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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第二章 賢者狩り
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67:合図

 開いた扉の外で、ソクァムはなにがなんだからわからないままだった。

 テムがピョウウォルに切っ先を向けていること。セラがこの場にいること。そしてそのセラにイソラがルルフォーラと言ったこと。セラがイジャスルプをプルサージと呼んだこと。

 なにもかもが全く繋がらない。

 一体なにが起きている。



 玉座までの階段を背にするピョウウォル(もど)きに天涙を向けながら、テムはイソラを横目で見る。自分の感じる限りでは腑に落ちない疑問を確認のために口にする。

「ルルフォーラなのか?」

 イソラは鋭い目つきでセラを睨みながら頷く。「うん。幻覚じゃなくて、変化(へんげ)だと思う」

「完璧なはずなのに……あなたたちのせいかしらね」

 思案顔を見せ、サファイアの瞳を毛むくじゃらと滑らか人間に順に向けるセラ改めルルフォーラ。

「セラお姉ちゃんの顔で喋るな」

 イソラは切っ先をぐっとルルフォーラの首に近づける。求血姫はそれを気にも留めず、口を開く。

「あら、ひどい。現状では目的は似たところにある、言わばお仲間な状況なのに。ちょうどいいじゃない、この姿なら。『賢者狩り』を止めに来たんでしょ? 邪魔をしないのなら、わたしがやっておくわよ?」

 テムが訝しむ。「なに?」

「ねぇ、『無機の王』」セラに扮するルルフォーラは、視線を偽物ピョウウォルに向ける。「いいえ、ユール、だったかしら? わたしの言うこと、聞いてくれるかしら?」

「いやだよ」ユールはピョウウォルの姿のまま反抗的に答える。「ボクはパパの言うことしか聞かない」

「わがままな子。育て方を間違えたんじゃないの、プルサージ?」

 イジャスルプに向けたオーウィンを小さく振るルルフォーラ。

「あなたたちの好きにはさせませんよ、ルルフォーラ。連盟のお友達と殺し合っていればいい」

「そう……」サファイアが冷酷に細まる。「でも最初に死ぬのはあなたよ!」

 碧き花が散った。

 そして。

 そして、血……ではなく、粉末が舞った。その中央をオーウィンが虚しく貫いている。

「わたくしとユールが力を合わせれば、天敵であるその褐色の娘ですら欺けるのですよ? あなたごとき造作もありませんな、ル、ル、さ、ま」

 勝ち誇った声が、玉座の方から。

 三人が目を向けると、玉座の前にぴっちりとした服に瞳だけを出したプルサージ。そしてピョウウォルの姿はなく、蝶のような羽を背中に生やし、鱗粉を漂わせるおかっぱ頭の少女が立っていた。

「あれが…‥まだ十四、五じゃないか」

「あたしたちだって、そのくらいには戦ってたでしょ」

「そうだけど……」

「テムの方が正しい。イソラは楽観的に考えすぎよ。感覚が誰よりも鋭いのに。いい、あの蝶ちゃんはあなたたちの師匠を倒してるのよ?」

 イソラはむっとしてルルフォーラを睨む。

「まあ、言ってるわたしも甘かったわ。今ので上手くいくと思ってたのに……ねぇ、ここは冗談抜きで一緒に戦わない?」

「ふざ――」

「わかった」

 イソラが嫌悪をむき出しにした否定を遮って、テムはルルフォーラの提案に乗った。

「テムっ!? なに考えてるの! ルルフォーラだよ!」

「拒んで逃がすよりいい」テムはイソラを制してルルフォーラに天涙を向ける。「もちろん好きにはさせない。なに企んでるかは知らないけどな、『賢者狩り』を止めて、そのあとはお前だ」

「そのあと、ね。上手くいくことを願ってるわ、テム」

 セラの顔で優雅に笑みを浮かべるルルフォーラ。テムは憎々しく睨み返すと、すぐに扉のところにいるソクァムに指示を出す。

「ソクァム! ()を吹けっ、全員で『賢者狩り』、プルサージとユールを止める! 幻覚に警戒しろ!」

「はい!」

 状況はすべて飲み込めていないだろう、それでもソクァムはテムの指示にすぐに動いてくれた。腰に下げた荷物袋から、角笛を取り出し、大きく息を吸い込むと、唸るようで甲高い音を吹き鳴らした。



 集合がかかった。

「ネモ、いける?」

 シァンはピャギーの元にたどり着いてすぐにソクァムの笛の音を聞いた。

 今の笛の音は集合の合図だが、ネモとピャギーは正常ではない。ネモはくしゃみが行動の邪魔になるだろうし、ピャギーはぐったりとしてそもそも動けない。

「くしゅん……ごめん、ピャギーと『白衣の草原』に戻るわ。ピャギーをィルさんに診てもらって、わたしは薬飲んで戻ってくる」

「わかった。ピャギーをお願いね」



「ん? 集合か?」

 ズィードは角笛の音に垂れた耳をピクつかせて言った。

 すぐに腹を膨らませたケルバが手で空を扇ぐ。

「うっぷ……俺ちょと遅れていく。食いすぎて動けないし」

「だらしねぇな、ケルバ」ダジャールが鼻で笑った。「俺はもっと食えるぞ。どうだ、ズィード。最後まで食い続けてた方が団長ってのは」

「ふっ、じゃあ団長は俺のままだなっ!」

 ズィードはダジャールに対抗して、テーブルの料理に手をつけることを再開させた。



「あーあ」

 アルケンは滑らかな屋根の上で、離れたトリオを見てちろちろと舌を出して呆れて短く笑った。それから王城の方を真剣な顔で見て呟いた。

「ごめん、ソクァム。いけないや。そこが一番に危険なんだよなぁ」

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