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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第二章 賢者狩り
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69:ダルマ

 ピャギーを連れて戻った『白衣の草原』。ネモのくしゃみについてはすぐに、ィルが薬を出してくれた。だが、ピャギーに関してはィルの預かるところではなかった。人間と動物では領分が違うのだと。

 そうして途方に暮れるネモに、ィルは偉大な獣医のことを教えてくれた。「そう簡単に会いに行ける場所ではないゥ。だからあまり期待を持たせることは言いたくないけどゥ」という本分より長い前置きと共に。

 それが『異常なる自然』に居を構え、異空中の動物を知り尽くした権威、ダルマ・ダル・マーダルだった。

 たった今、ネモは彼が住処とする巨木の洞を尋ねたところだった。

「珍しいだな。こんなところに客とは。普通は死ぬだいな」

 巨漢というより巨人。だが身体から瞳まで丸々とした髭面には優しさが滲み出ている。自身より大きなピャギーを背負ったネモを気遣い、すぐさま駆け寄ってきて軽々とピャギーを手に乗せて運んだ。

「さあ、君もこっちだいな」

 ネモは言われた通りに彼の後ろをついていく。洞の奥には大小さまざまなベッドや檻が余裕を持って置かれている。そのベッドの一つに、ダルマはピャギーを乗せた。

「テングの弟子かいな?」

「いいえ、浸透式呼吸で」

「まはは、やはり変り者に教えを求めるの渡界人くらいなものだいな」

「……あの、それより、そのピャギーを診てもらいたくて」ネモは力ないピャギーを示す。「……動物のお医者さんなんですよね、ダルマさん」

「だい。しっかし珍しいのはこちらもだいな。今はなき虹架諸島の『まぶし鳥』とは。どらどら……」

 ダルマはピャギーの身体をくまなく触診しはじめた。

「ほほう、こりゃこりゃ」

 ダルマはその丸々とした指先に、ピャギーの羽根と羽根の間に付着していた粉をつけてにんまりとした。

「珍しきは続くだいねぇ」



 耐えがたい衝撃に吹き飛ばされた。

 瓦礫で潰れなかったのは幸運か。テムは自分の運の良さをしみじみと思いながら、粉塵まみれの身体を起こす。汚れを払いながら、辺りを見回す。王城が崩落したとして、イソラたちが近くにいるはずだ。無事を確認したかった。そこまで自分が幸運であれと、願う。

「……幻覚の中か」

 イソラをはじめ、ソクァム、シァン、そしてセラに変化したルルフォーラの気配も感じ取れない。

「死んでいるとは考えないの?」

 正面に、唐突におかっぱ頭の少女ユールが、鱗粉の集合体となって現れた。

「悪く考えすぎだって、言われてるもんでね」

 言いながら天涙を構えようとするが、テムは自分が武器を持っていないことに気づいた。衝撃に手放したか。

「これを探してるの、テム?」

 天涙がユールから放られる。

「俺の名前、調べたって線も、プルサージが知ってたって線もあり得るけど……」テムはしっかりと愛刀を掴んでから、ユールに向けた目を細める。「そうじゃないだろ。どういう理屈だ?」

 ユールの姿は音もなくケン・セイの姿へと変わった。右袖がだらりとした師範の姿に。

「ボク、不用意に、口、開かん」

「……もう遅いんだけどさ、容姿も喋り方も本人そのものなんだから、『ボク』じゃまずいだろ」

「だって、ボクは、ボクだから」

「調子狂うな。その姿でボクって……ま、偽物ってわかってる分気心は加えなくていい」

 今度こそ天涙を構えるテム。

「テム、ボクに勝てないっ!」

 二人のヒィズル人は天馬で空へと駆け上がり、刀をぶつけた。



「あなたには二人がかりでいかせてもらいます」

 三重の瞳孔がイソラを捉えているのを感じる。

 大きな爆発のあと、気が付くとイソラの前には二人の気配しかなかった。プルサージとユール。

 周囲には誰一人もいない。

「みんなはどこっ?」

「そろそろ慣れたらどうです? これが幻覚です」

「パパ。本当に二人でやるの? ボク一人でも大丈夫じゃない?」

「いいえ。その心の余裕を突かれてしまうかもしれない。危険な相手であるのに代わりはありません」

「わかった。じゃあ、やろ、パパ」

 ユールの気配が、ピョウウォルのものに変わった。

 すると、瓦礫がイソラに向かってきた。それも一つだけではない、数えきれないほどだ。

 イソラは超感覚が感じ取るままに、それらを躱し、二人の敵へ向かって駆けていく。

「ぅあっ!」

 突然、側頭部に衝撃を受けた。瓦礫が当たったらしい。なにかが飛んでくる空気の揺れなどなかったのに。

「やっぱりボク一人で大丈夫だよ、パパ」

 ピョウウォルの声でユールが言う。イソラがその声の方を睨むと、プルサージの気配が消えた。

「ここからは一対一だね」

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