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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第二章 賢者狩り
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63:ギーヌァ・キュピュテの王

 この出費を連盟は補填してくれるだろうか。

 テム・シグラは自分がギーヌァ・キュピュテになにをしに来たのか忘れそうになった。それほどの金額だった。イソラも出したとはいえ、大半はテムが払うこととなった。よく払えたものだ。

「ソクァム、シァンとピャギーを連れてきて。観光の時間は終わりだ」

「はい」

 ソクァムが飛び立つのを見送り、地面に正座をさせた三人に目を向けるテム。

「で、アルケンは?」

 すんとした顔でダジャールが答える。「チロ舌小僧なら、いつも通り上手く逃げたんじゃねえのか」

「イソラ」

「もう見つけたよ。城の近くだから、行きながら合流できると思う」

「わかった」

「なぁ、テムさん!」ズィードが不満の声を上げる。「なんで俺たちだけこんなきつい座り方で座らせてるんだよ」

「そうだそうだ」

「ネモとイソラさんだって騒ぎ起こしたんだろ。ずるいじゃん、女だからって贔屓してんだ」

「してない。お前たち三人は反省してるように見えないからだ。気持ちの問題だよ」

「俺は確かに反省してない。する必要を感じないからな」ダジャールが涼しげに、他の二人を一瞥して堂々と言ってのけた。「だけど、お前らとは違う。この状況に文句なんてねえ」

「は? なに言ってんだお前」

「ときどきおかしいこと言うよな、ダジャールって。ウケる」

「ふんっ、言ってろ。俺はこれを鍛錬と捉え、お前らより抜きんでるだけだ。小さなことが最後には大きな差をになる。俺はそう信じてる」

「座ってるだけで強くなれたらみんなそうしてるし。なぁ、ケルバ」

「俺は寝てるだけで強くなりたい!」

「あ、いいなそれ。夢の中でも身体動かして修行出来たら、セラ姉ちゃんにもっと早く追いつける!」

「力つけるのに近道なんてないぞ、ズィード、ケルバ。ほら、ソクァムたち戻って来たからもう立っていいぞ」

「はーいっ」

「うーすっ」

「……よし」

 解放に喜ぶ顔のズィードとケルバ、そしてどこか満足そうなダジャール。三人は立ち上がろうとして動きを止めた。

「うぎっ……」

「ふぉお?」

「んにぁっ……!」

 三人は情けない声を上げ、へなへなと倒れ込んむ。ネモがそれを不思議そうにしながら笑う傍で、テムとイソラは当然だろうと肩を竦め合った。

「あ、脚が……」

「変だ……」

「正座…‥すごい鍛錬だ」

 未だに立てない三人の脇に、ソクァムと、シァンを乗せたピャギーが降り立った。

「どうしたんだ、みんな」

 義団の武闘派三人が、力なくふらついていることに、ソクァムは四角い瞳孔の目を細める。その横で少し遅れて地面に降りたシァンが三人を懐かしそうに笑った。

「懐かしいなぁ、あたしも最初はそうだったよ、正座した後は。慣れだよ、みんな。慣~れ」

「じゃあ、行くぞ。遅れるなよ、お騒がせ三人組」

 テムは意地悪く言って、王の居城へ向けて足を向けた。



 事前連絡のない訪問ではあったが、門番たちの対応は見事だった。てきぱきと城内のお偉方に連絡を入れ、確認が取れると、イソラたちは門の中に通された。

 そしてそこにはすでにピョウウォルが出迎えとして立っていたのだ。

 そうして城への道すがら、テムが早々に切り出す。

「突然訪ねてきて悪い、ピョウウォル」

「大丈夫。でもよかった、さっきまで『月輪雨林(げつりんうりん)』に身体を洗いに行ってたから。大変だったんだ、ツキノワジャガーたちに襲われちゃって」

「珍しいな、ちゃんと人との生活圏、区別されてるはずだろ?」

「うん。最近、人のいるところにも出てくるみたいだね。今回だけじゃないんだ、襲われたの」

「身体洗う場所変えた方がいいんじゃないか?」

「心配いらないよ。今回の二匹もだけど、いつも追い払えるから。ボクは強いからね」

「さすがだな、王様は」

「王として、歓迎するよ、テム、イソラ。それと――」

「ああ、紹介するよ」

 テムがにこやかに足を止め、アルケンも含めた義団全員を示す。

「さすらい義団のみんなだ。ピョウウォルは会うの初めてだろ? 今日はこの世界をみんなに案内するために来たんだ」

「そっか。みんな、よろしく。ボクはピョウウォルだよ」

 それぞれが挨拶の言葉を口にする義団の面々。それが終わると再び全員で歩き出す。

 テムは真剣な眼差しで、毛に覆われた王の目を正面に捉えた。

「それと、『賢者狩り』により警戒するようにって伝えに来た。これがここにきた本当の理由」

「そっか。まだ見つからないんだね、『賢者狩り』」

「ルピもやられたの」

 イソラがピョウウォルを脇から見上げる。

「一、二時間くらい前」

「ルピさんまで……うん、伝えてくれてありがとう。テム、イソラ。気をつけるよ」

 雰囲気が重くなる。

 今の王は心の底から連盟の仲間を思っている。イソラにはそうとしか思えなかった。嘘はなく、テムの疑いは間違いだと確信が持てた。

 と、ここでピョウウォルは雰囲気払うように手を叩いた。そして明るく言う。

「今日はみんな泊っていって。観光するなら、城の人を案内人につけてあげるよ」

「あー……」ネモが申し訳なさそうに小さく手を挙げた。「ありがたいんですけど、お金が……」

「……」

 毛むくじゃらの王はキョトンとして、顔中の毛を小さく揺らした。それからわしゃっと笑った。

「心配しないで。ボク王様だから、お金たくさん持ってる」

 その言葉に、ネモをはじめ、お騒がせ三人組の心が躍った。それに隠れて、テムとソクァムが小さく溜息を吐いたのも、イソラはしっかりと把握していた。

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