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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第二章 賢者狩り
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64:あわない辻褄

 一度、客室にそれぞれ通されたのち、さすらい義団は王城の者をお供に、ギーヌァ・キュピュテ観光へと出かけた。

 イソラとテムは一つの部屋に集まり、ピョウウォルについての話し合いをするのだった。

「もう、テムは悪く考えすぎなんだよ。全然あたしたちのこと警戒してなかったよ。いつも通りのピョウウォルだったじゃん。これで裏切りの線はなしだねっ」

「……」

 勝ち誇ったように言ったイソラだったが、テムが負け惜しみには見えない、深い思案顔で黙り込んだことに訝る。

「なに? 違うの?」

「なんか、引っ掛かるんだ」

「なに?」

「わかんないから、なんかなんだろ」

「言っておくけど、この世界にプルサージの気配はないよ? いくらあいつの気配が小さすぎても、同じ世界にいればわかる。つまりあたしたちに幻覚を見せてるわけじゃない。そもそもあたしにあいつの幻覚は効かない」

「ピョウウォルには効くだろ。無自覚に協力してるかも」

「プルサージが言ってたことに引っ掛かりすぎじゃない? 王様で物を動かせる人が他にもいるかもしれないでしょ、異空は広いんだよ?」

「もしくはプルサージが王を自称してるだけ、か」

「あ、ヴェィルは? 王って呼んでも呪いは関係なさそうだし、どうかな」

「ないな」

「むっ、どうして」

「そもそもこれが『夜霧』の動きなのかもまだ定かじゃない」

「なんで、プルサージだよ?」

「最近は侵略行為は少なくなって、以前より縮小してるから、それがこういうことをやってるからってことも考えられるのかもしれない。けど、そもそもあの山高帽がいま『夜霧』の一員かどうかは疑問だ。倉庫番も果たせず、俺たちに捕まってるしな。襲撃で逃げ出したとはいえ、あれはあいつを助けるための襲撃じゃなかっただろ、どう考えても。確かに情報は漏らさなかったけど、『夜霧』にとってそこまで重要な人間じゃない。幻覚の力ももうルルフォーラが吸ってるし、あの求血姫なら、わざわざ賢者を襲わなくてもあらゆる世界の力を集めることもできるしな。そもそも師匠たちに血を吸われた跡は残ってなかった」

 部屋にわずかな沈黙が下りた。テムが思考を巡らせているのを感じながら、イソラはぱっと思いついたことを不謹慎だと思いながらも口にする。

「ピョウウォルも眠っててくれればよかったのに」

 プルサージが眠らせた賢者たちの力を奪っているのだとして、そのうえでピョウウォルが眠っているのなら、ポルトーの目が見ていた光景はすんなりとイソラたちの中に落ち着くのだ。さらにはピョウウォルが裏切っているかもしれないという、持ちたくもない疑いも捨てられる。

「確かにな、そうすれば辻褄が……いや、そっか、現状でも合うんだ」

 言いながら得心するテムに、イソラは訝る。「なに?」

「鍵が必要なんだ」

「……ルピのこと?」

「ピョウウォルの力にもなんらかの道具が必要で、プルサージの奴はそれを奪えないから、幻覚をかけて協力させているんだ。そして、恐らく幻覚は『月輪雨林』でかけられてる」

「ツキノワジャガー?」

「そう!」ピシっとイソラに指をさすテム。興奮気味に続ける。「ピョウウォルは最近襲われることがあるって言ってたし、今回は二匹とも言ってた。それは――」

「ルピとポルトーって人」

「これならピョウウォルが眠ってなくても辻褄が合う。あとは確かめに行くだけだ。それでツキノワジャガーの頒布地に異変がなければ、ピョウウォルを見張って次の『賢者狩り』の時にプルサージを捕らえる」



 一方そのころ、ギーヌァ・キュピュテ観光を楽しむさすらい義団。

 数人ずつ、もしくは案内人と二人一組となった彼らは、王様という後ろ盾を得て気兼ねなく新たな世界を堪能する。食事、文化、遊戯、買い物等々、思い思いに。

 そんな中、滑らかなる雑踏にシァンは知り合いの姿を見た。

「あ、セラ! おーい! セラも来て……ぁ、ああ、ちょっと、待って」

 セラの元へ進もうとする彼女。しかし声を発した途端、行く手を阻むように動いて見える行き交う人々に邪魔されて近づけない。そうしているうちに、人の波に消えていく麗しい横顔は、ピクリともシァンの方を見ることなく、消えていった。

「あぁ……」

 落ちたシァンの肩に置かれる手があった。

「どうされました、シァン様」

 王から案内人の命を受け、シァンについてくれたイジャスルプという男だった。住人同様につるんとした顔で、にこやかに首を傾げている。

「知り合いが向こうにいたの。でも気づかなかったみたいで、行っちゃった」

「おや、それはそれは。その方はどんなお方ですか? お仲間さんたちでも、城に残ったお二人とは違うお方ですか?」

「うん、セラって言って……『碧き舞い花』って言えば、わかるかな?」

「なんと、そんな馬鹿な。『碧き舞い花』がこの世界に? ありえない」

「えっと……?」

「あ、いえ、実は私、ファンでして。興奮してしまい、申し訳ないです。シァン様の案内をすることになってよかった。急いで追いかければ追いつけるはずです、追いかけますか」

「そっか。うん、じゃあ行こう!」

 シァンはイジャスルプの手を取って、走り出す。さっきは阻んでいるように見えた人波も、今度はするりするりと抜けていく。

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