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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第零章 舞い戻る碧き花
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9:救出作戦

 シァンは竜人の血を半分引いたハーフだ。

 だからこそ逆鱗花の葉の毒に耐えうることができ、それによる力や感覚の増幅にもあやかれる。

 ではもう半分は?

 彼女が持つ、もう一方の血は?

 さすらい義団の一員として異空を旅する中で、彼女が知ることになった自らに流れる血。故郷を命尽きるまで守った偉大な竜人の血と、もう一つ。

 感覚連結の一族の血。

 集中と分散(レキィレフォ)という世界の住人たちは一人では非力だが、触れ合うことで互いの力を共有、痛みを分散する能力を有している。痛みを分散することからわかるように、感覚を連結させている。

 そして感覚の連結は現在に留まらない。連結した相手の各感覚が過去に体験したことを読み取り、共有できた。

 シァンはハーフであり、かつネルやセラがレキィレフォの血を引いていないために限りがある。だが、キノセたちがユフォン救出作戦を行おうとしているという記憶をネルから引き出し、セブルスに扮したセラに伝えることくらいは十分可能だった。

 それがセラに重大な選択を迫ることとなった。重大であるが、即決の見えた選択を。



 鍾乳洞に人為的な風穴が空く。

 壁の近くにいた『夜霧』第一部隊の兵士が数人、破片と共に吹き飛んだ。

『気配は感じないけど、イソラたちが助けに来てるはずだから。ユフォンはそこで待ってて』

 念波(ねんぱ)による会話。念話(ねんわ)

 ユフォンに念波の技術はないが、セラはエァンダ・フィリィ・イクスィアにそれを習っていた。

 とはいえ、兄弟子であるエァンダに教育という概念はない。念波という技術の存在と、それによる会話がどんなものかを感覚的に説明されただけだ。だからどうかは不明だが、彼女の念話は強く信頼した相手でなければ通じなかった。そのうえ、念波に関しては念話以外を形にできていなかった。

「ははっ……」

 すでに姿の見えないところでヌロゥとの剣技秘技の応酬をしている愛しき人に、乾いた笑いで返事をしたユフォンだった。

 まあそれでもと、彼女が拘束を解いて行かなかったことにほっとするユフォン。

 仮に自由の身になっていれば、空いた穴や別の道から何事かと入って来た敵たちに、ただちに逃亡の阻止として攻撃を受けていたことだろう。

 訝しんではいるが、彼らがユフォンを監視するだけに留まってくれてなによりだった。

「僕はなにもしてないよ?……ははっ」

 ユフォンはそう口にしたつもりだった。

 それなのに、彼を含めその場にいた精鋭たちの耳に届いたのは、ユフォンの声だが別の言葉だった。

「すごいだろ、俺の爆破のマカと幻覚のマカ。ヌロゥ・ォキャも目じゃないな。ははっ! あ、あとさ、お前たちが見てるのは俺の幽体だよ? 実体はもう縛られてない。さあ、どこにいるかな? 優秀なお前らでも、探せないだろうけどな、ははっ! はははっ!」

 ものすごく勝気な、挑発するような言葉に兵士たちの顔は鋭さを増す。それから一人が、何人かに指示を出す。周辺を確認してこい。

 数人の兵士が出ていく。

 ユフォンは残った兵士たち六人の視線に冷や汗を垂らす。「全然似てないよ、キノセ」と心中を文句で引きつらせながら。

「ぐぁ……」

「ぬぁっ」

 残った兵士のうち二人が唐突に突っ伏した。

 それからユフォンの正面に位置する壁に、キノセの姿と気配が現れた。

「さすがに全員いなくなるってことはなかったな」

 したり顔で指揮棒を顔のそばでちらつかせる。

「まあ、あと四人だ。俺一人で充分だな。かかってこい」

「一体どこからっ!」

 一人の兵士がキノセに斬りかかる。だがキノセは動こうとせず、余裕の表情で壁に寄りかかる。が、不意に訝しんで、敵の刃をギリギリで躱す。追撃に対しても、物体を指揮する音率(おんそつ)指揮法で剣の軌道を僅かにずらして躱す。

「っ! おい、イソっラ! テームっ!」

「「なに?」」

 ヒィズルの二人の声が重なり、その姿を現すと同時にそれぞれ別の兵士を一人ずつ倒していた。残りは二人だ。

「第一部隊相手に、俺に戦わせるなっ……わっ、く……!」

 キノセは数度指揮棒を振るったが、結局今度は敵によって壁に張り付く羽目になった。

「だって俺一人で充分だな、って言ってよ? ね、テム」

「ああ」

「作戦だろっ、んぐ!」

「ふん」兵士が鼻で笑い、剣の切っ先をキノセの喉元に突きつける。「信頼関係はちゃんと築いておくべきだぞ」

「お前ら動くなよ」

 もう一人残っていた兵士が、ユフォンの後ろに回り込み、白刃をユフォンの首にあてがう。

 停滞する空間。

 沈黙を、キノセが破る。

「俺は歌じゃなくて、指揮が専門だぞ?」

「ん?」

「ああ、指揮者と戦うの初めてか。剣を向ける場所、間違えてる」

「うご――」

「ワンテンポ、遅れてるぞ」

 キノセは指先でクイッと兵士に向けて指揮棒を振った。兵士が大きく弧を描いて飛んだ。

「まあ俺くらいだからな、こんなに前線に出て戦う指揮者は」一歩、前に出るキノセ。「慣れてないのも仕方ないさ、気に病むことない」

「動くなっ! こいつの命がないぞ!」

「お前も、テンポがずれてんだよ、かなりな」

 ユフォンに向けて振るわれる指揮棒。すると、ユフォンの拘束が解かれた。そして彼の腰にはいつの間にか、満タンの魔素タンクが収まっていた。キノセが敵の攻撃を避けるふりをしながら、指揮により彼の腰に届けていたものだった。

 首を掻っ切ろうと動く刃の奥が、渦巻くように歪んで見えて、ユフォンの姿が消える。

 すぐにユフォンはキノセの横に膝をついて現れた。

 空を斬ったことで大きな隙を見せた兵士の腹に、イソラとテムの息の合った蹴りが見事に決まった。

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