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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第三章 碧花爛漫
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90:目撃情報

 露店街道のこじんまりとした屋台から、店主の案内で彼の家に場所を移したユフォンとキノセ。そこは古ぼけた蒼白の石造りの建物だった。

 しかし一転、室内は見事な細工の宝飾品が全方位の壁の戸棚から彩り、外見からは想像もできない華麗さだった。あの狭い店に置ききれない宝飾品を保管しているのだろう。

 台所で十歳前後くらいの少女が洗い物をしていたらしく、顔を覗かせた。

「ペレカ、帰ったよ」

「あ、お父さんお帰り……? お客さん?」

 少女はユフォンとキノセの姿を見て、小さく頭を下げた。



 天原族の少女ペレカは過去に『碧き舞い花』に助けられたことがあった。当時はお礼を言うことなく、彼女の前から去ってしまったが、もし再び会えたのなら、お礼を言おうと決めていたのだという。

 崩れた屋台の下敷きになったことの後遺症で腰の羽が少し曲がったままの少女は熱く、その命の恩人の姿を見たのだと語った。

「市場で見たんです! 絶対に見間違えじゃありません。髪の色も、目の色も、剣の入れ物だって、忘れるわけないから!」

 ユフォンはペレカと目の高さを合わせ、優しく笑いかけた。「そっか、教えてくれてありがとう」

 するとペレカはきょとんと首を傾げた。「信じて、くれるんですか?」

「ん? もしかして、嘘なのかい?」

「違います!」

「ははっ、なら信じるさ。ところで、その時に声をかけたのかな? お礼は言えた?」

「……ううん。急いでたみたいで、追いつけなかったんです。武器街に入ったところで見失っちゃって」

「武器街っ!?」ペレカの父は驚きの形相で娘を見た。そうして詰め寄ってユフォンを押し退け、膝をつくと彼女の両肩を掴む。「行ったのか、ペレカ!」

「おい、おじさん」とキノセが父親の肩に手を置いて静止を促す。

「ごめんなさい、これは親子の問題なので」

「いや、そうもいかないだろ、この状況で」

「そうですよ、お父さん」ユフォンもキノセに同調する。「恐らく戦いの道具を取り扱ってる店が集まった場所のことだと思いますが、確かに娘さんをそういった場所に行かせたくない心情はわかります。けど、そんな剣幕で迫るのは、娘さんを深く傷つけかねないですよ?」

「わかっていますとも! でも! トラウマを負ってでも武器街には行かないでほしいんだ! この子の、ペレカの母親は、武器街で起きた誤爆事故で命を落としたから!」

「……それは」

「……そういうことか」

「……お父さん」

 娘に向けた剣幕を二人の客人に向ける父に、ペレカは小さく口を開いた。

「お父さん……わたし、すぐ戻ったから……だから……だから、見失っちゃの……お姉さんのこと……。お礼、言いたかったけど、お父さんとの約束、だから……」

「ペレカ……」店主は腕を力なく下し、ペレカに抱きついた。「そっか、そうか……ごめんな、お父さん、ちゃんと聞かないで決めつけてばっかだな……ごめんよ」

「……なんか解決したみたいだな」

「ははっ、そうだね」



 キノセが少々苛立って「長くないか?」と零して、父娘がやめるまでその抱擁を優しく見守った二人。

 ユフォンがキノセの物言いを申し訳なさそうに笑い、お礼を口にする。

「情報提供、ありがとうございました」ペレカと視線を合わせる。「今度はお礼を言えるように、僕がお姉ちゃんを連れてきてあげるよ」

「ほんとですか!」

「うん、約束する。だからお父さんと仲良く待ってて」

「はいっ!」



 そこはもともと『白輝の刃』の城だったため、今もなお絢爛豪華な装いは健在だ。

 ペレカ父娘の家をあとにしたユフォンとキノセは、旅商人組合ビュソノータス支部を訪れていた。

「さすがに連盟の名前出しても、教えてくれないか……」

「一旦戻って上から話通してもらうしかないだろ」

 二人はここで足止めを食らった。

 旅商人組合の力は大きく、組合が管轄している世界で商売をするには届け出や取引内容の報告が必要になってくる。当然その目を盗んでいる裏稼業者も問題としてはあるのだが、届け出をしている正規店、特に危険物を扱っているならその管理は徹底されている。

 武器街の店は毎日の詳細報告が義務付けられていて、その内容は組合に文書として保管されている。

 武器街に入ったところをペレカに目撃されている『碧き舞い花』が、そこでなにか買い物をしていれば、裏のルートでない限り記録が残っているということだ。

 ユフォンたちはその記録から店を割り出し、その店主に話を聞こうと思った。だが、それは叶わずに建物の前の大階段に観光客や休憩中の組合員に混じって座りこけていた。

「仕方ないか…‥」

 ユフォンが立ち上がり、瞬間移動のマカを使うためにキノセの肩に手を置こうとした時だった。

「オニサン、オニサン!」

 朗らかなる声が、ユフォンの手を止めさせた。

「この声は……」ユフォンが階段の下に目を向けると、悩みのなさそうな笑顔が駆け上がってきていた。「ラィラィさん」

 キノセが立ち上がる。「行商人か」

「オニサン、一か月ぶりネ! あの時はサインありがとネ。ところでこんなところで何してるヨ? 観光ネ?」

「いえ、ちょっと仕事で」

「新作の取材ネ! いいネ! 本が出た時はまた、サイン頼むネ!」

「ははっ、いいですよ……。ところでラィラィさんは?」

「ワタシ? ワタシはここの支部長ヨ。ここを一番最初に見つけた商人だからネ。帰宅ヨ、帰宅」

「へぇ」

 キノセが口角を上げ、ユフォンに目配せしてきた。それにユフォンは同じく口の端を上げて、頷いて返した。

「ラィラィさん、次回作のサインを約束する代わりにお願いがあるんですが?」

「はい?」

 朗らかの中に疑問の色を混ぜた返事が返ってきた。

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