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碧き舞い花Ⅱ  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳:御島 いる
第一章 ホワッグマーラの変
56/387

55:覇王の指は一度鳴る

「随分粘るねぇ、お兄さん。舞い花ちゃんが幽霊になっても困るし、この世界から幽霊の存在を消してるんだけど。やっぱりあれかな? 帝が『それ』の力で呼んだから特別に強く結びついてるってことでいいのかな」

 ビズラスがセラを抱きかかえながら睨む先、自らが空けた穴から空へ向かっていくズーデル。

「最後まで見届けてあげたいんだけど、俺も早く新しい世界に行きたいんだ、ごめんね。兄妹仲良く、死んでよ」

 そう言って空高く、青空に青雲のマントを溶け込ませると、飛び去った。

「……」

 視線を妹に向ける。

 抱く手が、輪郭を失いはじめていた。気を張ってどうにかなるものではなさそうだ。

 このままここで妹の死を悼んで、消えるのを待つだけ。

 それでいいはずがなかった。

 自身が消えれば、妹は地下深くで眠り続けることになる。世界が壊れればそんなことは関係ないのかもしれないが、そんなことは許せなかった。

「ドルンシャ、ごめん」

 命を捨ててまで頼ってくれたが、ズーデルを止めることはできなかった。

 まだ間に合う?

 駄目だ。セラを奪われた失意は大きい。戦いに向かう意思などなかった。

 ズーデルの言葉に従うのは癪だが、家族と死んでいくことを選ぶ。

 穴を見上げるビズラス。

 幽霊でなければ、アズにでも跳んだのだろう。

 せめて地上へと、黄色い花を散らした。


 彼が選んだのは、竪琴の森だった。



「あれ、どうしたのフェズ?」

 俯いたフェズは上からの呼びかけに、顔を上げた。小さなユフォンも彼に倣った。

「ズーデル……」

 答えたのはフェズでもユフォンでもない。もちろん、気体人間ヒャリオでも。

 ボリジャーク帝だ。意識が戻ったようで、覚束ない足取りで、ズーデルの下へ歩んでいく。

「ことは、成したのか、覇王よ」

「ああ、ボリジャークいたの? いなくてもよかったんだけど、いるなら聞いていいよ」

「?」

「フェズ、約束なんだけど。君をこの世界から出してあげるってやつ。あれさ、なしで」

「……」

 フェズはなにも言わなかった。

「いいよね? ほら、舞い花ちゃんをよろしくって言ったけど、結局俺の方来ちゃったし。先に破ったのは、君の方ってことで」

「約束は往々にして破られるものだ」

 ズーデルに言ったかのように思われたが、ユフォンの耳には続きが小さく聞こえた。「な、ズィプ」と。

「おお、わかってくれるんだ。じゃ、そういうことだから、君を愛した世界と、眠ってね」

 手を顔の高さまでもってくるズーデル。

「おい待て!」

 そんな彼に向かって叫んだのはボリジャーク。すごい剣幕でズーデルを睨み上げている。ズーデルは動きを止めて、ちらりと無言で見下し返した。

「俺たちはどうなる! 皆を集めて一緒に新世界へ移るはずだろっ?」

「ふっ、く、ははははははっ! ばっかだねぇ、そんな必死になっちゃって。それとも頭がいいから感付いちゃったのかな? 自分たちはここまでだってさ」

 ボリジャークの顔に絶望が張り付いたのをユフォンは見た。

「最初から世界を作るのに、この空にいる人間を連れていくわけないでしょ? ま、ここまで協力してくれたのは感謝してるよ、ありがとう。そして、バイバイ。これが新世界へと旅立つ俺への祝砲、そして偉大な世界への感謝の礼砲になる」

 ぱちん――。

 指を鳴らした青雲覇王。それで終わりだった。

「図ったな、小僧ぉ!」

 ボリジャークの叫び。

「やめろおぉぉ!」

 ユフォンの叫び。

 天に伸びるフェズの手。

 それがユフォンの耳と目が捉えた、最後の光景。


 この日、異空からホワッグマーラという世界が消えた。



 ~〇~〇~〇~

「終わりに向かってる世界とは思えないな」

 ぽろん、ぽろんと音を奏でる木々に囲まれた爽やかな空間。ビズラスは跳んだ先に人がいたことに目を瞠った。そして零す。

「セラ?」

 ~〇~〇~〇~

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