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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第二章 賢者狩り
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82:覚束ない収穫

『碧き舞い花』三周年!

「掴んでたら戦いづらいんじゃない?」

 甘い空間に水を差したのは、ケルバだった。つぶらな瞳が、ヒィズルの二人の間にぬっと入り込んでいた。彼の登場に、イソラは瞳を涙で濡らしたまま、我に返った。

「ぁ……ぁぁ……」

 一瞬の硬直ののち、イソラはテムを優しく突き放した。

「あ、あ、朝だね……そんなに、幻覚の中にいたんだ、あたしたち」

「違うわよ、イソラ」

 イソラはその否定の声に顔を顰めた。「ん゛っ……!」

 否定自体に嫌悪したわけではない。その声の主に嫌悪したのだ。

「ルルフォーラっ」

「いやね、まったく。お目覚めのあなたたちのためにわたしが朝日の幻覚を見せてあげたっていうのに」

 桃色と朱色が交互に入る髪をいじりながら肩を竦める求血姫。はらりと指に巻き付けた髪を解き放つと、辺りは一変。太陽は窓から姿を消し、高々と世界中を照らす位置にあった。

「それじゃ、わたしは行くわ」

 指輪を光らせ、ロープスによって空間に穴を空けると、ルルフォーラはその中へ優雅に手を振って消えていく。最後の一言を残して。

「気付いてるとは思うけど、もうあの二人はこの世界にはいないわよ」

 彼女の言葉通り、イソラにはユールとプルサージの気配を感じ取れない。これが幻覚でなければの話だが。

「ネモのおかげで幻覚の外にいるんだよね?」

 イソラは不安になってテムに聞く。すると彼はイソラには答えず、ネモに視線を向ける。彼もまた虚実がはっきりとしていないらしい。

「イソラさんの言う通り、現実で大丈夫だと思います。戻ってきて、街で寝てるみんなを起こして回った後にここに来たんですけど……イソラさんたちが寝てるだけで、他には誰もいなかったですし。あの女が言ったことも本当だと思います」

「そうか、『賢者狩り』には逃げられたか……」テムは思案顔になる。「まあ正体がわかっただけでも今回は収穫か。あのユールって女の子についてはまだ判然としないところはあるけど、とりあえず今回はここまでだな」

 テムはさすらい義団に顔を向ける。

「みんな、今回は協力ありがとう。あとで連盟から報酬を出すよ」

 ズィードがパァッと笑う。「おおっ、いっぱい飯食えるな!」

 それにダジャールとケルバが同調し、アルケンが「また食べ過ぎで寝ちゃうんじゃない?」と茶化す。

「待てよ、ズィード」ソクァムが団長に真剣な物言いをする。「そろそろ船を買うことも考えろよ。いつまでもクァスティアさんに迷惑かけられない」

「あ、おお! そうだ、船! テムさん、船買えるくらいくれるの? てか、今回の報酬それにしてよ!」

「え? 異空船買うのか、お前たち」

「そのつもりです」とテムにソクァムが頷く。「漂流地からの出発はなにかと不便ですし、クァスティアさんに甘えてばかりというのも申し訳ないですし、それに、座標を決めた移動法では見れない景色もありますから」

「へぇ、いいじゃん。本部長に相談してみるよ」

「ありがとうございます」

「やった!」

 頭を下げるソクァムに、拳を握るズィード。他の男子メンバーもにこやかな表情を見せている。イソラはそんな彼らから、少し距離を置いた妹弟子に意識を向ける。



 楽し気な男子たちを横目に、シァンは自らの感触を確かめるように手を開閉していた。

 夢か幻か、その中での感覚は現実のものだったと彼女は思っていた。少女を痛めつけ、殺そうとした偽りの竜の誇り。それを止めようとした真の竜の誇り。ネモに呼ばれ夢幻から覚めたことで、後者が勝ってはいるが、いつまたあの衝動に襲われるのかと不安だった。

 逆鱗花の葉は危ない。…………逆鱗花の葉が欲しい。

 すっと葉っぱを入れている懐に手が伸びたのを、はっとなって彼女はもう一方の手で止めた。



「あの! ちょっといいですか、テムさん。なんかもう、終わりそうな雰囲気なんですけど、大事なお話がありますっ」

 ネモがまたも意識を自分に向けさせ、そう宣言した。

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