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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第二章 賢者狩り
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83:目覚めの時は近い

 ~〇~〇~〇~

「こりゃ夢見の民の鱗粉だいな」

 そう言って指先に付けた粉をネモに見せるダルマ。

「夢見の民?」

「だい、稀有な虫人(ちゅうじん)だいね。その背の羽の美しさ故に、売り買い、殺しの標的となり、数を減らした歴史を持つ一族だいな」

「ひどい……」

 ダルマはピャギーを優しく見下ろしたまま、丸々とした指で髭をなでて続ける。

「しかしのぉ、羽への付着、なにより『まぶし鳥』が体調を崩すほどの鱗粉となると、よもやこの世界ではないかと思うほど異常だいな。この民がそれほどの人数を増やし、世界を営んでいるという噂があれば、門外漢といえど、長く生きるわしの耳にも届くはずだいな。いったい、君らはどこから来たんだいね?」

「ギーヌァ・キュピュテですけど…‥『賢者狩り』の手がかりを追って」

「ギーヌァ・キュピュテ……『無機の王』の世界……否、場所について考えるのはあとにしよう」ダルマはネモに目を向ける。「君らは『賢者狩り』を追う連盟の者だったかいね。ならば、賢者たちの目覚めは近いのぉ」

「え?」

「『賢者狩り』が夢見の民ならば、彼らが眠っていることの説明がつくだいな」

 ~〇~〇~〇~



「夢見の民は人を眠らせて、その人の夢から記憶とか技術とかを吸い取るんだって、ダルマさんは言ってました」

 ネモの説明を頭に行き渡らせるようにテムは呟いた。「なるほど……」

「やっぱり夢だったんだ」とソクァムも独り言ちた。

「えっと……幻覚じゃなかったのか?」

 イソラは考えが整理できていない様子で、テムに聞いてきた。テム自身も把握しきれていないが、暫定的な答えを返す。

「今俺たちはネモに起こされたわけだから、夢で間違いない。ただ、その夢が幻覚だったんだと思う。俺たちは起きてると思ってたわけだし。たぶん、ユールはプルサージも眠らせていて、幻覚の力も獲得してるんだ。それを眠らせることに混ぜたのが、俺たちが食らった夢幻だったんだろ」

「じゃあ、プルサージも幻覚だったの? どこかで寝てるの?」

「まあ、寝てるだろうな。でも、起きてもいるだろうな。ここにいたあいつは幻覚じゃなかったと思う」

 テムの発言に思考停止とばかりに、口を閉ざし口角を上げるイソラ。「……ん?」

「ユールは幼すぎる。全部を自分で考えてるとは思えない。傍にプルサージがいて、襲う賢者を選んだりしてた方が納得できる。『鏡磨き』の技術でプルサージを複製して、それを眠らせれば能力は得られるんじゃないかって俺は考えてる」

「んじゃさ」とズィードが割って入る。「賢者たちもなんかわかんないけど、そうやって起こしとけばよかったんじゃないの? そうすれば『賢者狩り』なんて呼ばれないで、自由に動けるんじゃないすか?」

「確かにその通りかもしれない。そうすれば俺たちに証拠を残すこともなかったかも」テムはズィードの考えに賛同した。だが、でもと続ける。。「ミロロ・チュアが襲われたのは六番目だ。その時点で『賢者狩り』の被害は知れ渡ってる。今さら遅いと考えたのかもな」

「は~……なるほど?」

「わかってねぇだろズィード」

「なんだよ、ダジャールだってわかってないだろ」

「俺はわかってるさ」

「へぇ、じゃあどういうことだよ」

「敵は賢者を襲う順番を間違えたってことだ」

「あ、そっか。なるほど」

「……」テムは二人の会話を呆然と聞き流し、ネモに言う。「ネモ、それで賢者たちの目覚めが近いって?」

「あ、はい。まず、みんながただ眠らされてるだけでよかった。もし大声でも起きなかったらこれを使えって、ダルマさんに――」

 ネモは言いながら小瓶を取り出した。その瓶の中には一匹の虫が生きたまま入っていた。

「蜂だ」とアルケンが瓶の中をまじまじと見つめる。

「――蜂起バチ。激痛で眠りから動物を起こす蜂だそうです」

「動物……まあ、人間も動物だしな……その針に刺されればそりゃ起きるわな……ははは」

 テムは蜂起バチが尻から出す鋭利な針を見て乾いた笑を浮かべる。

「いえ、テムさん。この蜂は噛むことで動物を起こすみたいですよ。針の方は猛毒があるから絶対刺されないようにってダルマさんに念を押されました」

「噛む?……いや、まあ起こし方はいいや。本当にその蜂でみんな起きるのか? 疑うわけじゃないけど、今までいろんな方法を試して起こそうとしたんだ。そんな蜂がいるなら、どうしていままで……」

 話している途中で、ネモは申し明けなさそうにテムを制した。

「ごめんなさいテムさん。この蜂はあくまで皆さんがわたしの声でも起きなかった時のためで、夢見の民が力を奪うために眠らせた人を起こすには、ちゃんとした薬があるみたいで。今、ダルマさんが『動く要塞』の科学者のところにピャギーの羽から取った鱗粉を持って行ってくれてます。それで、薬ができるみたいです」

 ネモが言い終わるとわずかな沈黙があって、それからイソラが満面の笑みをテムに向けてくれた。

「お師匠様、起きるんだね! やったねっ、テム!」

「ああ」テムもその事実を噛みしめ、頷く。「今はそれが一番だな」

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