らない存在だ。
アンドリューは、仕事は執務室、寝食はリビングを用いていた。
シンシアは、殆ど眠っているリディを、始終見守った。
リディは、ハロルドが運んでくる食事も喉をとおらず、一言も声を発することなく、窓が無い寝室では外の景色を眺めることもできず、ただ生気のない目をして座り込んでいた。そして、頑なにベッドへ戻ることを拒否し、それでも薬の副作用で再び睡魔に襲われると、部屋の隅の壁にもたれて眠る。シンシアは、そこへ柔らかな掛布をかけてやったり、床にクッションを敷いて横にさせてやったりして労わった。
約束の三日後。
リディは、寝着のままで国王への謁見はできないと、着替えを申し出た。
謁見といっても正式なものではないため、シンシアは、身体の負担にならない、絹のような光沢はありながら肌触りのよい海島綿の青いドレスを用意した。
背中の小さなクルミボタンをはめようとして、シンシアは思わず眉を顰めた。
うなじから肩甲骨、腰骨に至るまで、まるで赤い花弁を散らしたように接吻の後が未だ残っているからだ。リディを風呂に入れた時も思わず視線を反らしたくなる有様だったが、たった三日で消える物ではなかった。首元をフリルで覆う年配の女性が着るような服だが、乱暴された跡をアンドリューの前に晒すわけにはいかない。そしてそれをリディが見る事のないよう、鏡は一切使わず支度を整えた。
髪飾りをつけ、すべての支度を終えると、シンシアは意を決して言った。
「陛下は、今回の事で大変お心を痛めていらっしゃいます。お立場がございますから、リディ様には何もおっしゃらないかもしれませんが、私も夫も、その御姿を間近で拝見いたしました。どうぞその事は、御心に留めておいて下さいませ。」
シンシアが執務室に入り、リディの支度を終えた事を伝えると、アンドリューはシンシアとハロルド伯爵に、席を外すよう命じた。
シンシアはリディの手をとって執務室に招き入れると、夫と共に外へ出た。
リディは、眼を伏せ目がちにしたまま、アンドリューの方を見る事ができなかった。知らず知らずのうちに、両足が小刻みに震えているのがわかる。
少し離れた場所に人の気配があることだけを感じたまま、リディはその場に跪いた。
初めに何を言おうか、そのことだけを考えて3日間を過ごした。眠る度に襲いかかるエストレイの重みと息遣いに魘され、目覚めれば事の重大さに身震いしてきた。そんなリディにとって、アンドリューへの謝罪の言葉を考えることだけが、現実と向き合うための原動力だった。
リディは広がったスカートに沿う様に両腕を伸ばし、指先を床に付けると、深く息を吸い込んだ。
「ジェード国王即位の宴において、あってはならない事態を引き起こしました。この不始末の責任をとると申し上げたいところですが、プラテアードにはこれ以上ジェードに差し出す財産も兵力も―――」
「リディ。」
アンドリューの黒いブーツの爪先が、リディの視線に入り込んだ。
リディは、アンドリューの顔を見たら、自分がどうなるか自信が無かった。今の冷静さを支えている唯一の柱が崩れそうで、怖い。
微かに震え出したリディの指先を見て、アンドリューは、3日後という約束は尚早だったのかと考えた。 せめて一週間は距離を置くべきだったろうか。しかし、エストレイと交わした契約の当事者であるリディに、いつまでも真実を告げないわけにはいかない。
「リディ。俺は、謝罪など求めていない。それより、大切な話がある。」
「・・・。」
「一人で立てるか?」
ゆっくりと立ち上がったリディが、僅かに顔を顰めるのを、アンドリューは見逃さなかった。思わず腕をとろうとして手を伸ばしそうになったが―――、やめた。
自分の覚悟の無さに、心の中で悪態をつく。
執務室の隅にある打合せ用のテーブルへ、リディを誘った。
向かい側にアンドリューが座っても、リディは視線を伏せたまま、固まったように動かない。
つまらない前置きも、言い訳も、リディは望まないだろう。アンドリューはそう判断し、単刀直入に言った。
「エストレイと、正式な覚書を交わした。そこに、リディのサインが欲しい。」
リディが、少し息を呑む音が聞こえた。
アンドリューは、孔雀石の入れ物に仕舞われた覚書を取り出し、リディの目の前に、3枚置いた。
「3つの国、それぞれが持つことになる。」
リディは、中央に置かれた紙に、素早く目を通した。
リディにとってそれは、成り行きを神に任せるしかない、残酷な内容だった。だが、植民地国である以上、何一つ口出しはできず、拒否権もない。
アンドリューが差し出したペンを、リディは握りはしたものの、いつまでも手を宙に浮かべたままだった。
10分以上たっても書くことができないリディに、アンドリューは言った。
「明日にするか?」
リディは首を振ると、覚悟を決めた様に素早くペンを走らせた。
――― ルヴィリデュリュシアン・ヴァルフィ・ディア・プラテアード ―――
この名前を、同じように認めた一週間程前。
あの日、リディはアンドリューと同じ空間にいられる幸せに酔っていた。歴史に残る一枚の紙に、アンドリューと自分の名前が連なる事に心を震わせていた。プラテアードの幸せを望むなど綺麗ごとを言いながら、自身の幸せに浸りきっていた。
その罰なのか。
プラテアードを戦火に巻き込む事態を招いたのは、自分の失態だ。
エストレイに犯された己の身など案じている場合ではない。
アンドリューは、サインを終えた3枚のうちの1枚を封筒に入れ、シーリングワックスを溶かしてジェード王家の紋章で型を押し、封をした。
「これが、プラテアード国の分だ。」
リディに封書を渡しながら、アンドリューは続けた。
「覚書にあるように、懐妊の確認のため、プラテアードの医師を一人召喚せねばならない。フィゲラスは元々ジェード国民であるし、表向き死んだ事になっているから公式書類にサインはできない。俺はこれからプラテアードへ行き、ジロルド先生に頼もうと思っている。」
リディは、ハッとして顔を上げた。
途端、アンドリューの蒼い瞳が目に入った。
リディは唇を引き締め、言った。
「ジロルド先生に・・・話すのですか?」
「それに、少なくともキールには話さざるを得ない。最短で2か月後に戦争が起こる。その準備の相談もしておきたい。あと、子供が産まれた場合には、プラテアードの神使の立ち合いも要る。王家取り潰しの際、神使の称号は剥奪されたと思うが、今でも教会でおつとめはされているはずだ。かつて王家に仕えていた最も位の高い人を探しておいてもらう必要がある。」
アンドリューの事務的な口調に、リディは堪えていた痛みが少しずつ噴き出すのを感じていた。
国家間の交渉としては、至極当然の成り行きで、アンドリューは何一つ間違っていない。
それは、わかっている。
わかっていても、心がついていかない。
(私は、アンドリューに慰めてもらうことを期待していたのだ。)
リディはそんな自分の甘えが許せず、しかし自分への腹立たしさをぶつける先も見いだせず、ただ、握り拳に力を込めるしかなかった。
アンドリューは、残りの二枚の書類を、再び箱に仕舞った。
「キールに伝言があれば、言ってくれ。」
「・・・お詫びの言葉もない、と。国を巻き込み申し訳ないと、伝えてください。」
「詫びるのは俺の役目だ。詫び以外に伝えることはないか?」
「お気遣い、痛み入ります。では・・・フィリシアの訃報をお伝えいただくことは可能ですか?」
「王妃に殺されたとは言えないが、病死という事でよければ伝える。」
「結構です。キールには、遺族に十分な礼をするよう伝えてください。」
「わかった。あさって出発するから、他に何か思い出したら言ってくれ。」
リディは覚書を胸の前で抱きしめ、お辞儀をして寝室に戻ろうとした。
「リディ」
ドアノブを握ったところを、アンドリューが呼び止めた。
「大事な身体だ。床で眠るのはやめてくれ。俺のベッドが気持ち悪くて使えないと言うなら、簡易ベッドを用意させる。ゆっくり休んで、スープだけでも口に入れるんだ。」
リディの瞳に、堪らず涙が溢れた。
アンドリューなりの労りの言葉なのだろうが、今のリディには「国家交渉の行く末を握る身体だから大事にしろ」と言われている様にしか聞こえなかった。
「・・・わかりました。」
涙を堪えて一言だけ発し、リディは寝室に戻るなり床に崩れこんだ。
堰を切ったように流れ出した涙が、あまりにも熱い。
声を押し殺して泣く習慣は、こんな時でも変わらない。
自分の事を憐れんで泣くことなど許されないとわかっている。
でも、今はどうしても止まらない。
天を仰ぎながら、リディは、シンシアが戻ってくるのが少しでも遅いことを願った。




