58:行方
時は少々遡り、エァンダとサパルの前にコクスーリャが現れた頃。
彼は突然の光の中にいた。
これが世界が壊れたということなのかと、ユフォン・ホイコントロは思った。
シャツの装いで、縮んだ身体。幽体だ。死んでも元の大きさじゃないのかと、彼は小さく「ははっ」と笑った。
「ユフォン」
不意に名前を呼ばれ、その方向に顔を向ける。そこには手の平にガラス玉と、脇に禁書『副次的世界の想像と創造』を挟んだフェズルシィ・クロガテラーがいた。大層な疲労顔だ。
「これが、ホワッグマーラ、そして本」
言いながら二つの持ち物を押し付けられ、ユフォンは当惑しながらも受け取る。
「雲の奴は先に吹き飛ばした。あとはお前の幽体だ。……ヒントくれたセラも、お前のためにも出してやりたかったけど、見つからなかった……悪い…………。ホワッグマーラを頼んだからな」
「ちょ、一体どうい――」
言っている途中に、大きな力を受け、ユフォンの身体は光の中から弾かれた。
なにが起きているのさっぱりわからないまま、衝撃に幽体を消さないように気を張るユフォン。身体の自由が利くようになって、浮遊感の中、彼が目にしたのは、白くて黒い、黒くて白い、異空間だった。
「どういうことなんだい、フェズ……」
漂いながら、託されたガラス玉と禁書に目をやる。
禁書については理解が及んでいる。この中に、自身の実体やヒュエリ、それから避難した人々がいる。ユフォンならば、いつでも出すことは可能だ。それで避難が本当の意味で完遂されることになる。
では、ガラス玉は?
ユフォンは親友の言葉を思い返して呟く。
「これが、ホワッグマーラ…………ははっ、まさか。いくらフェズでも、そんなこと……神様が作り出した鍵じゃあるまいし………………ははっ」
ユフォンは苦笑から一転、表情を締め、ぐっとガラス玉を握りしめた。
「任されたよ、バケモノ」
異空を漂う者が、他にもいた。
ユフォンに先んじて、青雲が流れていた。
気を失い、成されるがままに。
そうして、どこかの漂流地に流れ着いて、住民に揺り起こされる。
真っ青な瞳が半開きになって、どこか白んで虚ろだ。
「おい、大丈夫かいや」
住民の声に、男は吐息を漏らす。
「名前、言えるけ? あ?」
「名、前…………」
「そうだ、名前け、名前がいえりゃ、ひとまず安心だけんね」
「…………ロク……マルニ」
「ロク・マルニけ、おっしゃ、わかった! ロク・マルニ。おらが運んだるけ、安心せいね」
ロク・マルニは安心したように瞳を閉じた。
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ――――――。
ツーーーーーーーン――――――。
カチャ、チャ、カチャン、カ、カチャン、ツン、ッチャ、カチャ――――――。
ドゥォォォォン――――――。
水晶に飾られた耳に、微かに音が届く。